水色の瞳のヒミツ
このとき私の直感がはたらいた!
「あ、あの! あなたがバイエノールさんですか?」
私が前のめりになって聞いたら女性は一瞬キョトンとしたけど、すぐにフフッとにこやかに笑った。
「そうだけど……、私の名前知ってるなんて珍しいわね」
予想どおりの返事が返ってきて、私とカイは顔を見合った。
すごい!
こんなあっさりと見つかるなんてビックリだ!
キャラメルがとけたみたいな琥珀色の長い髪、片方は前髪でかくれて見えないけど、緑色の宝石みたいな目をしてる。
しかも目尻がちょっと下がってるのが色っぽくて胸もおっきい。
とがった耳がちょっと気になるけど、膝上まであるブーツがとってもカッコいい!
カイはさっそくあずかってた手紙をバイエノールさんに差しだした。
「オレ、ロウハさんの友達になったカイっていいます。 これをあずかってきたので受け取ってもらえませんか?」
「友達……?」
カイが話しかけたらバイエノールさんの目が何故かキッとするどくなった。
そしてそのままズイッとカイに押しせまった。
「あのロウハに友達ですって? 信じられないわ」
「な、なったのがつい昨日だったからムリもないです。 でもこれはホントにロウハさんが書いたものなんで受け取ってください!」
「……イヤよ。 そんなの捨ててちょうだい」
バイエノールさんはツヤツヤの横髪を手の甲でながしてプイッと顔をそむけた。
でもカイもこれぐらいじゃ引き下がらない。
「なぜですか? 理由をおしえてください!」
「彼が紙に文字を書くなんて有り得ないからよ」
バイエノールさんはそうキッパリとこたえた。
そのままカイをムシして私の前にきたバイエノールさんは、ペタペタモミモミといろんな角度から私の顔を触ってもんで引っぱってきた。
そして最後にジッと私の目を覗き込んだ。
「ねぇ、アナタまさかあのティルダ?」
「え? なんで私の名前……」
「やっぱり?! やっぱりそうなのね?!」
突然バイエノールさんが『きゃー♡』って叫びながらそのおっきい胸で私をつつんだ。
うわぁ、すっごくやわらかい。
「こーんなかわいい子だなんてビックリだわ! もっとよく顔を見せて頂戴?」
私の顔を両手で持ち上げて、バイエノールさんはまたジッと私の目をのぞきこんだ。
吸い込まれそうなほどにキレイな緑色の目。
こんなの男の子じゃなくてもドキドキしちゃう。
なんて思ってたらバイエノールさんは目を細めて笑った。
「会いたかったわ、私の”愛し仔”。 皆であなたに会えるのを待ってたのよ」
「いとしご……?」
「そう、あなたは生まれながら精霊に愛される運命にあるの。 皆、あなたの願いを叶えるためにずっとそばにいたのよ」
そう言ってバイエノールさんは私の額にチュッとキスをした。
「え? えぇ?!」
いきなり目がおかしくなっちゃった!
さっきまで何もなかったのに、いきなり赤、緑、青、黄色、オレンジ、紫……、とにかくたくさんの色の発光虫さんがでてきた!
でもよく見たらみんな手のひらサイズの小人さんで、中には羽がはえてる子もいる。
ゴシゴシと目をこすってたら、バイエノールさんがフフッとうれしそうに笑った。
「この子達は皆精霊よ。 国境付近は特に数が多いの。 まだ力が弱い子達をいれたらもっともっといるわ」
「そうなんだ……!」
ビックリしてたらカイがチョンチョンと私の肩をつついた。
「ティルダ、何がおきてるんだ?」
「……もしかしてカイには見えてないの?」
「バイエノールさん以外には何にも」
「さっき落ちてきた時に一緒に見たじゃない! あの時に見た発光虫さんがやっぱり精霊さんだった! 今ここにいーっぱいいるの!」
「ホントか……?」
カイはちょっとこまった顔でキョロキョロまわりを見てるけど、カイのそばにいる精霊さんたちと全然目が合わない。
「ワンちゃんにも見えたっていうのはきっとティルダを通じてだから出来たのよ。 精霊の姿は普通の人間には見えないわ」
なるほど、バイエノールさんはものしりだ!
それなら、と私はとなりにいたカイの手をギュッとにぎった。
するとカイは体をビクンとさせて真っ赤になった。
「いきなりなんだよ!」
「これで見える?」
「え? え……、 うわ!!」
カイの目がこれでもかってぐらいに大きくなった。
よかった、カイにも分かってもらえた!
バイエノールさんも満足気にフワフワ飛んでる精霊さんたちを見てる。
「こんなすごい数の精霊がティルダのまわりにいたのか……?」
「ここまでじゃないけど、危ない時にはいつも精霊達が魔法を使ってティルダを守ってたのは確かよ。 大事な大事な愛し仔を死なせる訳にはいかないからね」
「じゃあティルダが魔法を消したように見えたのも精霊達の仕業なのか?」
「あら、察しの良いワンちゃんね。 本来魔法というのは魔力と精霊達がもつ力とを結びつけて起こす超常現象なの。 でもティルダの場合は存在そのものが私達の力の源。 だから他人がかけた魔法よりもティルダの願いを優先するからそう見えたのよ」
ということは、私はずっと精霊さんたちに守ってもらってたの?
お兄さまたちの魔法や兵隊さんからも、今落ちてきたときも、生きていられたのは皆精霊さんたちのおかげなんだ。
「ティルダ、どうした?」
「え?」
カイのやさしい声に顔をあげたら、目からポロッと涙がおちた。
いつのまにか泣いてたみたいだ。
どうしよ、かなしくないのにどんどん涙がでてくる。
止められなくて困ってたら、カイがやさしく頭をなでてくれた。
「ずっと誰かがそばにいてくれてたんだな。 良かったな」
そっか、うれしくて涙がでたんだ。
カイの笑顔をみたら私もつられて頬がゆるんだ。
「でも一番そばにいてうれしいのはカイだからね!」
つないでた手にもう片方の手を添えて気持ちを伝えたら、カイはぶっきらぼうに『……あっそ』とつぶやいた。
シッポが揺れてるから、きっと伝わってるよね。
「ちょっと、私がいること忘れてない?」
バイエノールさんのぼやきで我に返った。
そうだ、私たちはバイエノールさんに手紙をわたさなきゃダメだったんだ!
もう一度お願いしようとしたら、先にカイの手が私の口をふさいだ。
さっきまでやさしかったカイの顔がちょっときびしくなった。
「ティルダのこと教えてくださってありがとうございます。 それにしてもバイエノールさん、精霊についてやけに詳しいですけど一体何者なんです?」
実は私もおなじこと考えてた。
だって精霊さんが見えるようになったのもバイエノールさんが額にキスしてくれてからだし、私の事を『いとしご』って呼んでた。
何かヒミツがあるハズだ。
するとバイエノールさんはちょっぴり眉を下げた。
「……かわいいあなた達になら話してもいっか」
そういってバイエノールさんは両手を胸にあてて何かをつぶやいた。
するとブワッとたくさんの小さな光が集まってきてバイエノールさんの体を包んでいく。
そしてパラパラパラ……と光のカケラがはがれ落ちると、両耳の上に金の花かざりをつけたバイエノールさんがあらわれた。
「私は精霊女王バイエノール。 正真正銘ロウハの妻よ」
「「えぇぇ?!」」
ロウハさんの奥さんて精霊さんだったの?!
私もカイもそれ以上言葉がでなかった。
だって青緑の生地に金の刺繍がされたドレス、そして背中にはチョウチョのように透き通った大きな羽がついてる。
どう見たって人間じゃない。
けどあまりにもキレイで私たちは見とれてしまった。
するとバイエノールさんはちょっと眉をよせた。
「ちょっと、ロウハと会ったんでしょ? 私の事聞いてないの?」
「会ったけど……奥さんが精霊女王だなんて一言も聞いてないです……」
「うそっ」
カイの話にバイエノールさんは額に手を当ててため息をついた。
もしかして言っちゃダメな話だったのかな。
「……やっぱりロウハの友だちっていうのは嘘だったのね?! もういいわ!」
顔をまっ赤にしたバイエノールさんが、私を抱きしめてフワッとお空にうかんだ。
「うわっ、わっ?!」
「ティルダ!」
カイがとっさに私の手をつかもうとしたけど、私とバイエノールさんはカイの手の届かない高さまで上がってしまった。




