タイトル未定2026/03/03 10:18
コモンドルフィスさんのところに着くと、まわりには鎖や血がついたままの武器がたくさん落ちてた。
顔を上げるとコモンドルフィスさんの体には何もついてなくて、耳をすましたらプスープスーと気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。
すっかり眠ってるみたいだ。
……ということは、これ全部コモンドルフィスさんに刺さってた武器だ。
「カ……むぐっ!」
「下手に刺激しちゃだめよ。 まずはカイを探さなきゃ」
バイエノールさんに口を塞がれたまま、私はコクリとうなずいた。
そうだ、目が覚めた途端に食べられるかもしれない。
とにかく先にカイが無事か確かめなきゃ。
『カイ? どこにいるの?』
小声で呼びながらソロソロとまわりを歩いてみるけど、カイの姿はどこにもない。
……まさかもう食べられた後だったりするの?
「カイ! どこなの?!」
不安になって思わず声がでてしまった。
するとコモンドルフィスさんの体がピクリとうごき、のそりと顔だけ私の方へと向けた。
大きな大きな金色の目と目があってゾクリと背筋が凍る。
どうしよう! 食べられちゃう!!
こわくなってギュッと身を縮めた。
「まて!!」
カイの声が聞こえてハッとした。
コモンドルフィスさんもカイのくぐもった声に反応したのか、あんぐりと口を開けたまま動かなくなった。
「カイ! カイ!」
キョロキョロと声がした方を探すと、伏せをしてるコモンドルフィスさんの胸元の毛がモゾモゾと動きだした。
そこから全身ドロと血まみれのカイが、太い毛をかき分けるように這い出してきた。
「やっと空気が吸える……」
「カイ!! え、なんで抱っこされてたの?!」
「そんなのオレが聞きたい」
何とかコモンドルフィスさんの抱っこから抜け出したカイは、あおむけにころがって大きな大きなため息をついた。
「『死にそう』って聞いたからびっくりしたんだよ! 体は大丈夫なの?」
「ケガならそこまでじゃない。 でもコイツがいきなりオレのことを抱き込んだから、剛毛が重すぎて息苦しかったんだよ。 ハァ、ホント死ぬかと思った……」
『死にそう』ってそういう意味だったんだ。
とにかく無事だったからよかったけど、よく見たらカイの体のいたるところから血が滲んでる。
全然大丈夫じゃなさそうだよ。
私はスカートのポケットにしまっておいた出来たての治癒薬をカイに差し出した。
「カイ、これ飲んで!」
「何だそれ?」
「治癒薬だよ。 さっきバイエノールさんと一緒に作ったの!」
「ティルダが?!」
「うん。 獣人さんにもよく効くみたいだから、これ飲んで早くケガを治して?」
「……ありがとう」
カイははにかみながらコルクを開けると、治癒薬を一気に飲み干した。
「……どう?」
「すごいな……。 あんだけ痛くてだるかったのが一気になくなった!」
「ホント?! 良かったぁ!!」
『グォン!』
「わぁっ!!」「きゃっ!」
するとさっきまで大人しかったコモンドルフィスさんがいきなり鼻先でカイを押し倒しちゃった!
まさか今度こそ食べちゃうの?!
想像して血の気がひいたけど、コモンドルフィスさんの様子が何だかへんだ。
「おいまてって! 重いからやめろ……っ!」
さっきからコモンドルフィスさんは押し倒したカイにグリグリと自分の頬をなすりつけてる。
食べるというよりも甘えてる?
まるで『どこへ行く、おいてくな』って言ってるみたい。
カイも思ったのか、こまり顔で頬のあたりをヨシヨシとなで返す。
「どこにも行かないから大人しくしてろ。 ここにいるのは皆お前の味方だから大丈夫だ」
そしたらコモンドルフィスさんは『グォンッ』と低い声で鳴いてペタンと体を伏せた。
すごい、言葉がつうじてる!
私のとなりでやりとりをみていたバイエノールさんも、眉を下げてクスクスと笑った。
「まさか、戦わずに手懐けちゃうなんて驚いたわ」
「……どうしても倒す気になれなかったんです。 最初は暴れて大変でしたけど、まさかここまでなつかれるとは思いませんでした」
「……魔獣を従える……というより対話ができるって感じね。 やるじゃない」
「ありがとうございます!」
カイは満面の笑みでコモンドルフィスさんの鼻先をなでた。
ホント、すごすぎるよ。
カイはやっぱりやさしくて勇敢な男の子だ。
「バイエノールさん、これでこいつの体、治せますか?」
「これだけ話も聞けて大人しくなれば多分大丈夫。 ……でもティルダ、本当にやるの?」
「うん!」
心配げな表情で聞いてきたバイエノールさんに、私は気合十分と返事をかえして。
するとバイエノールさんは眉を下げて『じゃあ説明するわね』と言った。
「まずはこのコの鼓動と自分の鼓動を合わせるの。
そしたらこのコの意識の中に入って魔力核を探しにいけるわ。 解毒はそれからよ」
「わかった!」
「但しちゃんと現実世界に帰ってこれるようにカイと手を繋いでおきなさい」
「手をつないでないとどうなるの?」
「こっちの人間と繋がってないと、意識の中に取り残されて帰ってこれない事があるのよ」
「え……」
一瞬想像して鳥肌がたった。
「……おい、やっぱ止めたほうが良いんじゃないか?」
カイが心配そうに眉をよせて私を見てくる。
たしかにちょっとこわいけど、せっかくカイががんばってくれたんだもん。
今度は私ががんばる番だ。
「きっと大丈夫。 だからカイ、ぜったいに離さないでね!!」
「それはお前だろ。 国境を超えるときだって、ロウハさんに言われてたのに手を離したんだから」
そう言ってカイはニヤニヤと笑う。
「こ、今度はぜったいに気をつけるよ! だからお願いね?」
「あぁ、ぜったい離さねぇよ」
そういってカイは私の手を取ると、スルッと指をからめた。
普通につなぐよりももっとくっついてる気がして、カイの熱がしっかりと伝わってくる。
何だか『うれしい』とか『はずかしい』とか、いろんな気持ちがごちゃまぜになってきた。
「……なんだよ。 へんな顔して」
「べ、別に、今までとちがうから、びっくりしただけだよ」
「……だってこの方が離れにくいだろ」
するとカイはちょっとすねた感じでプイッと顔をそむけた。
その後ろでシッポがユラユラしてるのが見えて、私の顔はボンっ!と一気に熱くなった。
かわいい、大好き、ぎゅってしたい!
でも今手を離したらぜったい怒られる!
だから私は必死に口をつぐんで、このウズウズを抑え込んだ。
「……人間の世界ではこんな可愛いものが見れるのね。 もうちょっと見てたいけど、準備もできた事だしそろそろいきましょうか」
ほぅ、と頬に手を当ててため息をついたバイエノールさんは、カイとつないでる手と反対側の手をとって、コモンドルフィスさんの体にそえた。
「さぁ、このコの鼓動を探してみて」
私は言われた通り、そっと耳をあててコモンドルフィスさんの鼓動をさがした。
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ。
体が大きいからかな、コモンドルフィスさんの鼓動はまるで太鼓みたいに元気だ。
ここに私の鼓動を合わせるのか。
上手くできるかな。
「ゆっくりでいいわよ。 目を閉じてよーく聞いてなさい」
アドバイスをもらって、私はコモンドルフィスさんの鼓動を聞き逃さないように目を閉じた。
ドクンッ、トクンッ、ドクンッ、トクンッ。
あ、頭の中で少しずつ鼓動が大きくなってくる。
私の鼓動とコモンドルフィスさんの鼓動とが一緒になって聞こえてきてる。
上手くいきそう。
そう思った瞬間、体がドプン!っと水の中に落ちた感覚がした。




