一緒にいるんだから
一番上の兄ディオンは稽古をつけてくれたり勉強を教えてくれるやさしい人でオレの憧れの存在だ。
フカルクにはいろんな種族がいるから、ランタッベルほど目の色にこだわりはない。
でも『王族にはふしぎな力を持つ者が多い』という言い伝えはおなじで、水色の瞳をもつディオン兄様もふしぎな力を持っていた。
それは『先見の目』とよばれる未来を予知する力。
でもそれがわかったのは比較的最近で、これによってディオン兄様に第一位王位継承権があたえられたのは二か月ちかく前のこと。
眠りについたのはその二週間後の事だった。
それまで最有力候補だったディオン兄様の一つ下のシェムエールだって決してよわい人じゃない。
目を見張るようなふしぎな力はないけど、兄弟の中では一番巨躯で『先祖返りの血筋』と呼ばれるほど武力に長けている。
昔は群れの中で一番つよい者が王さまだったっていうし、おなじオオカミ属としてはやっぱりうらやましくてカッコいい人だ。
そう、兄様たちは王族にふさわしい力を持っている。
でもオレは。
体も小さいし、これと言って何か得意なモノもない。
水色の目だからってティルダやディオン兄様のようなフシギな力もないし、金色の目をもつシェム兄様みたいに強くもない。
どこにでもいる、普通のオオカミ属の獣人だ。
兄様たちとは血がつながってるから王族としてラピスライトを身につける事はできる。
でも、オレにはお飾りみたいなものだ。
そんなオレが、王族と名乗っていいのか。
ずっとずっと答えが出ないままでいた。
「カイ……何で言ってくれなかったの?」
ティルダの声はふるえていたけど、眉をよせてオレをみてる。
王族なのに何もできないオレを見てなさけないと思ったかな。
そう考えたらティルダの顔が見れなくて、オレは落ちてる小石に目をやった。
「別に、お前に言うような話じゃないし」
「でも言ってよ!!」
「言ったってどうしようもないだろ!」
「そんなのわかんないじゃない!!」
そういってティルダはいきなり突進してきたから、オレは不覚にも押したおされてしまった。
「おい! どけよ!!」
「ヤダ! ぜったいどかない!!」
まて、重い! 苦しい!!
ティルダの腕がギュウギュウに首に巻き付いてくるからこっちも必死だ。
おい、本気で息ができないぞ。
「ティルダ、いい加減、はなせって……!」
「ヤダヤダ! カイが話してくれるまでずっとこうしてる!!」
「わかった、にげないから一旦はなれてくれ!!」
すぐそばで大きな声を出したからか、ティルダが体をビクリとふるわせた。
まずい、こわがらせたか?
心配になってジッとしてたら、ティルダは顔を伏せたまますがりつくみたいにギュウ……ッと腕に力をいれた。
そしてゆっくりと体をおこした。
……なんて顔してんだよ。
頭をなでてやりたいけど、今それをしたらかみつかれそうだ。
オレを逃がすまいと馬乗りになったまま、吊りあげた目からは今にも涙がこぼれそうだ。
「……泣いてるのか怒ってるのかどっちだよ」
「どっちもだよ。 カイのバカ!」
「何でオレがバカなんだよ」
「カイがちゃんと話してくれないから!」
「いいだろべつに! どうせオレなんか大したことないし……」
「そんなことない!」
「そんなことあるんだって! オレは兄様たちみたいにすごくも強くもない! 今目の前におきてることすらどうすることもできない弱いヤツなんだ!」
「ぜったいにそんなことない!」
ティルダの大きな声といっしょにポタ、ポタとオレの頬に雫が落ちてきた。
「カイはだれよりもすごい人だよ! 家族を助けるために一人でがんばる、勇敢でやさしい王族の子だよ!!」
ティルダの涙がとまる事なく落ちてくる。
でもその温かさに胸が締め付けられて、オレは言葉をのみこんだ。
「いっしょにいるんだから話してよ。 聞かせてよ。 楽しいこともしんどいことも教えてよ!」
そう言ってティルダはまたオレの胸に顔を埋めてわんわんと泣き出した。
教えろって言っといてそんなに泣いてたら話せねぇだろ。
……くそっ。
また胸の奥がジリジリしてきた。
「はいはい、仲が良いのはよーっく分かったから、二人とも一旦落ち着きなさい」
バイエノールさんがティルダを引き剥がしてくれたおかげでやっと自由になった。
ティルダは頬をふくらましたまましゃくり上げてたけど、バイエノールさんに抱きしめてもらってすこしずつ落ち着きを取りもどしていく。
そんなティルダの頭をなでながら、バイエノールさんは『ねぇ、カイ』とオレの名前を呼んだ。
「カイは自分は無能だって本気で思ってるの?」
「……思ってます」
「じゃあロウハから預かってきたって手紙も嘘なのね?」
「違う! アレはちゃんと本人からあずかってきた手紙だ!」
『なんでそうなるんだよ!』って返そうとしたら、バイエノールさんの笑った顔がすごくキレイで言葉がでなくなった。
「人間も花と一緒で、タネが腐ってたら開花するものも開花しないわ。 カイ、幼いあなたが自分を諦めるには早すぎるのよ。 これだけ褒めてくれるティルダのためにもやってみなさいよ」
「……そうやって面倒事をおしつける気でしょう」
「フフ、自覚してほしいだけよ。 あのロウハの友だちに選ばれた事、そして手紙を書かせた事が既に大事なんだからね」
少しおどけたように、でも愛おしげに話すバイエノールさんはホントにキレイだ。
てゆーか、精霊女王にここまで言わせるロウハさんってホントに何者だよ。
とりあえずロウハさんにはホントに友だちがいなかったって事だけはわかった。
オレは服についた砂をはらい落として今度は自分からバイエノールさんと向き合った。
「……ここでがんばったら、ロウハさんの手紙、受け取ってもらえますか?」
「もちろんよ。 それにティルダを守れる力だって、きっと手に入るわよ」
「え……?」
ふとティルダを見たらパチリと目があった。
泣いた後だから頬も赤くて目も潤んでる。
ヤバい、すごくかわいい。
「!!」
ボン!っと心臓が爆発するかと思った。
一気に全身があつくなって、オレはとっさに腕で顔をかくした。
「カイ……、シッポどうしたの?」
「?!」
ティルダに言われてとっさに振り向いたらシッポの毛が逆立ってる!
ヤバい、さっき変なこと考えたからか?!
ちがう! オレは兄様を助ける力がほしいだけで、ティルダにカッコいいところを見せたいとかそんなんじゃない!
すると何かに勘付いたのか、ティルダがにじり寄ってくる。
まずい、心臓が痛くてうごけない。
そしていっしょに眠る時とおなじぐらいに顔を寄せてきた時だ。
「カイ! いっしょにコモンドルフィスさんたおそう!」
「……え?」
何を言われるかと思ったら、ティルダは『私が毒を解く!』っていった時とおなじ顔してる。
「私もいっしょに戦うからやってみよう!」
「な、何言ってんだよ! オレはともかくお前はあぶないって!」
「大丈夫だよ! ここには精霊さんがいるもん。 一人じゃないよ!」
さっきまですねてたティルダが目をかがかせて、熱くなったオレの手を両手で力強くにぎった。
するとあっという間に、目がチカチカするぐらいの光で視界がいっぱいになっていく。
ティルダを通してオレにも精霊たちの姿が見えてきた。
それは絵本で見てた通り、どれも小さくて儚げで。
それでもみんなでティルダを守ってきたんだ。
その光景に見とれてたら、心もいつの間にか落ち着いていた。
「今度は私がカイを助ける番だよ。 私も手伝うからがんばってロウハさんのお手紙わたそう!」
その小さな精霊たちに囲まれてるティルダの笑顔がいちばんかがやいて見えた。
それがオレに向いてると思うと、うれしくて、ホッとして呼吸がラクになっていく。
「……そうだな。 本物だって証明してやろう」
「うん! がんばろう!!」
そうだ、もうここまで来たんだ。
くさってるヒマはない。
一刻も早くここをかたづけて、ティルダといっしょに兄様のところへもどるんだ。




