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四話


樹代は狼の背の上で固まった。







眼前にあるのは、樹代の身長よりも一回り大きな楕円形の水晶のような塊だった。




岩肌に埋め込まれるようにしてある曇りひとつないそれを樹代は息を飲んで見つめる。



「………狼さん。もしかして……あれって…」





人が水晶の中に…




水に沈むかのように黒い髪の毛を波打たせ、長い睫毛を落として眠っている少女。





―――厳威を秘めた冷艶さ。






【あぁ。あれが岩波だ。】





樹代よりも幼い年齢であろう一糸纏わぬ姿のその少女に樹代は言葉を失った。







蒼白く、絹のような滑らかな肌はまるで死人のようであり、驚嘆に値する麗質は精巧に作られた蝋人形を思い起こさせ美しいという思いよりも不気味といった良くない感情が這い上がってきた。




全身が粟立つような感覚を覚え、樹代は水晶から目を離す。

現代日本(平成生まれの平成育ち)っ子である樹代にとってその光景はあまりにも衝撃がつよかった。





なっなにあれ!?本物?!人間?!

ヤバい、ヤバいって!!










「待ちくたびれたぞ。櫛那姫」


一人でテンパる樹代に狼とは違う声が語りかけてきた。

櫛那姫という名前に覚えはなかったけれどその声が自分に向けられたものだとなぜだかわかった。





耳に入ったのは少女の声。軽やかな、それでいて耳に心地よく滑らかな声色だった。

まさかと思い、樹代は水晶を見返すが眠る少女に変化はない。




「誰?!」

思わず声を上げる。



【落ち着きなさい。岩波だと言っているだろう。】


「だっ、だって水晶の中に入ってるじゃない!その人!!」


樹代は狼の毛を強く握り締める。



死人の次は幽霊?!

勘弁してよもう〜!!!





【おい。岩波姫。主が怖がる。姿ぐらい見せてやれ。】



狼は空中に向かって声をあげる。

暫しの沈黙の後、面白くなさそうに投げやりな返答が返ってきた。




「何を恐れる櫛那よ。前世の記憶はどうしたのじゃ?」





その時だった、今まで誰も居なかった樹代たちの目の前にポンっと手品のように人が現れた。

あの水晶の少女と瓜二つの顔をしている。

しかも裸。




うっうわぁ……




少女の裸体に上から下までついつい目を走らせてしまった。

いけない、いけないと罪悪感を覚えながらも樹世の視線は彼女を捉えている。

少女の吸引力は例え女であろうと絶大で、見たものを強烈に惹き付けた。



水晶のなかにいる少女と違い、目の前で腰に手を当て仁王立ちしている彼女は生命力というのか『生き物』としての温かさをしっかりと持っているように見える。



というか、裸で仁王立ちは流石に色々危険じゃないだろうか。


規制規制の世の中で放送打ち切り級に見えている。

形は良いが小振りな乳房や、鴇色に色付いている乳輪その他突起物とか。

下半身もまた然り。ちなみに言っておくが、未発達な少女である。花で例えるならまだまだ固く青々とした蕾である。




大層美しい少女なのだ。

女であっても思春期真っ盛りの樹世にとっては自分のことじゃなくても恥ずかしいやら、言い知れない気持ちの対処に困ったり………。



って






落ちつけ自分!相手が美形青年ならいざ知らず幼女よ!!幼女!!





「まったく。本当に記憶を無くすとはどういうことだ?………うぬ?しかし力は健在してるように見受けられるが……なんだか以前より清さが欠けてるな。曇って見える。」


スッ


滑るように宙を歩き、瞬く間に樹代の顔数センチのところまで額を近づけた。


ちっちかい!!



互いの息が掛かるような至近距離である。

樹代は仰け反って岩波との距離を開けようとするが、仰け反れば仰け反るほど少女は逆に顔を近付けて樹代の顔を凝視している。

パーソナルスペースを侵される危機感に耐えられず、樹代は狼から飛び降りて距離をとった。


狼の隣に立ち、岩波を見上げる形になる。




そんな樹代に目を向けることさえせず、岩波は考え込んでゆっくりと口を開いた。

「櫛那よ。お前はお前でなくなったなぁ。今ではあの頃の欠片さえ消え失せている。」




「はっ…はぁ…。」

岩波が言う言葉の一部も理解出来ずに樹代は戸惑いながら返事を返す。




ってか私誰かと勘違いされてる?





岩波は樹代の心境を知ってか知らずか言葉を紡いでいく。

「櫛那の生まれ代わりであるお前を私は待っていた。時代は再び動き出したのだ。」

少女は狼の背上より少し上からこちらを見下ろして悲しそうに苦笑いをこぼした。







樹代は裸の少女を見上げながら固まった。

岩波が放った「生まれ変わり」という言葉が脳内を反芻する。




「生まれ変わり?」







あぁ。もうダメだ。ついていけない。帰りたい。家にものすごく帰りたい。








ゲンなりと肩を落とした樹代の顔を見とめてか、岩波は顔をしかめ、樹代の前に降り立った。

「まったく。何を呆けた顔をしておる。阿呆丸出しだ。記憶では足りず頭のネジまで落としたか?お前には確りとしてもらわなくてはならんのだ。櫛那の生まれ変わりとして。」




なんていう言われよう!


樹代は言い返そうと意気込むが何分相手が相手だ。小学校低学年(見た目)の相手に高校生にもなる自分がムキになるのは大人げない。

樹代は取り敢えず反撃の言葉を飲み込んで心を落ち着かせようと一呼吸いれた。



櫛那がどうとか、生まれ変わりがどうとか、はっきり言えばリアリティー溢れる夢も無ければ希望も乏しい社会に生まれた樹代にとっては胡散臭いだけの話しとしか思えなかった。


確かに化け物や、幽霊もいれば(宙に浮くオプション付き)人語を話せる狼もいることは、この目で確りと確認してしまったが、いかんせん現代人である彼女にとってはまるで何処かのライトノベルのようなそれらの話を信じようとは思えなかった。

正直、容量オーバーなのだ。



ここは大人の対応を。と思い直し、岩波に視線を向けた。





「しかもなんだ。その奇妙な着物は。脚や腕が丸出しでないか。年頃の女子がはしたない。その口調といい、立ち振舞いといい、お前いったいどんなところに生まれ変わったのだ?あぁ!可哀想に!!今のお前を櫛那と比べるなど侮辱も当然だ!」




が、




岩波の口から洪水のように溢れ出る暴言の数々に樹代の理性というダムもあっという間に押し流された。







「あのね!さっきからあなた失礼にも程があるわ!というか裸の貴方に私の服装をとやかく言われたくない!!この破廉恥!」



「はっ破廉恥だと!?お前中々言うじゃないか!小娘が!!」



「小娘ですって?!私はもう17歳よ!貴女の方が小娘でしょうが!(見た目が)」

「ふん。たかだか17年生きただけだろうが。背丈に合わず精神年齢は低いようだな。」


「なっ、なんですってぇ?!」



ボルテージが急上昇してきた。言い返してやろうと意気込んで足を一歩進めた時だった。

今まで二人の少女達のやり取りを見ていただけだった狼が動きだし、樹代の腹を自身の鼻で軽く押し止め、尻尾で岩波の口を封じたのだった。




【いい加減にしなさい。二人とも。岩波。気持ちはわかるが、こんな喧嘩などしている暇は無いだろう?】静かな声で注意を促すと狼は二人から離れて此方に向き直りお座りをした。



【岩波。主をなぜ此方に連れてきたか話しなさい。】有無を言わせぬ口調で狼は少女に話かける。




決まり悪そうに樹代から目線を外して腕を組ながらそっぽを向くが、岩波は狼の言われた通りに何処から話そうか思案しているようにゆっくり口を開いた。














遅くなりました。


チミチミと書いているため、本当に牛歩ですね。


それでは


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