募る思いとあふれる思い
ちょっとふっくらしてて鼻下のヒゲがステキなおじさま、カーサさんの馬車に乗って着いたのは、町の中にある茶色いお屋根の大きな大きなお屋敷。
お商売をしてる人みたいでお庭にはおっきな噴水もあってビックリした。
玄関の扉を開けたら使用人さんが十人ぐらい立ってたけど、カーサさんはすぐに私達をかくすようにお部屋へ案内してくれた。
お家の中もすっごく広くて、しばらくしたらカーサさんの奥さまマリアさんもやってきた。
そしてたくさんたくさんお礼を言われた。
『大丈夫です』っていったら、今度は私たちをお風呂にいれてくれた。
お母さまが亡くなってからは井戸の水で体を拭くだけだったから、お風呂につかると体がきゅうってなった。
「ティルダちゃんの髪、ピンクゴールドでフワフワね。 お人形さんみたいだわ」
お風呂あがりに髪をといてくれてたマリアさんはニコニコ笑顔でほめてくれた。
お母さまと一緒の髪の色だからほめてもらえてすごくうれしい!
キズの手当がおわるとカーサさんにフリルがいっぱいついたフワフワドレスを着せられた。
でも『歩くのには向いてない』ってマリアさんが白シャツと、うしろにリボンがついた黒のワンピースを合わせてくれた。
「ねぇねぇカイ! みてみて! かわいい?」
新しい服がうれしくって私はカイの前でくるくるまわって見せた。
そしたらカイはじーっと私をみた後で『まぁまぁだな』って言った。
もっとほめてほしかったけど、後ろでシッポがユラユラしてたからまぁいっか。
◇
それから私たちとカーサさんとマリアさんはいっしょにご飯を食べることになった。
「それで君達はどこへ向かう予定なんだい?」
食卓テーブルにおかれた山積みのやきたてパンをたべてたら、カーサさんが聞いてきた。
私がしゃべろうとしたら、カイが私の口にパンを押しこんできだ。
「フカルクです。 理由は話せません」
淡々と話す声がいつもより低くて表情もかたい。
まだ二人を警戒してるんだ。
カーサさんにもそれが伝わったのか、こまった顔で眉を下げた。
「やはりそうか……。 だが今は通行許可証を持っていても行き来ができないんだよ」
「「なんで?!」」
「五日前にフカルクの国境付近で魔獣が暴れ出したらしくて門が閉鎖されているんだ」
「そんな……」
チラッとカイを見たら、すごく苦しそうだ。
早くお兄さまを助けたいのにどうしたらいいんだろう。
「門が開かないと私の仕事も休みだし、君達さえよければ暫く泊まっていくといい。 多分一週間もしたら通れるようになるさ」
「それじゃ間に合わないかもしれないんです!」
私はおどろいてカイを見た。
いつもの声とちがって芯の通ったキレイな声。
スッと背筋ものびてて水色の目がまっすぐカーサさんに向いてる。
カイなのにカイじゃないみたい。
何だかしらない男の子に見えた。
「家族の命が危ないんです。 お願いです、オレたちを国境まで連れて行ってください!」
カイが立ち上がって頭をさげたから私もいそいで立って頭をさげた。
「国境に行っても通れないのにどうするんだい? あの辺りには宿は勿論、家もない。 子ども二人で野宿なんて危険過ぎるだろ」
カーサさんのとなりで聞いてたマリアさんが真剣な顔でうなづいた。
二人はきっと本気で心配してくれてるんだ。
するとカイが耳に付けてる青のピアスを外してテーブルに置いた。
「ならこれを換金してください。 それで御者を雇って国境へ向かいます!」
テーブルに手をついて前のめりになるカイを見てカーサさんはため息をついた。
するとベストの内ポケットから一枚のレンズをだして右目にはめた。
そしてカイのピアスを手に取ると、カーサさんが目を大きくした。
「これは……ラピスライトじゃないか?!」
「ちゃんと鑑定書も持ってます。 どうかお願いします!!」
「鑑定書ってまさか君は……」
ラピスライト?
鑑定書ってことは高価な宝石なのかな。
「ねぇカイ、ホントにあげちゃってもいいの?」
「あぁ。 兄上の命に比べたらこんなものに価値はない」
お兄様への揺るぎない真っ直ぐな思い。
カイにとったらそれだけお兄さまが大事なんだ。
そうだよね、一人で国境をこえてきたぐらいだもん。
早く帰って助けたい。
カイの気持ちが痛いぐらいに伝わってきた。
「……そこまで言うなら仕方ない。 私がついていってあげよう」
やった! カイの思いが伝わったんだ!
私とカイは顔を見合ってよろこんだ。
するとカーサさんは眉を下げて持っていたカイのピアスをテーブルにおいた。
「これは返しておくよ。 君の大事なものなんだろう? 他人に渡しては駄目だ」
「ですが……」
「元々恩返しするつもりだったし必要ない。 明日の昼には出られる様準備しておくから今日はしっかり休んでいってくれ」
「ありがとうございます!」
カイにピアスを返すとカーサさんはやさしい顔で鼻下のヒゲをちょいちょいと撫でた。
カイを見たら泣きそうな顔してたから私もちょっと泣きそうになった。
◇
その日の夜、私は枕をもってカイの部屋をたずねた。
『どうぞ』って言われて入ってみたら、カイはベッドに座って杖のようなものを磨いてた。
そして私に気付くと目を丸くした。
「枕もって何の用だ」
「何してるのかなって思って。 それどうしたの?」
「カーサさんから格安で売ってもらった。 これがあれば戦いやすくなるから」
あんなに警戒してたのにもうそんなことしてたんだ。
私はカイのとなりに座って『いい人でよかったね』って言ったらカイは小さな声で『そうだな』って言った。
「ねぇ、何で剣じゃないの?」
「兄上に『剣よりもこっちの方が向いてる』って言われたんだ。 最初はがっかりしたけど、兄上がそう言うんだからそうなんだろうなって思ってやってる」
そしたらカイは立ち上がって片手でくるくると杖を回して見せてくれた。
すごい! カイの手と杖が見えない糸でくっついてるみたい!
私は手が痛くならないように指先で手を叩いた。
「それよりもお前、手は大丈夫なのか?」
「さっきも包帯替えてくれたから大丈夫!」
私は包帯グルグルの両手をカイに見せた。
そしたらカイがまた私の隣に座って、私の右手首をやさしく掴んだ。
心臓がドキッとした。
「な、なぁに?」
「オレのせいでごめん」
「なんで? カイのせいじゃないよ! それに私でもカイを守れたんだよ! すっごくうれしかった!」
「だからってケガまでしてやるなよ!」
「あのときは必死だったんだもん。 それをいうなら私だってカイがケガするの見たくない!」
ちょっとキツく言い返したら、カイはちょっとバツの悪そうな顔で『わかった』って言ってくれた。
はぁ、よかった。
今日の話を聞いてて思った。
カイもきっとお兄さまのために平気でムチャしちゃう。
それでカイがケガをしたらきっとお兄さまは悲しむから、私がちゃんと見とかなきゃ!
「ねぇ、カイのお兄さまってどんな人だったの?」
そしたらカイの目がキラキラっとかがやいた。
「すっごくやさしくてカッコいいんだ! 怒ったらこわいけどみんなからも慕われてる。 オレの目標だ!」
カイがこんなにうれしそうなの初めて見たかも。
カーサさんと話してた時はちょっと大人っぽくてビックリしたけど、いつものカイにもどったみたいでホッとした。
「何笑ってんだよ」
「カイがかわいいなって思ったの」
「あのな、オレはお前よりも年上なんだぞ? 子ども扱いすんな」
「でも身長はおんなじぐらいじゃない」
あ、気にしてたのかな。
カイは耳とシッポをピンと立ててそっぽ向いちゃった。
悪いこと言っちゃったかな。
うーん、なんて言ってあやまろう……。
私はもってきてた枕を横において、うしろからカイにギュッと抱きついた。
「カイごめんね? だいすきだからゆるして?」
そしたらカイのシッポがボン!と膨れた。
「なんだよいきなり!」
「え? どんなカイでもだいすきって言ったの」
「…………あっそ」
あ、そっぽ向いちゃったけどシッポがパタパタしてる。
よかった、ゆるしてくれたみたい。
素っ気ないけどこの瞬間がすごく好き。
私はもう一回ギュウってしてから手を離した。
「ねぇカイ、もう寝る?」
「あぁ。 だからお前もさっさと部屋に帰れ」
「このままいっしょに寝てもいい?」
「今日はデカいベッドがあんだろ! 一人で寝ろ!」
「おねがい! 一人はこわいの!」
カイといるとあったかくて安心するんだよ。
そう言ったらいつもみたいに『しゃーねぇな』って言ってオオカミになってゴロリと横になった。
私はカイのお腹にくっつくようにして横になった。
オオカミのカイは人間の時よりもあったかい。
おかげで私は朝までぐっすり眠ることができた。




