タイトル未定2026/03/10 11:29
「「うわぁぁ!!」」
目がいたくなるような真っ白な世界を突きぬけて落ちたところは、真っ黒で威圧感のある鉄製の城門の前。
そこに立っていた黄色の丸耳と細長いシッポの兵隊さん二人が、ひどくおどろいた顔でもっていた大きな槍を私たちに向けた。
「な、何者だ!!」
「オレだ! カイ・アウス=フカルク、今帰還した!!」
「な?! カ、カイ王子?! 今までどこへいっておられたのですか!!」
「話は後だ。 客人がいる。 武器を下ろしてくれ」
「「ハッ!!」」
すごい、カイの一声で兵隊さんたちは槍を下ろして道を開けた。
王子様っていうのは本当だったんだ。
ゆっくり、ゆっくりと城門が開かれる。
それにあわせるように私の心臓も痛いぐらいに脈打っていた。
今ごろになって緊張してきた。
ドォン、と重そうな音を立てて完全に門が開ききると、カイはコモンドルフィスさんを抱き上げ『大人しくしてろよ』と念押しした。
そして私の方へと向き直りそっと耳打ちをする。
「オレが良いっていうまでお前の力の事は誰にも話すなよ?」
「う、うん」
「大丈夫だ。 オレがそばにいるから」
「う、うん!」
「よし、いくぞ」
いよいよだ。
私はドキドキしながらカイの後ろを隠れるように城門をくぐった。
「カイ様ぁ! よくぞご無事で!!」
主塔に招かれて大広間へと向かう途中、向かいからタキシード姿の若いお兄さんが、目尻の下がった紫色の目に涙をためて駆けよってきた。
「クライブ、お前も相変わらず元気そうだな」
「何悠長な事言ってるんですか!! ホントにどこまで行ってたんですか?! 私の目の届く所にいていただかないと困りますよ! あぁ、もうそんなに服を血まみれのドロドロにしてお怪我はないのですか?!」
執事さんか何かかな。
カイはめんどくさそうな顔をしつつも、大人しくお兄さんに肩をつかまれガクガクとゆすられる。
「クライブ……、ちょっと黙ってくれ」
「う〜〜……、心配かけといてなんですかその言い草は! って、……後ろのお嬢様は?」
長身のお兄さんはカイをはさんで黒の丸耳をピクリと動かして私の顔を見た。
「オレの客人だ。 理由は後で話す」
「まさか婚約者を探しに行ってたのですか……?」
「いいからしゃべるな! それよりもディオン兄様の容態は?」
「……ディオン様でしたら未だ眠ったままです。 ただもう二ヶ月近く経つので最近は延命用の薬も投与しながら様子をみているところです」
「そうか……」
クライブさんの話にカイは唇をかんで拳をギュッと握りしめた。
「カイ、早くバイエノールさんからもらった薬を試そうよ!」
「薬? 何の事ですか?」
「精霊女王に会って治癒薬をもらって来たんだ」
「精霊女王ぉ?!」
「とにかくディオン兄様の部屋へ行ってみよう!」
「うん!」
「あ! 待ってくださいぃっ!!」
カイの説明に目をむいてるクライブさんをおいて私たちはディオン様が眠っている部屋へと急いだ。
「ディオン兄様!!」
カイがバン!っと勢いよく扉を開けると、中にいた白ひげのお医者様とメイド姿のお姉さんが目を大きくしてかたまった。
治療道具を片付けているところだったのかな。
そして二人に挟まれて、誰かがベッドで横になってる。
その人はカイとおなじ三角耳で、長く美しい銀髪を横に流して眠っていた。
伏せてるまつ毛も長くて端正な顔立ち、でも肌は雪のように白くて、こわいぐらいにキレイだった。
きっとこの人がカイのお兄さま、ディオン様だ。
お医者様は信じられないといわんばかりに目を見開いてよろよろとカイに手をのばした。
「カイ様……! どこへ行っておられたのですか!!」
「心配かけてすまない。 だが今は一刻を争う。 いそいでコレを飲ませたい」
カイに言われて私はバイエノールさんから預かった治癒薬の入った小瓶をお医者様に見せた。
「それはディオン様が飲んだものと同じものでは……!」
「ちがう。 精霊女王に頂いた本物の治癒薬だ。 これで多少は改善できると教えてもらった」
「精霊女王に?! 一体何があったのです!」
「話は後だ。 これを早く兄様に……」
「待て!!」
バァンッ!!と扉が壊れそうな勢いで開いたと思ったら、そこには壁のように大きな大きな鎧姿の男の人が立っていた。
肌は褐色だけどカイとおんなじ三角耳。
金色で切れ長の目はカイとよく似ていた。
「勝手やってた奴が出しゃばるな! 大人しくしてろ!!」
「うわぁっ!!」
ツカツカと大股で入ってきた男の人は、カイの首根っこを掴んでディオン様から引き離した。
体格差もあってカイがまるで子ネコみたいだ。
「シェムエール兄様! ……っ、離してくれ!」
「突然帰って来たかと思えばそんな汚れて何をしている! ……ん?」
すると今度は私とパチリと目が合って、思わず肩が上がった。
途端にお腹をすかしたオオカミさんみたいに、金色の目がギラリと光った。
「……なぜここに水色の瞳をもつ人間がいる」
「そ、それはオレが説明するから怒らないでやってくれ!」
「……ったく、部外者まで入れおって!」
シェムエール様はカイを掴んでる手を大きく振り上げた。
ダメ、カイが投げ飛ばされちゃう!!
「待ってくださいぃっ!!」
そこへクライブさんが細身の体でシェムエール様の脇腹に突進してしがみついた。
「離せクライブ! 何のつもりだ!!」
「シェムエール様! その方はカイ様が連れてきた婚約者様です!! 一度怒りを沈めて下さいませっ!!」
…………。
……クライブさんの勇気ある行動が、この部屋にいるみんなの時間を止めてしまった。




