サービス終了をしたファンタジーロボットゲームにそっくりな異世界に転移した俺は、廃課金データで無双する。
「まさか……俺、【モンスバトラーズ】とそっくりな異世界に転移したのか……!?」
青空に浮かぶ大きさが違う二つの月の存在が、俺にそういった言葉を吐かせた。
ファンタジーとSFが程よく融合した"操縦席"のような場所に座っているのも原因だろう。
更に視界には、ゲームのでよく見かけるウィンドも浮かんでいて、そこには【使いきれないほどのゲーム内通貨】や、【レアアイテムの数々】、【操縦者」そして数多の【MB】のイラストと名称が刻まれている。
間違いないっ!!
ここは俺が時間と給料のほとんどを注ぎ込んでーー廃課金ーーいたファンタジー風ロボットアクションRPG【モンスバトラーズ】の世界。そしてここは、作中のロボットである"MB"の中なのだ。
まさか、昨今ではありがちな"異世界転移"をしてしまうだなんて……と、考えている中、女性のうめき声が聞こえてくる。
そういやさっきから腰のあたりが重いというか、暖かい感覚があるような……
「ううっ……」
「アイリス・スモル、だよな……!?」
長い金髪に、うっすら瞼の間から確認できる青い瞳。
そしてムッチリボディに、けしからん程大きさの胸、つまり爆乳だ。
どこからどう見ても、俺の腰の上に座って、気を失っているのは【モンスバトラーズ】の中で俺が最も推していた女性操縦者キャラ"アイリス・スモル皇女殿下"で間違いないっ!!
だけど俺の知っているアイリス・スモルとは様子が少々違う。
白を基調とした衣装を着ているし、ちらっと見えた背中には痛々しい"鞭の傷跡"も見当たらない。
となると、このアイリスは闇落ち前のアイリス?
で、今俺がいるのはモンスバトラーの操縦席の中。そこからメインシナリオの記憶を辿り、行き着いた答えはーー
「うわっ!?」
操縦席が激震に見舞われ、視界がぐるぐると回ったのち、どすんと強い衝撃が伝わってくる。
どうやら俺とアイリスの乗っているMBが何者かに蹴飛ばされたらしい。
操縦席のメインモニターに、こちらを蹴り飛ばしたMBの機影が映し出される。
鬼のような2本の角を生やしたこの機体は確か、MB:オーガ。
中量級のMBだ。そして機体色が黒系統なので、ビックス帝国の属国・シアンのMBと判断できる。
そして弱小国であるスモルの皇女アイリスが乗っているこの機体はというとーー
「今、俺が乗ってるMBってゴブリンだよな……」
モンスバトラー:ゴブリンーー決してかっこいいとは言い難い短い手足に、ずんぐりむっくりな、いかにもやられ役な機影。機体ガチャではオーガ以上のハズレ・雑魚枠。しかし国力が弱いアイリスの国、スモル王国にとっては貴重な戦力である。というか、スモル王国はこのMBしか所有していない、という設定だ。
『おーし、取り押さえろー!』
オーガの周囲にいた、騎馬兵たちが縄の束を担いで、倒れるゴブリンへ進んでくる。
「おうら、出てこいよ、おひめさん!」
「どうせ捕まったあと、ビックス様に無茶苦茶にされんだから、その前に1発やったって良いよなぁ!」
機外からそんな気持ち悪い男たちの声と、金属音が響いてくる。
どうやらシアンの連中は、ハッチをこじ開けて、アイリスにエロいことをするつもりらしい。
ーーこのアイリス・スモルという少女は、このゲームにおいての、いわゆる悲劇のヒロインという位置付けだった。
彼女の国スモル王国が、隣接する大国のビックス帝国に軍事侵攻を受けて、無理やり併合されたことに端を発し、このゲーム内で大きな戦争が勃発する。
本来のシナリオであれば、主人公はスモル王国の同盟国、チュリュウ共和国に異世界召喚をされ、数多のMB指揮してアイリス皇女の奪還とビックス帝国の打倒を目指すというのが大まかな流れだ。
そして苦難の末に、アイリス皇女にまで辿り着く主人公一行だったが、そこで待ち受けていたのは、新型MB・サイコドラゴンを駆り、人が変わったように暴れ回るアイリス皇女。
彼女はビックス帝国に囚われている間、肉体的、精神的、性的に心と身体を改造されてしまい、サイコドラゴンのパーツと化してしまっていた。
主人公はそんな彼女をなんとか助け出し、人としての心を肉体的・精神的、そして性的に取り戻そうとするのだが、あと一歩のところで、再び対峙することとなり、泣く泣くアイリス皇女と倒すハメとなる……
「ううん……」
今、俺の膝の上で気を失っているのはおそらく、そんな"悲劇に見舞われる前"のアイリス・スモルだ。
現況はスモル王国がビックス帝国の軍事侵攻を受ける前で、メインシナリオ開始前の、モノローグで片付けられた部分のワンシーンなのだろう。
となると……この状況を受け入れてしまえば、アイリスはシナリオ通り悲劇的な運命を辿ることとなる。
確かに闇堕ちしたアイリスは、その悲劇性も相まって人気が高い。
だけど、俺がこの娘の推しになったのは、そうした要素で好きになった訳ではない。
ふとした瞬間彼女が元の自分を取り戻し、明るい笑顔を浮かべる場面が好きだった。
アイリスの生存と元の彼女に戻ることを願ってやまなかった。
まぁ、がっちがっちに固められてたシナリオだから、そんなの無理なんだけど……
でも、今腰の上には、ずっと望んでいた形の彼女が、深い胸の谷間を晒しながら、俺に身を預けている。
なんで、俺が好きなゲームに似た世界に来てしまったのだろうか。
どうして闇堕ち前の、アイリスが目の前にいるのか。
ぶっちゃけ訳がわからない。
だけどーー俺が"運命を変える権利"を手にしたのは確か。
「アイリス……君の笑顔と、明るい未来は俺が作り出してみせる!」
ここで動けば、アイリスを悲劇的な運命から救うことができる!
俺はアイリスの運命を変えるために、戦う決意を固める!
ーーしかしそうは意気込んだものの、初めて直に目にするMBの操縦系統を前に、どう操作したら良いやら皆目検討がつかない。
実際のゲームには操縦席で、MBを直接操るパートなんてなかったからだ。
敵はもう目の前。このままでは、アイリスの運命は変えられない。
どうする、どうすれと、と思っていた時……ふと、視界に浮かぶゲーム風のウィンドが目にが止まった
もし、ここに表示されている"プレアブルキャラのアイリスのアイコンをクリックする"とどうなるか。
「ええい、ままよ!」
俺はアイリスのアイコンをクリック。
「ーーっ!」
すると突然、膝の上のアイリスが弓形に体を逸らせた。
瞼が開き、青い瞳が強い輝きを宿す。
「おはようございますマスター! お会いできる日を待っておりました! さぁ、私へご命令を!」
瞬時に意識を取り戻したアイリスは、凛々しい声音で、ゲーム内での出撃時のセリフを口にする。
これはやっぱりーー俺の廃課金したゲーム内データが、この世界の人物に反映されるんだ!
アイリスは最推しキャラだから、レベルは当然マックス。課金しまくって、色んなスキルを付与している!
「やれ、アイリス! オーガをぶちのめすんだ!」
「承知しましたでございますわ!」
うおっ!? 出た、名物アイリス語! まさかリアルで聞ける日が来るだなんて最高だ!
アイリスの意思を受け、ずんぐりむっくりなモンスバトラー・ゴブリンが立ち上がる。
機体に群がっていたシアンの連中がボロボロと、地面へ落ちてゆく。
『ちぃ、無駄な足掻きをしやがって! そのMBぶっ壊してやるぜ!』
オーガが手にした大斧を振り落としてくる。
「うふふ……そんな攻撃ヌルいだよ! と、思いますですことよ!」
しかしアイリスは巧みな操作でゴブリンを動かし、回避を行動を 続けている。
しかもちゃんとアイリス語付き。もう、俺、いつ死んでもかまいません……!
「ぬぅ!? やっぱりゴブリンではオーガに敵わないのかしら!」
だが、スペックが段違いなオーガに対して、アイリスのゴブリンは逃げているばかりで、全く攻撃を加えられていない。
……いや、待て……アイリスのキャラスペックが、本人に反映されたということは、もしかして!
俺は機体項目から、レベルをカンストさせているMBゴブリンを選択。
「アイリス! 今から俺がMBの性能を押し上げる! ちゃんとついてけよ!」
「どういうことですの、それは!?」
「心と身体で感じるんだ! そうすればできる! 君ならできる!」
「心と身体で……承知しましたわ、マスター! 素敵なお言葉ありがとうございますですわ!」
俺は所有機体一覧からカンストゴブリンの項目を選択、そしてクリック!
途端ーー
「わわ! 急に機体が軽くなりましたわぁぁぁ!」
目まぐるしくグルングルンと回る視界。
アイリスは当初、性能向上したゴブリンに戸惑い気味だったが、やがてーー
「これなら……ぶっ殺せますわぁ! おほほ!」
まる闇落ち時のようなテンションで、敵のオーガの装甲を剥ぎ、腕をもぎ、頭部を凹ませるアイリスとMBゴブリン。
いいぞ! 俺の大好きなアイリスらしくなってきた!
「ひぃさつ、ゴブリンパァーンチっ!」
『あがァァァァァァ!!!』
ゴブリンの拳は、機体スペックではこちらを遥かに上回る、オーガをあっさりと突き飛ばし、一撃粉砕!
「おとといきやがれ……こほん、ですわ。おほほ!」
これぞアイリス・スモル! この戦闘になると、口調が荒くなるのがいいんだよなぁ!
まぁ、他のプレイヤーはこの娘のことをネタ枠キャラなんて言いってるだけど……
ーーシアンのモンスバトラー・オーガを撃破しました。併合しますか?ーー
そして視界に浮かんだ見慣れた文字。答えは当然YES!
こうして、本筋のシナリオがまだ始まっていないにも関わらず、本来滅ぼされるはずだったスモル王国は領地を広げたのである!
●●●
「もしやマスターは、伝説の英雄"ハイカキン様"ではございませんこと!?」
シアンを併合し、姫のアイリスを救ったということで、スモル王国で歓待を受けていた俺へ、件のお姫様はそう問いを投げかけてきた。
「なんですか、そのハイカキンって……?」
「国が危機に陥る時、ハイカキンと言われる英雄が数多の奇跡を起こし、我々を救う。古くからの言い伝えですわ」
元の世界だと冴えないリーマンだったから、英雄って言われるのはすごく嬉しいけど……ぶっちゃけ、ハイカキンと呼ばれることは微妙である。
「なので、これからはマスターのことを"ハイカキン様"とお呼びいたしますわ!」
「あ、うん、わかった……」
まぁ、アイリスから様づけで呼ばれるんだから、よしとしよう。
「大変です、王女様! ビックス帝国の連中が、こんな書簡を!」
と和やかな宴席をぶち壊す不穏な言葉ともに、給仕長が駆け込んできた。
アイリスは書簡を開いて熟読し、そして眉間に皺を寄せるといった、怒りの表情を見せる。
「まさかビックスからの宣戦布告だなんて……!」
あちゃー、これはやっちまった。多分、俺が属国のシアンを併合してしまったからだ。
そりゃどこの国だって、自分の領地をぶんどられりゃ、心穏やかじゃないわな。
「伝説の英雄ハイカキン様! どうか我が国を再びお救いください! お願いします!」
アイリスの宣言を皮切りに、全員が俺に傅いてくる。
ここまでされちゃ、やらないわけには行かない! それに、俺自身、試してみたいことがある!
ーーそうして、諸々を試し、自分の持つ力に納得した俺は、アイリスたちと共に、いよいよビックス帝国との決戦に臨む!
●●●
スモル王国とビックス帝国の国境に位置する森林地帯。
そこの木々を薙ぎ倒しつつ、黒い竜の形をした巨大なMBが、多数の中量級MBオーガを引き連れ進行している。そして黒いMBブラックドラゴンから、こちらへ通信が入ってきた。
相手はビックス帝国の帝王・ビックス3世という名の、でっぷりしたおっさん。
『アイリス・スモルよ。最後通告だ。武装を解除し、我が軍門へ降れ。さすれば国を焼くのだけは勘弁してやろう」
「ふっふっ……おとといきやがれですわ、クソ親父!」
俺と一緒にゴブリンに乗っているアイリスは、汚い言葉を返す。
美しい声に乗せて罵声を吐く……まさに俺の愛したアイリス・スモルそのものだ!
すると、画面の中に映るビックス三世の顔をがみるみるうちに、怒りに染まってゆく。
『小娘め、年長者への礼儀を知らないようだな! この戦いのあと徹底的に教育してやる! 全軍進め! アホ王女もろとも、スモルを滅ぼすのだ!』
ビックス3世の命令を受け、数えきれないほどのMBオーガが進行を開始する。
「うふふ、それはこっちのセリフですわクソ親父! さぁ、ハイカキン様! いざ!」
「おう! じゃあまずは軽く揉んでやれ!」
「承知しましたわ! では……出番ですわよ、サクラ三姉妹! まずは敵をかき混ぜてやりなさぁい!」
アイリスの命を受けて森の中から飛び出してきたのは、最弱のMBゴブリンが3体。
それぞれが弓、槌、杖といった個性的な武器を装備している。
『たかが三機のゴブリンでなにができーーーーう、うわぁぁぁーーーー!!』
敵のオーガから響いた侮りの言葉がぷつりと途切れる。
弓のゴブリンが放った矢が、あっさりとオーガの装甲を貫く。
しかもその一機だけではなく、続く複数体の機体さえも、貫き撃破する。
次いで、弓のゴブリンの背後から姿を現したのは、巨大な鉄槌を持つゴブリン。
鉄槌が振り落とされた途端、激しい衝撃が生じ、砂塵を巻き上げ、複数のオーガをまとめて吹っ飛ばす。
『な、なんだ、今の力は!?』
『ゴブリンがこんなに強いなんてありえねぇよ!』
『怯むな! 相手はたった三機! 数でおせぇー!』
体制を整えたオーガ軍団は、徒党を組んで再び進行を開始する。
だが、その一段は突然目の前に発生した、紫紺に耀く障壁に阻まれ、ガラガラと将棋倒しとなってゆく。
その障壁の発生源もまた、杖を装備した我が方のMBゴブリン。
サクラ三姉妹がそれぞれ駆る、弓・鉄槌・杖のゴブリンは縦横無尽に戦場を舞い、たった三機で大軍勢を混乱へ導いてゆく。
ーーサクラ三姉妹とは、スモル王国出身で、アイリスを守護する近衛のようなキャラクターだ。
この世界がゲームだったら頃、俺はありとあらゆるキャラクターを育てに育てまくった。
故に、このサクラ三姉妹も当然、レベルマックス。
この世界での初めての戦闘の際に気付いたのだが、俺はゲーム内で育てたキャラクターや、機体のステータスを、本物へ付与できるらしい。この戦闘が始まる前に、さまざまな角度から検証した結果なのだから、間違い無いだろう。
「アイリス、さすがにサクラ三姉妹だけじゃキツそうだ」
「了解ですわ! さぁ、そろそろ出番でございますわよ、スモルヴァルキリーズ! ハイカキン様から力を賜ったあなたたちは無敵ですわよ!」
次いで進軍してきたのは、これまたアイリス関連ということで、最大限にまで強化した、総勢5名のスモルヴァルキリーズ。揃いの剣と盾を持ったMBゴブリンが、敵中へ傾れ込んでゆく。
その見事なまでに連携の取れた戦闘手腕は、次々とカタログスペックと数でまさるビックスのオーガを屠ってゆく。
これが、今のスモル王国が持つ、戦力の全て。
機体性能だけで戦力を推し量れば、どんな愚か者でも、ビックス帝国側の勝利を信じて疑わないだろう。
ーーだが、この世界の人間はまだ知らない。今のこの世界には俺というイレギュラーな存在がいることを!
俺はサービス終了のその日まで、このモンスバトラーズというゲームと、アイリス・スモルというキャラクターにガチ恋して、仕事以外の時間全てと、給料のほとんどを注ぎ込んだ。
故に、あらゆる機体、あらゆる搭乗者キャラクターのレベルはすべてマックス!
そしてそのデータを、この世界の機体や人間へフィードバックできる。
だからたった数機のMBで大軍勢に立ち向かえる。
ただこの力には二つ制約があり、その一つ目が……
「ハイカキン様、サクラ三姉妹よりゴブリンの交換要請が出ております」
やはりサクラ三姉妹のステータスに、ゴブリンの性能が追いつかず、色々と壊れ始めているらしい。
「予備機との交換を急いでくれ。スモルヴァルキリーズはその援護を」
「了解ですわ! ついでにヴァルキリーズの補給も用意しておきますわね」
アイリスは前線に立つ王女らしく、各種連絡を開始した。
本当はもっと上等なMBを用意したいのだが、今のスモル王国の国力ではゴブリンを用意するので精一杯。
それに俺の持つ力は、無から有は生み出せない。つまり、能力をデータとして保有をしてはいるが、実機や本人が居なければ、その力を付与することができない。
そしてもう一つの制約がーー
『おのれ、スモルの小童どもめ! ブラックドラゴンの餌食にしてくれる!』
ほとんどのMBを失ったビックス三世は、ついに自ら動き出し、乗機のブラックドラゴンは激しい黒炎を吐き出す
サクラ三姉妹とヴァルキリーズは、果敢にもブラックドラゴンへ立ち向かうも目立ったダメージは与えらられず、次第に押され始めた。
俺の頭の中にあるブラックドラゴンとビックス3世のステータス値が正しいならば、現状のレベルマックスゴブリンに乗ったサクラ三姉妹とヴァルキリーズで十分に対処ができると思う。しかしここまで押されてしまっているのは、俺の持つ能力のもう一つの制約ーー距離の問題だ。
どうやら距離が離れてしまうと、半減とは行かずとも、能力値が低下してしまうようなのだ。
そういった不便に感じさせる部分はあるのだが、その逆もまた然り。
「アイリス、状況は?」
「サクラ三姉妹、ヴァルキリーズ共に、苦戦をしつつもブラックドラゴンへダメージを与えていますわ」
「よし……じゃあ、そろそろ行くか!」
「きましたわ! 腕がなりますことですのよ!」
興奮しているのかアイリスの口調が怪しく、後部座席で苦笑いを浮かべる俺だった。
「行きますわよ……おらぁぁぁ!
アイリスの魔力がゴブリンの主機をフル回転させた。
ずんぐりむっくりの機体が、手にしたモーニングスターをブンブン振り回しつつ、森の中を豪速で駆け抜けてく。
サクラ三姉妹やヴァルキリーズが操るゴブリンよりも、明らかに早い。
「ぶちのめしてやりますわ! そこをどきなさぁぁぁぁいっ!」
『でたなバカ王女! 貴様など、このブラックドラゴンで、がっーーーー!』
アイリスの放ったモーニングスターのスパイク付き鉄球が、巨大なブラックドラゴンを思い切り突き飛ばした。
「どんどん行きますわよ! おらおらおらおあらぁぁぁ!」
目にも止まらぬスピードと、凄まじい力でモーニングスターを振り回し、ブラックドラゴンを圧倒するゴブリン。
ーーやはり、こうやって俺が機体に同乗することで、データから反映させた能力を、搭乗者や機体へ100%付与できるようだ。
「おっほほほほ! ビックスの決戦MBブラックドラゴン! 噂ほど大したことありませんわね!」
アイリスは調子良く、ブラックドラゴンを叩きのめし、ご満悦な様子。
しかしそんな中、右腕の損耗を示す表示とアラーム音が。
どうやら重いモーニングスターを勢いよくぶん回していたせいで、右腕に故障が生じたようだ。
「姫様! 私の右腕をお使いください!」
と、ヴァルキリーズの一体が、右腕を外してアイリスのゴブリンへ投げた。
それをキャッチしたアイリスのゴブリンは、損耗した右腕を外し、すぐさま受け取った右腕と交換。
損耗表示は消え、アラームの鳴り止み、アイリスは再びブラックドラゴンへ向けての、モーニングスターの猛攻を再開する。
こういう時、量産機というのは便利だ。
同じ機体同士だから損傷した時も、こうして交換することで継戦することができる。
ワンオフの機体ではこうもゆくまい! そしてこれが、今のスモル王国にできる、最良の戦い方だ。
俺の視界にのみ表示されている、ブラックドラゴンのヒットポイントはあとわずか。
そして見るからにボロボロ。
ならばーー
「アイリス、そろそろ止めだ。ぶちのめせ!」
ビックス三世はメインシナリオで、アイリスへあんなことやこんなことをして、無茶苦茶にした憎むべき敵キャラだ。万死に値する!
「わかりましたわよぉぉぉぉーーーー!」
アイリスの叫びが、彼女のうちに秘めた魔力を燃え上がらせた。
それは機体に伝播してゆき、モーニングスターの鉄球を怪しく輝かせる。
『わ、悪かった! 侵攻は諦める! だから……!』
ほぼスクラップと化したブラックドラゴンから、ビックス三世の情けない命乞いが聞こ得てくる。
「喧嘩売っておいて、それは都合が良すぎることなのですわ」
『ひぃ!?』
「ぶっつぶれろぉぉぉぉぉーーーー!!!」
アイリスの放ったモーニングスターの鉄球が、ブラックドラゴンを粉々に打ち砕く。
中にいるビックス三世も、そんな衝撃を受けたのだからお察しな訳で。
大将機がやられたことで、戦場にいた全てのビックス帝国の将兵が、白旗をあげて降参を示唆する。
「勝利ですわよぉぉぉ!」
沸き立つスモル王国側。
俺はなんとメインシナリオ開始前だけど、アイリスの運命を変え、彼女を守ったのだった!
●●●
「さぁて、ここから先、どうしたもんかなぁ……」
すでにアイリスを救うといった、この世界で成し遂げたいことは終わってしまった。
次は何をしようか。そんなことを、スモル王国の王城の自室で考えていた時のことーー
「あ、あのっ! ハイカキン様、入っても宜しくて?」
扉の向こうから、弱々しいアイリスの声が聞こえた。
どうぞと告げて、中へ入るよう促すとーー
「ア、アイリス!? その格好は……!?」
目の前に現れたのは、スケスケな格好をして、頬を真っ赤に染めるアイリス。
ああ、忘れてた……このゲームってそういえば……
「よろしければその……私をもらっていただけませんか、ハイカキン様……」
甘い言葉と共に、アイリスは俺をそっと、ベッドへ押し倒す。
ーーこの「モンスバトラー」というゲームってR18指定……つまりアダルト要素のある作品だ。
指揮官役であるプレイヤーは、お気に入りのキャラと機体に同乗し、敵を倒すことによって好感度を高めてゆく。当然、こうした好感度も皆、カンストしているわけで。
アイリスとのそういうシーンは、これまで散々オカズとして使わせていただいたわけで。
でもまさか、本当に、本物のアイリスとエロいことができる日が来るとは!
「い、行くぞっ、アイリス……!」
「は、はいっ……遠慮なく来てくださいまし……んぅっっっ!!」
ーーこの日、俺はこの世界で何をやるか決めた。
それは、これからもアイリスとのこの生活を守るということだ!
なにせ、俺はメインシナリオを序盤から書き換えてしまったのだ。
なにが起こるのかはわからないし、このまま穏やかに時間が流れることは考えられない。
でもなにが起こっても、俺はこれからもアイリスを守ってゆく。そう心に誓う!
「アイリス、もう一回行くぞぉ!」
「は、はいぃ……! どこまでもお付き合いしますですわぁ……!」
その晩、俺は何度も何度もアイリスをひぃひぃ言わせ続けるのだった。
って、あれ……?
なんか、アイリス、性的に落ちてるっぽいし、今のスモル王国って、ビックス帝国の領土を飲み込んだんだよな?
実質、ビックス帝国のようなもんだよな?
え? え? これって……? まさかなぁ……!