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プロローグ
朝靄けぶる渓谷は、何千、何万ともいえる鴉の群れのせいか、いつもの静寂で厳かな空気を一変させていた。
郡鴉のけたたましく耳をつんざくような鳴き声が辺りに谺し異様な雰囲気を醸し出しているのだ。
さらさらと銀色の薄絹のように流れていた川も、今では酸化した鉄のように赤黒く染めあがり異臭の元凶と化している。もう少し上流に行くと人の屍が山を成すように無数散乱し捨て置かれていた。腐敗臭に釣られ蝿や蟲などがたかり、少しでも動かそうものなら一斉に無散し視界を埋め尽くす有様である。山の動物達に食されてか、所々四肢が無かったり、もはや原形をも止めていぬものも少なくは無い。
そんな中、死体達の上に黒い何かが陽炎のようにゆらりと揺らいだ。実体の無い黒い靄が次第に濃く深く八方に広がっていき、次々に骸骼を飲み込んでいく。
突如として膨れ上がる闇の中、紅玉のように妖しく輝きを放つ光が多数。
命あるものを射殺すように殺気を放っていた。
―――― 刹那、
より一層輝きを増したかと思うと紅い光はその場から掻き消えた。
―――無惨な死屍の山とともに。