第14話 ナナシさんの怪(2)
「あっ。C組の芽衣でしょ?どうしたの?」
「えっと……」
まさか隣のクラスの子まで名前を知っているとは。落合の交友関係の広さに私は頭を抱えた。自分の名前を呼び掛けられた依頼主は戸惑った様子で落合のことを見上げている。落合の整った顔を間近に見てほんのり頬が赤くなっていた。
「心霊現象に詳しい人に聞いて欲しいことがあって……」
芽衣という生徒の困り果てた表情を見て落合が断るはずがない。
「積もる話になりそうだから昼休みにまた来てよ!私と文香が話聞くから!というか一緒にお昼食べよ!」
勝手にお昼の約束まで取り付けられてしまった。なんとも恐ろしいコミュニケーション能力とお節介力だ。芽衣さんはぺこりと一礼するとそのまま隣の教室へ帰ってしまった。
「何でまた私を巻き込むの?」
恨みたっぷりに落合を睨み上げると落合は悪戯が見つかった子供のように笑う。
「だって~困ってそうだったじゃん。ほっとけないよ。それに文香がいれば解決してくれるでしょ」
お気楽な落合の思考に私は深いため息を吐いた。いつもの正義のヒーロー思考に呆れる。『心霊現象考察サイト』のネタにもなるからいいかと考え直した。
「あの……私、一年C組の棚上芽衣と言います。部活は……茶道部に所属しています。突然押しかけてすみません……」
そう言って棚上さんは丁寧に頭を下げた。落合の誘いを受け、棚上さんは一年B組の教室にお昼を食べにやって来た。
私、落合、棚上さんという謎のメンツが揃っていることでクラスメイト達が遠巻きで何事かと様子を伺っていた。
礼儀正しく来られてはこちらも拒むことはできない。私は咳払いをすると自己紹介をする。
「私は一年B組の藤堂文香です。特に部活には所属してません。図書委員です……」
「もお~ふたりとも固くない?同学年なんだからタメでいいでしょ?私は落合美織。生徒会のあらゆる部活動の応援要員!」
顔が広くて必要ないはずの落合の自己紹介の声がいちばん大きかった。購買で買って来た焼きそばパンを頬張り始める。ソースのいい香りが広がった。
「落合さん、お茶会の時はありがとうございます。土曜日だったのに……。先生も喜んでました」
「いやいや。役に立ったなら良かったよ。お菓子もお抹茶も頂けたから得した気分だったけど」
「落合さん、茶道部にまで参加してんの?」
私は驚いたように落合のことを見た。まさか落合のお節介が文化部にまで及んでいるとは。
「まあね。頼まれれば吹奏楽部の楽器演奏もできるよ。トロンボーンとパーカッションぐらいしかできないけど」
「落合さんって本当になんでもできて……。すごいですよね」
「そんなことないよ」
棚上さんの誉め言葉に落合は頭を掻く。私は度が過ぎるお節介を目の当たりにして更に呆れた。落合に関してはできないことを探す方が大変そうだ。そんなことよりも休みの日まで他人の手助けをするなんて……どうかしてる。
「それで?相談って何?」
私は弁当の白米を食べながら本題を切り出す。棚上さんは姿勢を正すと恐る恐る切り出した。
「最近……私がいつも一緒にいるグループがひとり多い……気がするんです」
私と落合は思わず顔を見合わせる。相談しにきた棚上さんも訳が分からないというように首を傾げていた。
「すみません。私も相談しておいてよく分からなくて……。でも何かずっと違和感があって……」
「いつもは何人なの?」
落合の問いに棚上さんは一瞬、困惑した表情をうかべながらも答える。
「私を入れてよ……じゃなくて三人です。でもなぜかひとり多い気がして。それが誰だか分からないんです」
奇妙な話だ。そんなことあるんだろうか……。大人数でもないのに人数が分からなくなるなんて。
「写真とか撮ったりした?」
棚上さんはブレザーのポケットからスマホを取り出す。
「はい。同じクラスで同じ部活なので……。ええっと……この写真なら三人映ってる。右から私、真ん中が加河悠乃、左が新谷英麻です」
背後に何かいる……ということはなく、三人ともいい笑顔でカメラに向かってダブルピースをしている。何も変わったところはないように思えた。撮影場所はC組の教室のようだ。
「どういう時に四人だって気が付くの?」
落合が焼きそばパンを大口で頬張りながら聞く。
「そうですね……。例えば教室でお菓子を食べている時に五個入りのお菓子を配ったのにひとつしか残らなかったり、プリントが一枚余分にあったりするんです。それとなんとなく三人で並んで歩いているのに四人いるような気もして……」
棚上さんも持ってきた弁当を食べながら不思議そうな表情を浮かべる。
「不思議だね~。これってどういうことなの文香」
落合がきりっとした顔で私に視線を向ける。少しは自分で考えたらどうだと心の中で文句を言ってみる。
「さあ?情報が少なすぎてなんとも」
正直見当がつかない。東雲女子校で亡くなった子なのかそれともこの三人に関係する人物なのか……。あるいはオオムカデのように地域に関係した怪異なのだろうか。いずれにしても詳しく調べる必要がある。
「ですよね。私も訳が分からないのに……。ごめんなさい」
「他に何か変わったことは?」
私の問いかけに棚上さんは唇を噛み締める。何かを躊躇っているようだったが意を決したように口を開いた。
「一度だけ階段で……誰かに押されたような感覚がした時がありました……」




