言い伝え
お城から抜けだした私たちは、身を隠すために城壁そばの森を歩いていく事にした。
足かせはカイが外してくれたからすごく歩きやすくなった。
でも素手で外せるなんて獣人さんの力ってすごい。
ちなみにカイの服は森の中に隠してあったバックに入ってた。
だから今はちゃんと服を着てくれてる。
獣人さんはハダカになる事に抵抗ないみたいだけど、心臓にわるいから服はちゃんと着てねっておねがいした。
「こんな森の中でもまよわず歩けるって獣人さんはすごいんだね」
「オオカミ属は人間になっても鼻は利くからな」
スタスタ先をいくカイとはぐれないよう、私は必死に追いかける。
外にでるのは初めてだからゆっくり見て回りたいけど、そんなことしてたら置いてかれそうだ。
「ねぇ、カイは魔法使えるの?」
「使えない。 そもそもふしぎな現象は全部精霊の仕業だっていわれてる」
「精霊?」
「フカルクは『精霊信仰』だから火や水、土や森とか自然の至るところにいるって話だ」
「カイは見たことあるの?」
「ない。 だからあんまり信じてない」
「そっか」
「だってこっちではそういうの『魔法』っていって自分でできるんだろ?」
「そうだね。 たしか神様が出来るようにしたって聞いたことがある」
『精霊信仰』のフカルクに対してランタッベルは『創造神信仰』だ。
創造神が人型だったという伝説と、産まれた時に創造神から与えられるのが魔法だっていわれてる。
だから魔法が使える人間しか住めないし、お城に動物を入れちゃいけないのもそうした考えからきてる。
フカルクは確か一番強い獣人さんが王様だったよね。
それもあってもう300年くらいランタッベルトとフカルクは敵同士だ。
別にどっちがすごいとかはないんだから皆なかよく暮らせばいいのにね。
「ほら、さっさとついてこい」
「ごめんなさい!」
気がついたらカイが遠くで待ってた。
私はいそいでカイの元へと走った。
「ねぇ、カイはなんでこっちに来たの?」
「眠ったままの兄上を助けるためだ」
「眠ったままってどれくらい?」
「もう一ヶ月ぐらいになる」
「一ヶ月も?!」
「あぁ。 医者や呪術師にも診てもらったけど原因がわからないんだ。 だからあとは『魔法』しかないと思ってこっちに来たんだ」
「そうなんだ……」
大人じゃないのにすごい行動力だ。
それだけカイのお兄さんってステキな人なんだろうな。
「兄弟で仲がいいっていいね」
「そういやお前は何であんなにいじめられてたんだ?」
「『不義の子』なのにお城に住んでるのが許せないって聞いたよ」
「あそこにいたのお前の母親じゃなかったのか」
「うん。 私のお母さまは町で踊り子やってる時に王さまに気に入られちゃって私ができたんだって」
「それって……父親が悪いんじゃねぇか」
「うーん……。 でも王さまの命令はぜったいだから仕方ないよ」
そう言ったらカイは顔をしかめた。
たしかにお城での生活は窮屈だったけど、お母さまがいたから平気だった。
でもお母さまが亡くなると、すぐにルミネさまたちが私をいじめるようになった。
王さまも無関心だったから、足かせを付けられても食事がもらえなくてもだれも助けてくれない。
もちろんにげることもできない。
こどもの私にはどうすることもできなかった。
「……なんか大人って勝手だよな」
「そだね」
ついでにカイは『あんなヤツらに様なんかつけるな』って怒ってた。
口は悪いけど、素直にうれしかった。
しばらくすると日が落ちたみたいで森の中がまっ暗になった。
夜の森はすごくしずかで、さっきまで何でもなかったことがすごくこわくなった。
そしたらカイが『そろそろ休むぞ』って小さなほら穴につれていってくれてホッとした。
そこは子どもの私達にはちょうどいい大きさで、ちょっとした食べ物もたき火のあともあった。
人が住んでたのかと思ったら、カイがお城に来る前に使ってたって言った。
すごい、カイはお外でも暮らせるんだ。
「ほら、焼けたから食え」
カイは歩くとちゅうで見つけた小さなキノコをたき火で焼いて私にくれた。
食べるとすっごくやわらかくて、なんだかお肉みたいだった。
「すっごくおいしい! これ、カイがさっきとってたヤツだよね?」
「あぁ」
「じゃあ明日もたべたいから私もさがす!」
「食べたら死ぬのもあるからオレがいいって言ったヤツだけな」
「はーい!」
「今日はこれしかないけど、明日は川の近くも通るから魚もとるぞ」
「カイって魚もとれるの?! すごい! 何でも出来るんだね!」
するとカイは一瞬だけ水色の目を丸くして、プイッと顔をそむけた。
「……こんなの普通だろ」
「そんな事ないよ! だって私は何にもできないし何にもしらないもん。 そう、何にも……」
そうだ、私にはなにもなかったんだ。
魔法もつかえないし、水色の目だってお飾りだし。
……なんだかさみしくなってきた。
さっきまでワクワクしてたのに、自分のことを考えたら何だか楽しくなくなってきた。
「おい、どうした?」
急にカイの声がやさしくなった。
それが何だかはずかしくて、私は両足を抱えて小さくなった。
「……ねぇカイ、ホントに私が一緒にいってもいいの?」
「今更なんだよ」
「私、魔法つかえないんだよ?」
するとたき火からパチ!って弾けたような音がした。
こわかったけど、今はカイの顔をみる方がこわかった。
「……ねぇ、私も手伝うから他の人をさがそうよ」
「なんでそうなるんだよ」
「だって私じゃムリだよ! 他の人にたのんだほうがぜったい良いよ!」
するとカイは私の手をギュッとにぎった。
びっくりしてカイを見たら、カイも私を見てた。
さっきまで見たくないって思ってたのに、目があったらすごくうれしくて泣きそうになった。
「オレの国では『王族にはふしぎな力を持ってる者が多い』って言い伝えがある」
「フカルクにもあるの?」
「あぁ。 だからオレはわざわざ城に忍びこんだんだ。 昔はフカルクもランタッベルも一つの国だっただろ? だからこっちにも同じ伝承があるんじゃないかって思ったんだ」
「そう、なんだ……」
「フカルクの王族でも兄上を起こすことが出来なかった。 だからすごく焦った。 でもどうしようもなくて、居ても立ってもいられなくて……気づいたら国境に向かってた」
「……ランタッベルの王族なら、何かできるかもって思ったの?」
「あぁ。 だからお前を見て『コレだ!』って思ったんだ」
「私……?」
カイは大きく頷いて更に顔を寄せてきた。
「お前、魔法消してただろ?」
「え?」
「目の前にきてた魔法をどんどん消してたぞ? しらなかったのか?」
私がコクンとうなずくと、カイは『獣人は目がいいからな』ってちょっと得意げだった。
いつも逃げるのに必死だったし、ケガもするからかんがえた事なかった。
でもそれがホントなら、私も何かできるかもしれない。
私はカイの手をにぎりかえした。
「私でも、いい……?」
「あぁ。 お前でいい」
ニヤッと笑うカイを見たら、胸の中がどんどんキラキラでいっぱいになってきた。
すごい、やっぱりカイってすごい!
「カイ、大好き!!」
うれしくて私はいきおいよくカイに飛びついた。
するとボン!と大きな音をたててぐらりと地面にたおれてしまった。
「……あれ? なんでオオカミさんになってるの?」
さっきまで人間のカイと話してたのに、私はいつの間にかオオカミ姿のカイに乗っかってた。
この前と逆だ。
「そんなのいいからさっさと下りろ!」
「でも……カイのお腹、あったかくて気持ちいい」
オオカミ姿のカイのお腹は他のところよりも白くてもっとフワフワしてる。
ヨシヨシしてみると、カイの口がちょっとゆるんでシッポがゆれた。
ワンちゃんみたいでかわいいっ。
するとカイがハッとした顔でキバをむいた。
「ば、ばかやろ! オレは男だぞ?!」
「そんなの知ってるよ。 でも今はオオカミさんだからいいでしょ?」
そういって私はもう一回カイのお腹をヨシヨシした。
そして『おつかれさま、ありがとう』って言ったら、ジタバタしてたカイが長ぁーーいため息をついてピタっと止まった。
「……ちょっとだけだぞ、さわるの」
「うん!」
うれしくてカイのお腹に頬ずりしたら、ドクドクドクとカイの心臓の音がものすごいはやさで聞こえた。
それがすごくおもしろかった。
カイは『私』でいいって言ってくれた。
それが一番うれしくて、ホッとして、私はそのままカイの上でねむってしまった。




