隠し事
ティルダの提案にオレとバイエノールさんは目をむいた。
ティルダのヤツ、拳までにぎって気合入ってるけど、オレもバイエノールさんも慌ててティルダを止めに入った。
「何を言ってんだよ! そんな事して毒をくらったらどうすんだよ!」
「なったらなった時にまた考えればいいでしょ?」
「そういう事じゃないの! 私と違ってあなたは人間なのよ? 毒がどんなふうに影響するかわからないでしょ!」
「そんなのやってみなきゃわからないよ!!」
ティルダは明らかにムッとした顔でオレたちの話を聞こうとしない。
確かにティルダの力なら薬の元になってる治癒魔法を解除できるかもしれない。
でもバイエノールさんが言ってたとおり、副作用で『毒』になってしまった魔法を解除するんだ。
こわくないのか? 不安じゃないのか?
何でそんなに平然としてられるんだよ!
「ティルダ、もっとほかの手を考えよう。 お前が体はる必要はないって!」
「カイこそなんで止めるの? これでうまくいったらお兄さまが同じことになってても助けられるかもしれないんだよ?」
「大丈夫だっていう確信がないからだ! ティルダが苦しむのは見たくない!」
「お兄さまを助けたいんでしょ? なら私よりもお兄さまを優先しなきゃダメ!」
そう言ってティルダはちいさな手でオレの両頬をもってグッと顔を寄せた。
「カイは何のために私をつれてきたの? お兄さまを助けるためでしょ?」
「そ、そうだけど……」
「ならやってみなきゃ、カイが危険な思いして私を連れてきた意味がないよ」
「……」
「それでもダメよ」
話を聞いてたバイエノールさんもすごく眉をよせてズイッと顔をよせてきた。
でもティルダじゃなくてオレの方にだ。
「……仕方ないわね。 こうなったらワンちゃんにも手伝ってもらうわよ」
すっごくむずかしい顔してるけど、他に手があるならその方が絶対いい。
「も、もちろんです。 オレでできることなら何でもやります!」
「よく言ったわ。 じゃあティルダが魔法を解除する前にコモンドルフィスを大人しくさせて頂戴」
「え……、あのデカいのを、オレ一人でですか?」
「そうよ。 体内の魔法を解除するには体そのものに触れなきゃ力は発揮できない。 そうなると必然的にコモンドルフィスを大人しくさせなきゃいけないでしょ」
「じゃあ、討伐隊を呼んで……」
「そんなの待ってるヒマはないわよ」
スッと細められた緑色の目を見たら何も言えなくなってしまった。
確かにそのとおりだ。
どれだけ急いだって王都にもどるのに五日はかかる。
だからって近くの町の警備兵に頼みにいっても、あんな魔物を相手できるかもわからない。
そもそも子どもの話を聞いてくれるかもどうかわからない。
そうだよ、オレしか動ける人間がいない。
だから早く決断しろよ。
何迷ってんだよ。
ティルダだって体張ってアイツの毒を何とかしようとしてるだろ。
さっさと腹をくくれよ。
……でもホントにオレがアイツを何とかできるのか?
剣術じゃなく杖術しか使えないオレがホントに戦えるのか?
ティルダの力になってやれるのか?
恐怖に押しつぶされそうになる。
背中にイヤな汗がながれてくる。
「バイエノールさん! たしかにカイはつよいけどあんなのとたたかったら死んじゃうよ!」
「……案外そうでもないかもよ?」
「え? どういうこと?」
目を丸くするティルダをみてバイエノールさんはフッと小さく息をはくと、今度は視線をオレにむけた。
「水色の目を持つ王族がただの獣人なわけないでしょ」
まさかの言葉にオレもティルダも目を大きくした。
「王族……? カイって王族の子なの……?」
「フカルクでは王族の証として青いラピスライトをあしらった装飾品をつけるのが習わしなの。 ワンちゃんの耳にもそれがちゃんと付いてるでしょ?」
するとティルダと目が合った。
ただジッと、オレとおなじ水色の目で。
「ねぇ、カイ……」
何か言いたげな顔をみてオレは顔をそむけた。
ずっと抱えてる《《劣等感》》を見抜かれそうでこわくなった。
するとバイエノールさんは腕を組んで大きなため息をついた。
「……まさか名乗りもしてなかったの? フカルク帝国第三王子、カイ・アウス=フカルク」
「えぇ?! じゃあ眠ったままのカイのお兄さまって……」
「ディオン・アウス=フカルク。 フカルク帝国の次期国王だ」
もうこれ以上は隠しとおせない。
だからオレはなんとか声をしぼり出して答えた。




