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決意を新たに

 目が合うなりティルダはフラフラとオレのそばまで歩いてきた。

 額に手をやると、少し熱が下がったみたいだった。

 薬が早く効いたのかもしれない。

 『カイの手がつめたくて気持ちいい』なんて笑うを見ると、心がちょっとだけ軽くなった。


 

「ちゃんと寝てなきゃダメだろ」


「ゴメンなさい。 でも起きたら誰もいないから置いてかれちゃったのかと思って」



 いつも『一人はこわい』って言ってるもんな。

 何だか悪いことした気分になって、オレは肩に掛けたブランケットに包まってシュンとしてるティルダの頭をなでた。

 するとティルダの表情が暗くなる。


 

「ねぇカイ、私はいっしょに行っちゃダメなの?」


「えっ」



 思わず息をのんだ。

 やっぱりさっきの話聞いてたのか。

 ティルダの大きな目から今にも涙がこぼれそうなのに、オレは何も言えなかった。 


 するとロウハさんがオレの代わりにティルダの前にしゃがんで優しく語りかけた。



「ティルダちゃん、君がフカルクに行ったら王様達がすごく怒ると思うんだ。 そうなったら君もカイもタダじゃすまない。 すごく危険だよ?」


「私嫌われてるのに? どんなにいじめられてても無視してたのに? ……こんな時だけずるいよ」



 そして『フカルクの子になりたい……』と小さな声でつぶやいた。 


 いくら抵抗しても、子どものオレたちじゃ大人には敵わない。

 オレがもっと大人だったら。

 ティルダを守れるだけの力があったら。

 

 ……なんて、結局はないものねだりだな。


 そんな事考えてたら、ティルダがオレの服の裾を引っぱった。

 なんだ、その『いいことひらめいた!』的な顔は。


 

「ねぇカイ、コソッといってコソッと帰ってきたらいいんじゃない?」


「え?」


「バレないようにフカルクに行って、カイのお兄さまを起こしたらすぐ帰るの。 ねぇ、そうしようよ!」


「そうしようよって……」



 借りてきたものをこっそり返すとか、そんな単純な話じゃねぇんだよ。

 オレは前のめりで訴えてくるティルダから目をそらすようにロウハさんを見た。


 え、ウソだろ。

 何であんたが泣いてんだよ。


 

「う、うぐ……っ、美しいねぇ! うぅ……っ、やっぱり、子どもはぁ……、純粋で美しいよぉ!!」



 ……滝みたいに涙を流して何いってんだよ。  

 美しいからって解決したわけじゃねぇだろ。

 でも泣いたままオレたちを抱きしめたからおどろいた。



「行っておいで。 君達の勇気は必ず実を結ぶ。 僕が保証するから安心していいよ」



 そしてすごく優しい声で『大丈夫だよ』と言った。


 ホントに行ってもいいのか?

 ホントに安心していいのか?

 色々聞きたいけど、オレは一旦言葉を飲み込んだ。



「……保証するってどういう意味だよ」


「そのまんまだよ。 ただ決めるのも行動するのも君達だ。 助けが必要になったら自分達の足で僕の所に戻っておいで」


「戻ってきたら、お兄さんが助けてくれるの?」


「あぁ。 勿論僕のお願いを叶えてくれたらだけどね」



 パチンとウインクしたロウハさんは『ティルダちゃんはお兄さんって呼んでくれるのかぁ〜、うれしいなぁ〜』なんてデレデレしながらティルダを抱き上げた。

 見てて複雑な気分だけど、背の高いロウハさんに抱えられてるティルダも結構うれしそうだ。

 もしかしたらこうやって父親に抱いてもらった事もないのかも。


 胡散臭い大人だけど、その場しのぎの言葉かも知れないけど、いつの間にかオレも呼吸がラクになっていた。 

 

 しばらくして、オレはロウハさんの服のすそを引っぱった。



「ん? カイ、なんだい?」


「その……オレ、ぜったいに手紙届けるから、明日までにちゃんと書いてくれ」


「え……、良いのかい?」


「その、オレたち……友だちだし」



 自分でもらしくない事言ってるのはわかってる。

 わかってるからそんなに泣かないでくれ。

 そんな生温かい目で見ないでくれ!


 

「ティルダちゃん、どうしよう! カイが真っ赤になってて可愛すぎる!!」


「カイはカッコいいけどかわいいんだよ。 だからぎゅってしてあげて!」


「分かった!!」


「やめろ! 来んな! 気色悪い!」



 ハグなんていらないから追いかけてくんな!

 でもしまいに『友だちなのに冷たい』って泣くから最後はしかたなくハグされてやった。

 慣れない大人とのやりとりは気を使う。


 でも頭の中はスッキリした気がした。


 兄上を助けてティルダが幸せになれる道をさがす。

 コレだけはオレがどうなっても絶対にやりきってみせる。


 ……うん、覚悟が決まった。


 





「はぁ……、つかれた」



 ひとしきり騒いでたらすっかり夜が更けていた。

 手紙の事もあるので今夜は泊めてもらえる事になってホッとした。

 体力には自信あるけど、ハイテンションなおっさんと二時間もしゃべってたらさすがに眠い。

 オレは湯浴みを済ませるとさっさとリビングのソファで横になった。


 その時だ。



「カイ、となりで寝てもいい?」



 気づくとティルダがそばで枕を持って立っていた。

 まてまてまて、病人が何言ってんだ!



「お前はちゃんとベッドで寝ろって! ちゃんと治さねぇと次行けないだろ!」


「じゃあカイもいっしょにベッドで寝てよ!」



 ……《《また》》だ。

 むずがゆい緊張感がゾワゾワとおそってきた。

 最近ティルダといると胸がギュッとしまる時がある。

 掻きむしりたくなる事がある。


 ティルダがイヤだからとかじゃない。

 むしろ頼ってもらえてるからうれしくて。

 ムズムズ、イライラ、フワフワ。

 そんなのが一気に押し寄せてくるんだ。

 

 ったく、そんな泣きそうな顔するなよ。

 断れないだろ。



「……いいけど今日はもうオオカミになるのめんどいからこのまんまだぞ」


「人間のままってこと?」


「あぁ」


「大丈夫だよ。 お兄さんのベッドおっきかったし」



 ……何だよ、気はずかしいのはオレだけかよ。

 そんなにうれしそうに笑うなよ。


 こうなったらさっさとティルダを寝かそう。

 オレはあきらめて枕を抱えると、ティルダの手を引いてロウハさんの部屋に向かった。

 

 


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