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『ともだち』

 突然現れたナゾのおっさん。

 こんな森の中をハダシで歩いてるなんてオカシイだろ。

 発光虫が人間に変身したとか?

 いや、そんなの有り得ない。

 でもティルダに熱があるって言い当てた時は一瞬ゾクッとした。



「ティルダ、にげるぞ」


「うんっ」



 オレはいそいでティルダを横向きに抱きあげておっさんに背を向けた。

 


「待って待って! 薬湯出すから行かないで!!」


「おい! くっつくんじゃねぇよ!!」



 やめろって! ティルダが落ちるだろ!

 でもおっさんはオレの足にひっついて泣きだすからもうどうする事もできない。



「わかった! わかったから放してくれ!!」


「やった! ありがとう!!」



 何だよこのやりとり、調子が狂う。

 世の中にはこんなへんな大人もいるのかよ!

 ようやく泣くのをやめたおっさんは、服を軽くはたくとキレイな顔で笑ってみせた。



「僕の名前はロウハ。 ここにずっと住んでるんだ。 君達は?」


「……オレはカイ。 で、こっちはティルダ。 おい、ティルダ? 大丈夫か?」



 どうしよう、顔が真っ赤だし息も荒くなってる。

 急がないとヤバいかも!

 するとロウハさんはランプを掲げて道を照らした。



「こっちだ。 ついておいで」



 あれ、明かりの向こうに小さな丸太小屋が見える。

 あんな近くに家なんかあったか?

 カーサさんもこの辺りには宿も家もないって言ってたのにおかしい。

 やっぱり胡散臭いなこのおっさん。

 

 どちらにせよティルダの看病が先だ。

 オレは仕方なくロウハさんの後をついて行った。









 小屋に着くなりロウハさんはティルダをベッドに寝かせ、薬湯を飲ませてくれた。

 おかげでティルダの顔の赤みが少し引いた気がする。

 気持ちよさそうに眠ってるからきっと大丈夫だ。


 

「これで心配いらないよ」


「……ありがとうございます」



 ……オレがムリさせたのかもしれない。

 何となくベッドから離れたくなくて立ってたら、ロウハさんが『ミルクでも飲む?』といって食卓の方へと案内してくれた。






「いやぁ人と喋るなんていつぶりだろう! ゆっくり寛いでね!」


「……はぁ」



 さっきまで静かだったのは病人(ティルダ)がいたからか。

 出来たて熱々のホットミルクをはさんで向き合ってんのに、なんか酒飲みに絡まれてるみたいだ。

 なんて思われてるとも知らずにロウハさんは前のめりでオレに話しかけてくる。



「待って待って、敬語なんて止めてさっきみたいに話してよ。 子どもの獣人なんてなかなか出会えないから色々話を聞かせてよ!」



 まぁ確かにランタッベルには獣人は住んでないもんな。

 一先ず落ち着こうとオレはホットミルクを一口飲んだ。

 ん、ちょっと甘くておいしい。

 何だか肩の力が抜けた気がした。

 早く身長伸ばしたいし牛乳はありがたい。



「ティルダちゃんだっけ? かわいいコだね。 みんなが好きになるのもわかるなぁ」



 ロウハさん、随分とうれしそうに話すけどみんなってだれのことだ?

 もしかしてほかにも隠れてるのか?



「違う違う! 大丈夫だよ、ここには僕しかいないから! そんな目で睨まないでよ!」


 

 ウソだろ、なんで考えてることわかったんだ?

 ……やっぱりこのおっさん胡散臭い。

 ホットミルクを飲みつつオレはロウハさんから目をそらした。



「で、獣人の君がここにいるって事はやっぱりフカルクに行きたいのかな?」



 おいおい、ニコニコしながらいきなり核心ついてくんなよ。

 ……まぁ誰がみてもそう思うかもな。

 よし、ここは慎重にいこう。



「そうですけど、ロウハさんこそ何でここにいるんです?  ここには人は住んでないって聞きましたけど」


「僕? もしかして僕の話聞いてくれるの?!」



 うわ! さっきよりも前のめりじゃねぇか。

 この威圧感、ぜったいに聞かなきゃダメなヤツだろ。

 


「ティルダが起きるとこまるからしずかに話してくれるなら……」


「勿論だよ! はぁ……やっと身内以外の人に聞いてもらえる……!」


「友達とかいないんですか?」


「友達ねぇ……いないなぁ……。 ね、良かったらカイが友達になってよ!」


「オレが?!」



 待ってくれよ、そんなキラキラした目で見るなよ! 

 断れねぇだろ!

 オレは目を泳がせつつ小さく返事をした。



「別にいいですけど……」


「ホント?! やった! 友達第一号〜!!」



 おい、第一号ってどういう事だ?!

 いい大人が小躍りしてまで喜ぶなよ!

 といってもオレも友達って呼べるヤツはいない。

 まぁ……どうせ今だけだ。

 深く考えないでおこう。


 

「で、ロウハさんは何でこんな所にいるんです?」


「実はね、奥さんに逃げられちゃったんだよ……」



 え? 想像以上に重い話がきたぞ?



「……にげられたって、浮気でもしたんですか?」


「ちがうよ! 僕は奥さん一筋さ! でも『束縛がすぎる』ってケンカになっちゃって……フカルクに行っちゃったまま帰ってこないんだよ……」



 ランタッベルじゃなくてわざわざフカルクに?

 余っ程顔も見たくないってことか?



「束縛ってなにやったんですか」


「彼女、何でも出来ちゃうからすぐ一人で頑張っちゃうんだよ。 だから手伝おうとしたら『邪魔しないで!』って怒られちゃって。 だったら無理やり休ませようとしたら逃げられちゃったんだ……」



 ……うっとうしかったんだろう。

 とは絶対に言えないから、とりあえずさめざめと泣いてるロウハさんの背中をポンポンと叩いた。


 

「もしかしたら気持ちを押しつけすぎたんじゃないですか? あやまったらいいんじゃないですか」


「……会ってくれないのにどうやって?」


「…………手紙を書くとか?」


「手紙か……」



 あれ、たかが手紙なのにすごく真剣になやんでるみたいだ。

 そんなに悩むことか?

 まさか書くことが思いつかないとか?

 そんなの『ごめんなさい』で良いんじゃないのか?


 ぬるくなったホットミルクを飲みながらまってると、ロウハさんがイスを倒すいきおいで立ち上がった。



「よし、やってみるよ!」



 おぉ! やる気になったみたいだ。

 コレでなやみは解消か?

 だとしたらとにかく一安心だな。


 

「じゃあ書けたらカイに渡すから、届けにいってもらえるかな?」


「え?」



 そこで何でオレがでてくるんだ?



「だってフカルクに行くんだろう? だったら彼女を探して手紙を渡してきてよ!」


「いや、オレも先を急いでるんですぐにはムリですよ。 そもそもフカルクに行く方法もまだ見つかってないし……」


「彼女ならこの壁向こうにいるはずだからすぐ見つかる筈だよ。 国境問題も僕が解決してあげる!」



 何でそこまでわかってるのに自分で行かないんだ?

 大人ってそんなもんなのか?


 

「僕達友達だろう……?」



 ゔっ、そんな目潤ませてオレを見るなよ。

 まさか端からコレが目的だったのか?

 でも聞いてしまった以上やめるとも言えないし……。



「勿論渡してくれたら僕もカイの一番の願いを叶えてあげる。 それじゃダメかな?」


「……わかった」


「ありがとう! じゃあ早速今夜書いてみるよ!」



 大人なのに子どもみたいにはしゃぐロウハさんを見てちょっと肩の力が抜けた。

 いや『疲れた』だな。

 後でティルダが起きたら話さなきゃだな。

 でも聞いたら『絶対見つけよう!』っていうんだろうな。



「どうしたんだい?」


「いえ、ティルダになんて言おうかと思って……」


「それなら大丈夫。 ティルダちゃんには僕から言っておくから安心してフカルクに行っておいでよ」


「え……?」


「え? まさか一緒に行くつもりだったのかい?」


「はい。 熱が下がったら……」



 するとロウハさんが眉を寄せた。



「ティルダちゃんはランタッベルの王女だろ? 勝手にフカルクに連れて行ったら間違いなく問題が起きるよ。 とても危険だ」

 


 ロウハさんの言葉に全身からサァッと血の気が引いた気がした。


 ティルダの事、どこで知ったんだ?


 いや、それ以上に現実を叩きつけられた気がした。


 兄上を助けたくてティルダを連れてきたけど、ロウハさんの言うとおりティルダは王家の人間だ。

 いくら不義の子でも、『いらない子だから』って言葉で言い訳しても、大丈夫だって見て見ぬフリしても、問題は間違いなく起こる。

 

 どうしよう、今さらになって足が震えてきた。



「カイ、大丈夫だよ。 ティルダなら僕がここで預かっておくから」



 さっきまで大人にも見えなかったロウハさんが妙に頼もしく見えてしまった。

 それでもものすごい速さで心臓が鳴ってて息苦しい。


 どうしたら、どうしたら良いんだ?

 どうしたら兄上を救えるんだ?

 どうしたら、ティルダを守ってやれるんだ?

 ここまで来て迷うんじゃねぇよ、オレ。

 しっかりしろよ!


 ……ダメだ、頭の中がぐちゃぐちゃで泣きそうになってきた。



「カイ……、一人で行っちゃうの?」



 すると寝てるはずのティルダが水色の瞳を潤ませて部屋の入口に立っていた。

 

 


   





 

 

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