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第6話 ショート動画の怪(5)

「はあーっ。やっぱチョコフラぺチーノだよね!おいしー」


 落合の端整な顔立ちがチョコフラペチーノを前に柔らかくなる。飲み物を飲んでいるだけなのに何だろうこの眩しさは。


「何あの子、格好よくない?」「デートかな?羨ましい」なんて当てずっぽうな周囲の声が聞こえてくる。その人達に私は声を大にして否定したかった。どちらかというとアイドルに付き従うマネジャーみたいな気持ちだ。早く飲み物を飲んで店から出よう。私は急いでアイスコーヒーをのどに流し込んだ。


「文香、コーヒーなんて飲めるの?無理してない?苦そうな顔してるけど」


 落合は私が注文したアイスコーヒーを尊敬の眼差しで眺める。苦そうな顔をしているのは落合とカフェに行くという状況が飲み込めないだからだ。さっさと家に帰ってひとりで心霊動画とにらめっこするつもりでいたというのに……。

 帰ろうとしたところを落合に捕まり、半ば強制的にこのカフェに連行された。友達とカフェなんて何年ぶりだろう……。なんとなく落ち着かない。


「あの動画に映ってた子。生贄にされた子かもしれない。着物を着て昔の人っぽく見える。それがどういう訳か佐野さんに付きまとってる……」

「なんでだろうね。ひかりが動画を撮って楽しそうだったからかな?」


 太めのストローをくわえながら落合が首を傾ける。呑気な発想に私はため息を吐いた。


「そんな風には見えないけど。この視線、妬んでいるように見える」


 私は落合が教えてくれた佐野さんの動画をスクショした画像を見下ろす。私は生贄に選ばれ死んだのに、現代に生きているお前達はそんな事実も知らずにのうのうと生きて……と言っているように解釈できなくもない。


「そうだとしたら他の生徒達の写真と動画にも映ってそうじゃない?」


 落合の言う通り。もし学校がある場所、『土地』に問題があるのなら佐野さんにターゲットを絞る理由が分からない。


「心霊現象が個人に集中している場合、本人に原因がある場合が多い。例えば禁域に立ち入ったとか、慰霊碑、祠といった神聖なものを壊したとか……」

「じゃあもっとひかりに話を聞いた方がいいんだね。私、聞いてみるよ!」


 落合がにこやかにやりたくない仕事を引き受けてくれる。落合のこういうスマートなところが王子と呼ばれる所以なのだろう。私は黙って落合の申し出を受け入れた。


「私は理事長から『三矢祭』と生贄について詳しく聞いてみようと思う」

「え?文香ひとりで大丈夫?」


 心配そうな落合の表情を見てなんとなく察した。私のコミュニケーション能力では不安だと言いたいのだろう。私はじっとりとした視線を向けながら答えた。


「友達いなくても雑談ぐらいはできるから。それに先生とか大人との会話の方が得意だし」

「そっか……なら安心」


 流し目気味に微笑みを浮かべる落合の表情にドキッとする……ことはなく私は眉間に深い皺を寄せた。すぐに王子を演じるのをやめてほしい。


「……私のこと友達がいなくて話が下手なやつだと思ってたんだ」

「わあ~。ごめんっ!だっていつもひとりだし……。理事長の前で固まっちゃったらどうしようと思って。でも文香って案外面白いから大丈夫だね」

「私、面白くしてるつもりないんだけど」

「そういうところが面白いんだって!」


 何が楽しいのか。その後も一方的に落合が笑って、下らない話をして心霊現象解明会議は終わった。私はカフェを出てどっと疲れを感じる。憑りつかれたわけでもないのに肩が重たい。人と一緒にいるのは体力を使う。

 家に帰ったら改めて佐野さんの投稿した動画や写真を見直す必要がある。もしかしたら心霊現象のきっかけとなるものが見つかるかもしれない。



「すみません……。理事長とお話できたりしませんか」

「理事長と?どうして?」


 私のクラス、1年B組の担任、駒井唯華こまいゆいか先生が訝しげな表情を浮かべる。ソプラノの声が耳に心地よい。私の方を向いた瞬間にフラワーフレグランスの香りが香る。ふんわりとカールしたロングヘアにパステルカラーのスカートとシャツといういかにも女子校の先生という先生だった。


「昨日の集会で話していた地域史の話に興味を持ちました。詳しくお話聞きたいと思いまして……」


 教師が生徒の知的好奇心を否定するはずがない。駒井先生は両手を合わせて喜んだ。


「そうなの!藤堂さんは歴史が好きなのね。分かった。今日も理事長いらっしゃるはずだから……先生から話してみる」

「ありがとうございます……」


 ちょろい先生だなと思いつつ、頭を下げると駒井先生は楽しそうに言った。


「安心しちゃった。藤堂さん、学校生活楽しんでるみたいで」


 予想外の言葉に私は眉間に皺を寄せた。自分で言うのもあれだが私の学校生活はかなりちゃんとしていると思う。目立ったことはせず静かに過ごしているのだ。先生を心配させることなど何もないと思っていた。


「藤堂さんひとりでいることが多いから。落合さんとお友達になれたみたいで良かったわ」


 私は絶句した。まさか先生から自主的にぼっちでいたことを心配されていたとは。それにしても王子のことを友達認定されるのはいただけない。周囲に誤解を招いて面倒なことになる。

 私は低く、絞り出すような声で否定した。


「あの……友達じゃないです」

「照れちゃって!ふたりとも仲良さそうじゃない」


 駒井先生がうふふと上品に笑った。それ以上否定しても信じてもらえそうもないので私は渋い表情を浮かべたまま職員室を後にする。


「え?放課後千代子ちゃんに会うの?」


 今日もちゃっかり私の隣でお昼ご飯を食べていた落合が悲鳴に似た声を上げた。理事長のことを千代子ちゃんと呼ぶとは。王子は怖いもの知らずである。


「うん。祭りについて詳しく話を聞いてこようと思って」

「うわーっ。バレーボール部にミニゲーム付き合ってくれって言われててさ……」


 がっかりする落合を横目に私は心の中でガッツポーズをする。やっとひとりで行動できる。


「分かった……。終わり次第すぐ向かう」

「え?いいよ。私が聞いておくからっ……」


 私の両肩をがっしりと掴む。周りの生徒達から黄色い悲鳴が上がった。


「すぐ行くから」


 そんな良い顔で言わなくてもいいと思う。私は真顔で王子の直射日光を浴びていた。


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