国境を超えて
温かいご飯を食べたあと、私たちはもう一度国境のカベの前にやってきた。
カイとはまだ仲直りできてない。
でも『連れていかない』って言われてないからきっと大丈夫!
私は両手をギュッとにぎって気合をいれた。
するとロウハさんが胸ポケットから白い封筒をとり出してカイに手わたした。
「じゃあカイ、よろしくね」
「……わかった」
「何の話?」
「お前には関係ないっ」
あ、またそっぽ向いた!
もういい加減きげんなおしてよ!
むくれていたらロウハさんが頭をなでてくれた。
「実はフカルクにいる妻に手紙を渡してもらう約束をしたんだよ。 バイエノールっていう琥珀色の髪の女性だ。 すっごくステキな人だからすぐ分かると思うよ」
そんな楽しそうな話になってたの?
おしえてくれないなんてひどいじゃない!
フフ、でもロウハさんがデレデレ顔だ。
どんな人だろう、会えるのが楽しみだ!
「今のフカルクは僕の管轄外だから国境を超えた時点で魔法の効果が切れる。 だからよーく気をつけて下りるんだよ?」
カンカツガイってどういう意味だろ。
しかも気をつけて下りるってどこから?
まさかこの上からじゃないよね?
「じゃあ魔法をかけるから二人とも手を握って?」
「「え?」」
「ホラ早く早くっ!」
……ロウハさん、目がすごくキラキラしてる。
もしかして仲直りさせようとしてるのかな?
でもどうしよ、何て声かけたらいいんだろ。
「ホラ、さっさとしろ」
そしたらカイの方からギュッと私の手をにぎってくれた!
ビックリしてカイを見たらうつむいたまま顔が赤くなってて、シッポもパタパタゆれてる。
うわぁ!
ブワッ!ってしあわせな気持ちになった。
どうしよどうしよ!
体が熱くてすっごく心臓がドキドキしてきた!
「うんうん、やっぱり君達は尊いなぁ! よし! とびっきりの魔法をかけてあげよう!」
ロウハさんは指で涙をぬぐいながら、私たちを指さしてクルッとマルを描いた。
そしたらブワァ!っと私たちの目の前に大きな大きな魔法陣がでてきて、あっという間に私たちは飲みこまれてしまった。
そして気づいたらシャボン玉の中にいた。
すごい、息もできるし中からたたいてもこわれない。
「いいかい? 自分を信じて、そして絶対に手を離すんじゃないよ? それじゃあ行っといで!」
ロウハさんはそう言って、私たちがのったシャボン玉にふれた。
そしてそのままボールみたいに持ち上げると、『せーの!』という掛け声で空にむかって思いっきり投げ飛ばした!
「「??!!」」
まるで自分がボールになったみたいだ!
だってものすごい速さでガケみたいに見えた国境のカベを乗り越えたんだもん!
私もカイもしゃべるヒマなかった。
でもカベを超えてフカルク側に入った時だ。
パチンと私たちを乗せたボールがはじけて消えた。
急につめたい風にさらされて、私はギュッと体をちぢめた。
「手をはなすなって!!」
あ。
「きゃあ――――っ!!!!」
思わず手をはなしちゃった!
一瞬だけ体がかるくなったと思ったら、ものすごいはやさでまっ逆さまに落ちてく!!
こわい、こわい、こわい!!
ギュッと目をつぶったら、地面にたたきつけられる自分を想像してしまった。
やだ! 死にたくないよ!!
「ティルダ――!!」
カイの声だ!
声がした方に思いっきり手をのばしたら、カイが私の手をとってグッと引いた。
そして私を守るようにギュッと抱きしめた。
――ブワァッ!!
すると突然下から突風にあおられて体が宙に浮いた。
「……え……?」
よく見たらたくさんの夜光虫さんが私たちのまわりを飛んでいた。
フワフワ、ピカピカ、キラキラ。
その一つ一つがまるで私たちが落ちないように守ってくれてるみたいに側にいる。
夜じゃないのにそれがすごくキレイで、こわい気持ちなんて吹き飛んでっちゃった。
「何が起きてんだ……?」
「カイにも見えるの?!」
「あぁ。 ……もしかしたら夜光虫じゃないかもしれない」
「そうなの?」
「オレも絵本でしか見たことないけど……コレ、ぜんぶ精霊かも」
「精霊……?」
気付いたらトン、と地面までおりてきてた。
ホッとしたら体の力がぬけて、カイに抱きついたままカクンと後ろへ倒れてしまった。
ドシン! ゴン!
そして地面に頭をぶつけた。
……あれ、ちがう。
音がしたのに私、どこも痛くないや。
「お前なぁ……、オレまで巻き込むなよ……」
うわっ! カイがクッション代わりになってたから頭をうたずに済んだんだ!
身長はおんなじぐらいなのに体はしっかりしてる。
カイってやっぱり男の子なんだ。
うわぁ、どうしよう、何だかはずかしい……。
するとカイは寝転がったままで私の頭をなでた。
「どこも打ってないか?」
「う、うん! カイは? カイこそ頭打ったんじゃない?!」
「……大したことねぇよ」
そしてカイは大きくてなが〜いため息をついた。
かばってくれたんだ。
うわぁ〜どうしよう。
はずかしいのとうれしいのとがごちゃまぜだ。
「カイ……」
「何だよ」
「……ありがと」
「……ん」
どんな顔してるか見たかったけど、今はこのままでいいや。
カイに抱っこされてるの、すごく気持ちいいい。
「あらあら、何が落ちてきたかと思ったらこどもじゃない」
するとすぐそばで女の人の声がして私たちはとび起きた!
いつの間にか、琥珀色の長い髪をなびかせたキレイなお姉さんがしゃがんでフフフと笑っていた。




