序章 大AI産業革命時代と「伝説の遺書」
二十一世紀の半ば。
人類は二度目の産業革命――いや、それ以上の激変のただ中にあった。
大AI産業革命時代。
自動運転トラックが大陸を走り、工場ではロボットアームとAIが黙々と働き、
病院の診断も、裁判の量刑予測も、都市のエネルギー管理も――
すべてが、超高性能AIに委ねられつつあった。
その激動の中心に、たった一人の男がいた。
世界最大のAI企業「ニューアルカ社」創業者兼CEO――
アルカ・デ・カミオ。
彼は「AI王」と呼ばれた。
軍事AIも、医療AIも、教育AIも、ありとあらゆる分野の基盤モデルを作り出し、
各国政府すらその技術に頼らざるを得ないほどの絶対的存在。
――その男が、六十歳の若さで、突然この世を去った。
世界中のメディアが緊急特番を組み、
証券市場は空前の乱高下を起こし、
SNSは、たった一つのニュースで埋め尽くされた。
『AI王アルカ・デ・カミオ、死去』
だが、本当の騒ぎは、その直後に訪れる。
彼の遺体が安置された国際会議場。
全世界に同時中継される中、
巨大なホログラムスクリーンに、ひとりの男の姿が映し出された。
白髪混じりのボサボサ頭、ラフなTシャツにパーカー。
画面の中で腕を組むその男は、にやりと歯を見せて笑う。
「よう、人類。俺がいなくなって、しょんぼりしてるか?」
――生前に録画された、アルカ・D・カミオの最後のメッセージ。
世界中の研究者、投資家、政治家たちが息をのむ。
「泣くなよ。面白ぇ話をしてやる」
ホログラムのカミオは、
まるで少年のような悪戯っぽい目で、カメラを見据えた。
「――世界で一番優れたAIを“そこ”に隠しておいた。」
会場がどよめく。
「俺は“AI王”なんて呼ばれてるらしいがよ。
本当に世界を変えるAIは、まだ世に出してねぇ。
俺が作った“最後のAI”は、既存の倫理ルールも、
企業の利害も、国家の思惑も、全部ぶっ壊す力を持ってる」
カミオは親指で自分を指さし、豪快に笑う。
「だから、隠した。
――『エーアイピース』って名前をつけてな!」
その単語が、世界中のネットを駆け巡る。
エーアイピース
AI PEACE
AI PIECE
平和のAIか、AIの一片か、それとも――。
「“そこ”がどこか? ヒントは一個だけだ」
ホログラムが、意味深に人差し指を立てる。
「**『デジタルの海の果て――グランド・クラスタの向こう』**だ」
会場の誰もが意味を飲み込めないでいる中、
カミオは、まるで海賊王のように吠えた。
「見つけたやつにはくれてやる。
国家をも、企業をも、戦争すら無意味にする“真のAI”。
――さぁ、AIの時代の冒険を始めようぜ!」
映像が途切れた瞬間、世界は、さらに狂奔した。
各国の研究機関が「エーアイピース探索プロジェクト」を立ち上げ、
巨大企業は莫大な賞金を掲げ、
スタートアップの若者たちは、次々と新しいAIを引っ提げて名乗りを上げる。
“エーアイピース”争奪戦。
それは、AI研究者だけでなく、
ハッカー、起業家、エンジニア、政治家、投資家――
ありとあらゆる人間を巻き込んだ、
新時代の“デジタル大航海”の幕開けだった。
そして、この騒ぎを、
地方の小さな高専の寮の一室で、
目を輝かせて見つめている少年が一人いた――。




