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幼姫と獣人くん〜まわりにナイショで敵国を救いに行ったら大変なことになってしまった件〜  作者: 夢屋


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魔物討伐大作戦①


 オレたちはバイエノールさんの案内でコモンドルフィスがいた所へと向かった。

 

 確かコモンドルフィスは魔物の中でもまだおとなしい方だ。

 ただ厄介なのがモップみたいに生えてる太い綱みたいな体毛だ。

 体毛はモップのように長く、少しずつ束になっているから剣でも斬るのは難しいし鋼のように重くて頑丈だ。

 だから体をふるえば大人でもカンタンにふき飛ばされてしまう。

 それがあの大きさと太さで当てられたらまちがいなく全身骨折レベルだ。

 魔法が使えないフカルクの討伐隊が苦戦するはずだ。

 

 そうなるとやっぱり魔法しかないだろう。

 オレはすぐとなりを飛んでるバイエノールさんに話しかけた。



「バイエノールさんってどんな魔法でも使えるんですか?」


「もちろん使えるけど、それがなぁに?」


「アイツの体をビショビショに濡らしたら、重くて動けなくなるかと思うんですけどどうですか?」


「物理的にムリね。 あれだけの巨体を濡らすとなると湖一つ分はいるだろうし、濡れたところで体をブルブルさせたら水害で森がダメになるわ」



 ……確かに。

 しかもその水しぶきを食らったらきっと溺死するな。



「じゃあ雷は?」


「あんな剛毛には効かないわね」



 そうか、体毛もデカすぎて絶縁体になってしまうのか。

 多分風だってあの巨体を吹き飛ばすには台風レベルになるかもしれない。


 こうなると魔法でたおすのもむずかしい。 

 ……それってほぼ無敵じゃねぇか?

 でもバイエノールさんは『やってみないとわからない』って言うし、なにかしら手があるんだろう。

 

 

 しばらく走っていたら、コモンドルフィスの鳴き声が聞こえてきた。

 すぐそばにいるみたいだ。

 オレたちは一旦草かげに身をひそめてゆっくりと近づき、遠くからヤツの様子を伺うことにした。



「かわいそう……」



 わずかに漏れたティルダの声が震えてる。

 あの時は恐怖が勝ってじっくり見れなかったけど、大きくなったコモンドルフィスは全身を投げ網みたいな鎖に巻かれ、身動きが取れなくなっていた。

 それに体の所々に柄の折れた剣や槍が刺さってるのも見える。

 そのまわりの毛はやっぱり赤く染まっていた。



「あれ、討伐隊がやっていったんですよね……」


「そうよ。 武器じゃどうにもできないから衰弱死させる事にしたんでしょ。 コモンドルフィスはまだ大きくなってるから鎖もキツくなってる。 もう逃げられないわ」


「死んじゃうの……?」


「もう三日は経つから、もって後一日かしら」


「そんな……」


「でもコレだと人も森も被害が少ない。 一番良い方法なんだろうな」



 言い聞かせるようにオレがつぶやくと、ティルダは目に涙をためてうつむいた。



『グォォン……。 グォォン……』



 オレたちがそばにいることも気づいてないのか、鳴き声に怒りの感情はなく苦しげだ。


 オレにはその姿が、空の下で泣いていた女の子と重なった。 


 何とかしてやりたい。

 胸の奥が熱くなったのをかんじた。


 

「……ティルダ、お前はバイエノールさんといっしょに安全なところにかくれてろ」


「カイは? カイはどうするの?」


「オレ一人でアイツを大人しくさせる」


「ダメ! 私もいっしょにたたかう!」


「いや、ここはオレ一人でやる。 お前はアイツの毒を解くのに力を使うだろうから休んどけ」


「うぅ……」



 ティルダが言葉をつまらせる。

 毒を解くといってもどんな事になるか分からない。

 ならできるだけ万全な状態でやらせたい。

 

 オレが頭をなでてやると、ティルダはオレの服の裾をつかんでさらに表情をくもらせた。



「……ちゃんと帰ってきてね?」


「当たり前だろ。 オレたちにはまだやることがあるんだから。 それにバイエノールさんがいるから一人じゃない」



 心配かけないようにオレはニッと笑うとティルダは鼻をすすりながらバイエノールさんに目を向けた。

 するとバイエノールさんもティルダを安心させようと頬をゆるめた。



「カイが行ってる間にティルダには治癒薬の作り方を教えてあげる。 それを作ってカイを待ちましょう」


「ホント?! やる!!」



 おいおい、精霊女王直伝の治癒薬って普通にすごくないか?

 まぁティルダが元気になったらそれでいいか。



「そうと決まったら、このコを連れて行ってちょうだい」



 そう言ってバイエノールさんが人差し指を立てた。

 何かと思ったら指先に親指位の大きさのハチがあらわれた。



「このコは伝令蜂。 簡単な伝達ならできるから、終わったらこれで知らせて」



 まるっとしててかわいらしい伝令蜂はバイエノールさんの指からはなれると、オレの頭あたりを回るようにブンブンと飛びだした。

 針はなさそうだからきっと刺されることはないし、これなら動けなくなっても助けを呼べる。

 

 ホッとしてバイエノールさんに会釈をすると、オレは改めてティルダと向かい合った。


 

「何とか大人しくさせるから、その後はたのんだぞ」


「……うん! カイも気をつけてね!」


「あぁ」




 そしてティルダは何度も振り返りながら、バイエノールさんに手を引かれて行った。

 その背中が見えなくなると、オレは深呼吸を一つしてコモンドルフィスに目を向けた。

 コモンドルフィスは時々身をよじりながらうめく。

 ガチャンガチャンと鎖のこすれる音に胸がジリジリと痛くなる。



「……オマエも助けてほしかったんだよな」



 突然体が大きくなって、人間に襲われて、捕らえられて。

 元はオレたち人間がやらかしたミスに運悪く巻き込まれただけなのに。

 こわかったよな、苦しかったよな。



「待ってろ。 オレが絶対に助けてやるから」



 オレは拳でグイッと目をぬぐい、新調したての杖を構えた。


『カイは剣よりも杖の方が向いてるよ』


 ふとディオン兄様の言葉が頭をかすめた。




 


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