第1章 | 第12部: 欲望の欲望
明け方の太陽が、大邸宅の大きなガラス窓からゆっくりと差し込んでくる。その黄金色の光は、今や乾いた血で汚れた白い大理石の床に降り注ぐ。生臭い匂いがまだ空中に漂い、鼻を刺す。まるで、すべての壁が昨夜の悲劇を記憶しているかのようだ。大邸宅の正面の床は散らかっていた。割れたガラス、倒れた家具、そしてまるで終わりのない戦いの跡のように長く続く血痕。
その広間に残されたのは、たった5人だった。
シンシアは中央に立っていた。普段は聖なるオーラを放つ白いドレスは、裾が赤く血に染まっていた。まだ息が荒く、視線は虚ろだったが、その瞳は決意に満ちていた。メイとジョイは壁に寄りかかって座っていた。顔は青ざめていたが、メイの唇には薄い笑みが浮かび、妹を慰めようとしていた。冷徹なジョイでさえ、今回は苦しみを隠すことができなかった。彼女の手は、昨夜盾として使った折れた槍を固く握りしめていた。
ピタは少し離れた場所に立っていた。長い髪は乱れ、体は弱っていたが、その赤い目は燃えていた。怒りではなく、涙をこらえているからだ。彼女は、部屋の中央にある壊れた木製の椅子に座っている小さな人影をじっと見つめ続けていた。
ルイーズ。
その少年は、誰よりも打ちのめされているように見えた。小さな体はまだ震え、小さな角は朝の光を浴びてかすかに輝いていた。手にはまだ昨夜の食べ物の染みがついていた。目はあまりに長く泣いていたため赤く腫れていた。初めて、周囲は完全に静まり返った。まるで全世界がルイーズが口を開くのを待っているかのようだった。
シンシアが一歩前に出る。彼女の優しい声が沈黙を破った。
「ルイーズ…全部話してちょうだい。昨夜、私たちはほとんど全員を失うところだったわ。もしあなたの出自や、あなたのお母さん、そしてあの攻撃の理由について何か知っているなら…私たちはそれを聞く必要があるの。」
少年は黙ってうつむいた。その肩は震え、まるで何かが爆発しそうだった。手は固く握りしめられ、そして彼はかすれた声で話し始めた。
「…この全ては…母のせいだ。彼女のせいだ—ラストの。」
全員が息をのんで、その言葉に集中した。
ルイーズは虚ろな目で床を見つめ、静かだがはっきりとした声で続けた。
「母は…僕を子供として見たことは一度もなかった。僕はただの『失敗作』だ。僕が生まれてから、僕と何百人もの他の子供たちは実験台にされた。母は完璧な子孫を創りたかったんだ…兵士、スパイ、奴隷、彼女の玉座を強化できるものなら何でも。捕らえられた男たちは…母の欲望を満たすためだけに徹底的に搾り取られた。弱ければ捨てられ、強ければ鎖に繋がれ、奴隷にされ、死ぬまで使われた。」
メイは唇を噛み、目が潤み始めた。「じゃあ…首都で起きた男たちの誘拐事件は…全部ラストの仕業だったの?」
ルイーズはゆっくりとうなずいた。
「うん。すべて彼女の欲望のためだ。彼女は決して満足しない。彼女は男たちの体を材料として、娯楽として、そしてより多くの子孫を生み出すための機械として利用した。女たちは…状況は良くなかった。彼女たちはスパイや使用人にされ、運が良ければ、あの粘液の宮殿の侍女にされた。でも結局は…誰も人間とは見なされず、ただの駒だったんだ。」
ずっと黙っていたジョイが、ついに冷たい声を出した。
「気持ち悪い。あれは母親じゃない…怪物だ。」
ルイーズは目を閉じた。涙がこぼれ落ちるのを止められなかった。
「僕は…故郷に帰る勇気さえなかった。昨夜僕は逃げ出したんだ…僕は男を誘拐するのを拒否したから。母は僕に街から男を一人連れてくるように言った。でも僕は…僕にはできなかった。逃げれば自由になれると思ったんだ。でも現実は…僕はただここに問題を引きずり込んできただけだった。母を裏切ったから…母の仲間たちがこの屋敷を包囲したんだ。」
ピタが近づき、ルイーズと目を合わせるように身をかがめた。彼女の優しい手が少年の肩に触れた。
「違うわ…あなたは裏切り者じゃない。あなたはただ、勇気を持って選択した子供よ。それは多くの人ができないことだわ。」
ルイーズは振り向いて、赤く腫れた目でピタを見つめた。
「でも…僕のせいで、あなたたちは傷ついた。たくさんの人が死にかけた。僕がこの問題を持ち込んだんだ…」
シンシアはゆっくりと首を横に振った。彼女の目はまだ悲しみを湛えていたが、その笑顔は優しかった。
「あなたは問題を持ち込んだんじゃない、ルイーズ。あなたは真実を運んできてくれたのよ。もしあなたがこれを全て話してくれなかったら、私たちは盲目のままだったかもしれない。今、私たちは本当の敵が誰かを知っている。今、私たちは何と戦うべきかを知っている。」
雰囲気が変わり始めた。肉体的な傷はまだ残っていたが、彼らの胸には小さな火が灯っていた。
メイは笑顔を見せようとしたが、頬にはまだ埃と乾いた血が付着していた。
「とにかく…他人の血を掃除するのはもううんざりよ。今度はもっと大きな汚れをこの世界から掃除する時ね。もしラストが本当にあなたが言ったようなものなら…彼女こそがこの世界最大の汚点だわ。」
ジョイは静かに鼻を鳴らした。しかし今回は冷たさからではなく、その目に小さな火が灯っており、多くを語らずとも姉の言葉を支持しているようだった。
ルイーズは深く息を吸い込み、左手を上げた。彼は手の甲にある黒い印を見せた。それはラストからの直接の遺産の象徴だった。
「これは…繋がりの印だ。この印がある限り、僕は母の欲望を感じることができるし、彼女は僕の存在を感じることができる。きっと…遅かれ早かれ彼女は僕がここにいることを知るだろう。警戒してくれ。大規模な誘拐が起きる。明日の夜、何百人もの男たちが強制的に粘液の玉座に運ばれる。それは単なる噂じゃない…僕自身がその計画を聞いたんだ。僕はそれに加わりたくなくて逃げたんだ。」
その言葉は部屋を再び静寂に包んだ。全員が互いを見つめ、もし何百人もの男たちが本当に誘拐され、ラストの奴隷にされたら、どれほどの恐怖が起きるかを想像した。
ピタはルイーズの手を強く握り、力を与えようとした。
「なら、私たちがそれを止めるわ。私たちはあなたのお母さん…いいえ、あの怪物が、これ以上好き勝手するのを許さない。」
シンシアはうなずいた。彼女の白いドレスは、割れた窓から入る風にかすかに揺れていた。
「昨夜、私たちは多くのものを失ったかもしれない…でも、私たちはまだ立っている。私たちが立っている限り、まだ希望はある。ルイーズ、これからあなたは奴隷じゃない。あなたは私たちの仲間よ。」
ルイーズは再びすすり泣いたが、今度は恐怖からではなかった。彼は皆を見つめ、初めて温かい光が彼の目に宿った。
「ありがとう…僕…なんて言えばいいか分からない。これまで僕はただ『奴隷』と呼ばれてきた。名前さえなかった。でも、あなたたちは名前よりもっと貴重なものを僕にくれた…家族をくれたんだ。」
メイが元気に彼の肩を叩いた。
「知っておいてほしいんだけど、私たちの家族はちょっと変わってるの。頑固な貴族、陽気な使用人、冷たい使用人、美しい魔女、そして怒りん坊のロリっ子がいるわ。だから、わけの分からない喧嘩になっても驚かないでね。」
ジョイはただため息をついたが、その唇の端にはかすかな笑みが浮かんでいた。
「君が面倒を起こさなければ、僕は構わない。」
シンシアはゆっくりと明るくなる空を見上げた。
「明日の夜、首都は揺れるでしょう。私たちには時間がない。でも私たちは逃げない。もしラストが男たちを奴隷にしようとするなら、私たちは彼女の前に立ちはだかる。私たちは…少女たちの軍隊よ。」
ピタは静かに、しかし決意に満ちた声で付け加えた。
「そして今度こそ…私たちは自分たちだけじゃなく、虐げられている全ての人たちのために光を運ぶわ。」
ルイーズは皆を見つめ、目が潤んでいた。初めて、彼は受け入れられていると感じた。彼はもう奴隷ではなかった。彼はルイーズだった。
そして、彼の心の中で、小さな火が燃え始めた。いずれ、それは母親自身の玉座を焼き尽くす炎となるだろう。
大陸の果てに、濃い赤色の城が立っていた。その壁は普通の石ではなく、有機的な結晶と、まるで生きているかのようにゆっくりと脈打つ肉の混合物でできていた。城の周囲の空気は、腐った花と新鮮な血が混ざり合った、甘く吐き気を催す香りで満たされていた。内部には、人間の骨が美しく配置され、半透明の赤い絹の布で覆われた、巨大な玉座が高くそびえ立っていた。
そしてその上に、一人の女性が座っていた—ラスト。
彼女の体は完璧で、まるで酔った神によって彫刻されたかのようだった。長い紫の髪は床に垂れ下がり、ピンクの目は荒々しい光を放ち、濡れた赤い唇は狡猾な笑みを浮かべていた。彼女のドレスは薄く、ほとんど透明で、あらゆる汚れた想像を誘うように意図的に開かれた網のようだった。彼女はただ美しさだけでなく、毒を帯びていた。その一挙手一投足が罪への誘いだった。
彼女の前に、目隠しをされた若い男がひざまずいていた。彼の体は筋肉質で、背中にはまだ赤い鞭の跡があった。彼はジロウという名で、選ばれた捕虜の一人だった。彼の周りには、霧のような薄い服を着た4人の侍女が、にやにやと笑いながら取り囲んでいた。
「ふふん…」ラストの声が柔らかく、しかし鋭く響いた。「ついに、私のごちそうが来たわね。」
彼女はゆっくりと玉座から降りた。彼女の足音は、奇妙な赤い液体で覆われた城の床に濡れた音を立てた。彼女はジロウに近づき、一本の指で男の顎を持ち上げた。彼女の唇はジロウの唇にほとんど触れそうだった。
「強靭な体、熱い血、そして勇敢な目を持つ男。目隠しの後ろからでも感じられるわ。」ラストは小さく笑った。「今日から…あなたはもう人間じゃない。あなたは私のものよ。」
周りの侍女たちは、小さく手を叩き、にやにやと笑った。
「ラスト様、今回の選択は素晴らしいですね。」
「ええ…肉がとても新鮮だわ。」
「うらやましいです。ラスト様はいつも最高のものを見つけられますね。」
ジロウはただ歯を食いしばることしかできなかった。手は縛られ、体は震えていたが、それは恐怖からではなく、怒りからだった。
ラストは彼の耳に唇を近づけた。
「抵抗しないで。すぐにわかるわ…女神のおもちゃになることがどれほど素晴らしいか。」
彼女はジロウを床に押し付けた。侍女たちも近づき、男の体を押さえつけた。何人かは、香油で滑らかになった手で彼に触れ始めた。彼らの小さな笑い声が部屋中に満ち、巨大な心臓のように脈打つ城の壁の鼓動と共鳴した。
「離せ…この売女め…」ジロウはうめいた。
しかしラストは自分の唇に指を当てた。
「シーッ…その口を汚さないで。すぐに、あなたは違う声で叫ぶことになるわ。」
彼女はジロウの上に体をかがめ、その紫の髪が男の顔を覆った。侍女たちは、まるで舞台のショーのように歓声を上げ、囃し立てた。そのうちの一人が、甘い声で甲高くささやいた。
「ラスト様、一度に彼を使い果たさないでください。私たちにも味見させてください。」
ラストはくすくすと笑い、その目は荒々しい光を宿していた。
「もちろんよ。私は利己的な女じゃないわ…私はただの欲そのものよ。」
ラストの左手がジロウの胸をなぞる一方、右手は彼の体にある黒い印に触れた。それは、すべての男を彼女の支配から逃れられないようにする拘束の封印だった。ジロウの血がざわつき、息が荒くなり、その体は触れられたからではなく、彼を縛る魔法のせいで弱り始めた。
隣の椅子には、何人かの男たちが半死の状態で横たわっていた。彼らの体は痩せこけ、顔は青ざめており、まるで生命力を吸い取られた人形のようだった。彼らはただ虚ろな目で、次の番が来るのを見つめることしかできなかった。
侍女の一人が玉座に寄りかかり、甲高い笑い声を上げた。
「見てください、一人また一人と彼らは枯れていきます。でもラスト様は決して満足されない。」
ラストは唇をなめた。
「当然でしょ。世界は男で満ちている、新鮮な血で満ちている、私に見合う子孫を生むための種で満ちている。なぜ一人で満足しなければならないの…すべてを所有できるのに?」
ジロウはうめき声を上げ、もがこうとした。
「お前は…怪物だ…」
ラストは情熱と嫌悪に満ちたまなざしで彼を見つめた。
「怪物?違うわ、愛しい人…私は欲望そのものよ。あなたのような男が生まれてきた理由よ。食べられるために。絞り取られるために。私の一部となるために。」
彼女の唇がジロウの唇にほとんど触れようとした瞬間、突然、ドッカーン!!!
巨大な爆発音が城を揺るがした。壁の肉の結晶が砕け、破片が飛び散った。侍女たちは悲鳴を上げ、何人かが倒れた。
ラストは鼻を鳴らし、ゆっくりと立ち上がった。彼女の体から恐ろしいオーラが放たれた。
「…誰が私のパーティーを邪魔するの?」
城の扉の外から足音が響いた。重く、確固として、決意に満ちていた。
城の大きな扉が蹴破られた。埃と煙の中から、見慣れた人影が現れた。メイは、陽気だった笑顔が猛禽類のような視線に変わり、短剣を握りしめていた。ジョイは彼女の隣にまっすぐ立っていた。その体は揺るぎないオーラを放つ生きた壁のようだった。ピタは髪を乱していたが、その目は復讐の炎で燃え上がっていた。シンシアの氷のような白いドレスは輝き、彼女の周りの空中に薄い結晶が舞っていた。そして彼らの真ん中にいたのは—ルイーズ、今やその目が赤く輝く角のある少年だった。
ルイーズが一歩前に出た。彼の小さな角は鋭く輝いていた。
「母さん…」彼の声は震えていたが、憎しみに満ちていた。「今日…僕はもうあなたの奴隷じゃない。」
ラストは一瞬静まり返り、それから大声で笑い始めた。その声は玉座全体に響き渡り、壁を震わせた。
「ハハハハ!このおもちゃの軍隊を率いているのはあなたなの?そのもろい角が私に勝てると思ってるの?この小さな女の子たちが私の玉座を揺るがせると思ってるの?」
ルイーズは、昨夜とは全く違う眼差しで母親を見つめた。
「僕の角は…もろくない。この角の力は、僕の前の何もかもを破壊できる。そして僕は…あなたを破壊することから始める。」




