へんなお兄さん
私たちはカーサさんの馬車に乗って二日旅をして、国境前の森にやってきた。
いつもなら『けんもん』というところを通っていくみたいだけど、話してたとおり門が閉じてあって通れなくなってた。
だからカーサさんともここでお別れだ。
「二人とも気をつけて行くんだよ。 またこっちにきたら遊びにおいで。 歓迎するよ」
「「ありがとうございます!」」
私たちは深く頭を下げてカーサさんの馬車を見送った。
たくさん優しくしてもらったからちょっと淋しい。
「……いい人達だったね」
「そうだな」
国境をこえるためにカーサさんたちから新しいお洋服と靴、それとリュックをもらった。
リュックは帆布でできてるから丈夫なんだって。
中にはお薬やお洋服やパン、ちょっとだけお菓子も入ってる。
お屋敷を出るときにマリアさんが『気をつけてね』ってギュッとしてくれた。
まるでお母さまみたいにあったかくて、すごくうれしくて、ちょっと泣いてしまった。
となりにいたカイも、少しさみしそうな顔をしてた。
「そろそろ行くか」
「うん」
ここからは自分たちの足で進むんだ。
でも二人だからきっと大丈夫。
私たちは『けんもん』を通らなくていい道を歩いてさがすことにした。
◇
前に歩いた森よりもちょっと歩きやすいけど、国境の壁はとてつもなく大きくて長くてビックリした。
「そういえばカイはどうやってこっちにきたの?」
「オオカミになって荷物にまぎれてきた」
「変身できるって便利だね!」
「まぁな。 でも途中でみつかって剣持ったおっさんに追いかけ回されたけどな」
はじめはなんでもない話ができるぐらい元気だった。
でもいくら歩いてもカベ、カベ、カベ。
全然抜け道が見つからなくて、お菓子を食べてもおしゃべりする元気がなくなっていった。
お日さまもしずんできて森がどんどん暗くなってきたから『休もうよ』って言ったけど、カイは『もう少しだけ』って言って全然止まってくれなかった。
きっとあせってるんだ。
このままフカルクに戻れなかったらどうしようって。
そして私はどんどん暗やみに吸い込まれていくみたいでこわかった。
とうとうまっ暗になってしばらくしたら、なんだかクスクスと小さな笑い声が聞こえた気がした。
私はあわてて前を歩いてたカイの手をにぎった。
「どうした?」
「ねぇ、何か聞こえない……?」
そう言ったらカイがフードを外して耳を立ててまわりを見回した。
「べつになんにもないけど」
「そう……?」
耳がいいカイが言うんだからきっと人もいない。
でもやっぱり話し声が聞こえる。
どうしよう、すごくこわい……。
「大丈夫か?」
私はカイの腕にしがみついてブンブンと首を横にふった。
「おい、熱あるんじゃねぇか?!」
「え……?」
額にさわるカイの手がひんやりとしてて気持ちいい。
たしかに体熱いかも。
さっきまでなんともなかったのになんでだろ。
じゃあさっき聞こえてたのって『げんちょう』っていうのかな。
うわぁ、頭も体もフワフワしてきた。
「なんでもっと早く言わなかったんだよ!」
「だって今気づいたんだもん……」
「ったく……、すぐ休めそうなところ探すからがんばれ!」
するとカイは私をおぶって森の中を走り出した。
私の荷物もあるのにカイはホント力持ちだ。
「早く行きたいのにごめんね……」
「いいからだまってろ」
「置いてってもいいよ……?」
「んなことするか! お前もいっしょに行くんだよ!」
「……うん」
怒ってるけど背中があったかくてホッとする。
カイ、だいすき。
だからおねがい。
早く、早く見つかって。
カイをフカルクに連れて行って。
そんなことを考えながらウトウトしてたら急にカイの足が止まった。
「……どしたの?」
「なんかさっきから光が飛んでるんだよ」
「光? あ、ホントだ……」
うっすらと目を開けたらまっ暗な森の中を小さな光がいくつもフワフワ飛んでいた。
一、二、三、四、五……、 十?
ううん、何だかふえてきてる!
「発光虫……かな」
「『はっこうちゅう』?」
「夜になると光る虫がいるんだ。 でもこんなにたくさん飛んでるのは初めて見たな」
「へぇ……、虫さんすごくキレイだね」
発光虫さんがたくさんいるおかげでまっ暗な森がちょっと明るくなった。
何だかふしぎな世界に来たみたいだ。
「ねぇ、つかまえたい」
「熱あんのにムリだろ」
「じゃあカイが取って」
「お前背負ってんのにムチャ言うなよ」
するとまっ暗な方からガサガサ!って大きな音がした。
ビックリして私たちは体を縮めてジッと目を凝らした。
「あっれー?! 何かと思ったら子どもじゃないか!!」
夜なのにまるで『おっはよー!』ぐらいに元気な声だから目がさめちゃった。
出てきたのは真っ白で腰まで長い髪を後ろでくくった、キラキラしたカッコいいお兄さん。
森の中なのにサスペンダー付きの黒いズボンに白シャツ姿だから木こりさんかな。
でもハダシだ。
何でだろ、寒くないのかな。
もしかして発光虫さんがお兄さんになったとか?
とにかくよく分かんない人がでてきちゃった。
「おや、女の子に獣人の子……、ワンちゃんか!」
「ワンちゃんじゃねぇ! オオカミ属だ!!」
「ゴメンゴメン! 二人とも可愛いからつい。 で、女の子の方は熱があるのかい?」
そう言ってお兄さんはフフフと目を細めた。
うそ、私たちフード被ってるのに何でわかるの?
なんだろこの人、やっぱりあやしい!
カイも同じ事を思ったのか、私を下ろすと腰に下げてた杖を剣みたいに構えた。
「これ以上近づいたらタダじゃすまねぇぞ!」
「ナイトだったのか?! ゴメンゴメン、許して!!」
そう言ってお兄さんはランプを持ったままあっさりと両手を上げた。
ランプのおかげでお兄さんが何ももってないのもわかった。
でもハダシなのがやっぱり気になる。
「胡散臭いおっさんだな……」
「ちがうよ、おっさんじゃなくて多分お兄さんだよ」
「胡散臭いは否定しないの?!」
あ、小さい声で話してたのにバレちゃった。
でもお兄さんは怒るんじゃなくて『確かに君達からしたらおっさんだけど……』って三角座りして泣きはじめちゃった。
やっぱりヘンなお兄さんだった。




