今の私に出来ること
私たちがやってきたのは、普段人はたどり着けない森の奥地にあるアルティカのお花畑。
アルティカは黄色くてちいさい花びらがたくさんついたお花で、治癒薬を作るのに一番必要なもの。
それが目の前で視界いっぱいに咲いている。
ここは太陽をさえぎる木もないから、黄色と緑のじゅうたんの上をやわらかな日差しがサンサンとふりそそぐ。
そこへいろんな色のドレスを着た精霊さん達が、お花からお花へとたのしそうに飛びうつって遊んでいた。
こんなステキな光景、カイといっしょに見たかったな。
でもカイは今たった一人でコモンドルフィスさんと戦ってる。
一緒に戦えない私は私でできることをするんだ。
アルティカを摘んだ指の匂いをかぐと、さわやかな香りにスーッと鼻がスッキリする。
でもちゃんと花びらが完全に開ききったものじゃないと治癒薬に必要な『せいゆ』がとれないらしい。
なので私は頭の上で飛んでるアルティカとおんなじ黄色のドレスを着た精霊さんに聞きながら、使っていいお花の部分だけを慎重に摘み取っていた。
「ティルダ、そろそろこっちに持ってきて!」
「はぁい!」
とおくからバイエノールさんに呼ばれて、私はスカートの上に集めていたアルティカをこぼさないよう裾をもって立ち上がった。
そのままカゴ代わりにして、ゆっくりとアルティカの精霊さんといっしょにバイエノールさんのところまで運んだ。
「バイエノールさん! これで足りるかな?」
バイエノールさんは私のがんばりをみて笑い返してくれた。
「ちゃんときれいに摘んであるわね。 これなら二本はできるかしら」
「ホント?! はやく作り方をおしえて! はやくカイに持っていってあげたいの!」
「ハイハイ、じゃあ場所を移しましょ。 今度は治癒薬に必要な湧き水を取りにいくから」
「うん!」
私はワクワクしながらバイエノールさんの後につづいてまた森の中へと入っていった。
◇
次に連れてきてもらったのは、木々のあいだから差し込む光に照らされて水面がキラキラしてる小さな泉。
まるでドレッサーについてる大きな円鏡みたいだ。
でもふしぎなのは、ここが大きな大きな切り株をくり抜いた場所だという事。
切り株の真ん中からコポコポと水が吹き上げてるのに、その水が外にあふれていかない。
バイエノールさんに聞いたら『中でジュンカンしてるのよ』って言ってた。
よくわからないけどさすが精霊が住む森だと思った。
「ここの泉の中にその花を全部入れてちょうだい」
切り株の泉の底にはいろんな色の丸石がしいてあって、水はヒンヤリしててすごく気持ちいい。
私はスカートの裾を持ち上げて、集めてきたたくさんのアルティカを泉に落としていく。
そしてゆっくりと手でかきまぜて、アルティカを全部底にしずめた。
「さぁ、仕上げるわよ。 泉の上に両手をかざして薬になるよう祈るの」
「うん……!」
私なんかでうまくいくのかな。
私はゴクンとツバを飲んで、泉の上に両手をかざした。
(お願い……! 治癒薬になって!!)
ドキドキしながらジッと泉を見ていたら、アルティカの精霊さんとは別に、水色のタイトなドレスを着た精霊さんが三人集まってきた。
その精霊さんたちとアルティカの精霊さんがポチャン、と水の中に入っていくと、底に沈んだアルティカのまわりをクルクルと周りだした。
そのかわいらしいダンスを見ていると、底にしずんでたアルティカもクルクルと踊りだし、ポツポツと小さな泡が出てきた。
「すごい……! 泡がキラキラしてる!!」
「それがアルティカの『精油』よ。 しばらくしたら水に溶けて治癒薬が完成するわ」
「ホント?」
ワクワクしながら見守ってると、アルティカから泡が出なくなった頃に精霊さんたちも水面から顔をだした。
完成したみたいだ!
バイエノールさんは精霊さん達をなでた後、泉の水を腰のポシェットに入れてあった二つの小瓶に入れてコルクでフタをした。
「わぁ、あの治癒薬よりもキラキラしてる!」
「これが本来の治癒薬よ。 ここで作ったものだから獣人族にも効くし、即効性もあるから後でカイにも飲ませてあげましょう」
「うん! 精霊さんたちもありがとう!」
バイエノールさんから治癒薬を受け取ると、私は精霊さんたちにしっかり頭を下げてお礼をいった。
後から聞いたけど、ランタッベルの治癒薬はアルティカに直接魔法をかけて取り出した『せいゆ』を蒸留水に溶かしたものらしい。
手順も時間もちがうから分離してしまうんだって。
お薬っておんなじ材料でもつくり方が変わると効き始める時間も成分も変わっちゃうんだね。
「カイ……よろこんでくれるかな……」
「当たり前でしょ。 ティルダが初めて作った治癒薬なんだから」
「へへ、だと良いな」
私は初めて出来た治癒薬をお日様にかざしながら気になってた事をふと口にした。
「ねぇ、バイエノールさんはカイにふしぎな力があるって最初からしってたの?」
そしたらバイエノールさんは緑色の目をパチパチさせた後、フフッと小さく笑った。
「精霊は魔力核が見えるのよ。 それを見て精霊達はどの人間につくか判断するの。 ランタッベルではそれを『属性』って呼んでたかしら」
「うん、それは聞いたことあるよ」
「でも本来魔力っていうのは、潜在能力を引き出す為のエネルギーなのよ。 だから魔法が使えないフカルクの人間にも魔力核はあるし、魔力ももってるわ。 ただ使用目的が違うだけ」
「そうなの?! 魔力核が大きくてもぜったいに魔法が使えるってわけじゃないんだ!」
「えぇ。 特に水色の瞳を持つ人間の魔力核は普通の人間よりも何倍も大きくて魔力量もすごいから、人とは違う能力が目覚める確率が高いわね」
「それでカイの背中を押したんだ……。 ねぇ、
私の魔力核はどんなの?」
「ティルダのもちゃんと大きいわよ。 さらに熱も持ってる」
「熱? 私の魔力核って熱いの?」
「『愛し仔』の魔力核は赤ん坊のようにあたたかいから、精霊達はみんなあなたが大好きなのよ」
「そう、なんだ……」
自分の魔力核が暖かいなんて思っても見なかった。
ランタッベルでは魔法を使うのが当たり前だったから、魔力にそんな使い道があることも知らなかった。
国がちがうと考え方も使い方もちがう。
ただそれだけなのに、それを『異端だ』といって拒絶し合うなんて、すごくさみしい話だ。
「あら、早かったじゃない!」
バイエノールさんのはねるような声を聞いて顔を上げると、カイと一緒にいってた伝令蜂さんがバイエノールさんのそばをとんでいた。
バイエノールさんは伝令蜂を指先に止めて伝言を聞いてる。
でも途中で顔をしかめた。
「え? 『死にそう』ってどういうこと?」
え? まさかカイに何かあったの?!
「全く……、あのコったら何やらかしたのよ!」
「バイエノールさん、早くいこう!!」
「そうね。 急ぎましょう」
カイの身に何があったんだろう。
私は治癒薬をにぎりしめてカイの元に向かった。




