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 気づいてから周りを見渡してみると、なぜ気づかなかったのか不思議でならない。


 でも気づかなかったものは気づかなかったのだ。


 「どんだけ馬鹿なんだよ!」と罵倒されても、気づかなかったものは気づかなかったのだから、今さらどうしようもない。


 たしかに今世の両親はちょっと甘いし過保護だなあと思うことはあった。


 昔から私が望めばどんなものでも買ってきそうなくらい――前世の記憶と理性ゆえに現実に私がそうしたお願いをしたことはないが――溺愛されている自覚はあった。


 なまじ金があるだけにちょっとタガが外れているというか、天井知らずなだけなのだと思っていた。


 昔、私が子供用携帯電話――GPSでの追跡機能つき――を家に置いて出かけてしまったときは大騒動になったが、そのときだって心配性な両親だなあと思うだけだった。


 「紬は可愛いなあ。首輪をつけておきたいくらいだよ」という父親の言葉はちょっと悪趣味な冗談だと思っていた。


 母親も「そんな無骨な首輪、紬ちゃんには似合わないでしょ!」なんて言って笑っていたから、冗談だと思っていた。


 けど違ったんだ。


 あの言葉は結構本気で言っていたんだ――ということに、遅まきながら気づいてゾッとした。


 翻って出雲のヤンデレな言動は、私に対するイヤがらせでも、冗談でもないことがよくよくわかってしまった。


 そうなると出雲に対する情熱とか、愛情とかいったものが、わかりやすく目減りして行くのが自分でもわかった。


 たしかに出雲は『あやかsickレコード』においても、ヤンデレっぽいというか、メンヘラっぽい片鱗はあった。


 初めてできた、心から本音で話し合えるあやかくん……『あやかsickレコード』の主人公に対し、執着しているようなそぶりを見せたり、あやかくんと親しい男友達を見て嫉妬しているというか、「ヘラって」いるような言動をするシーンが存在していたのだ。


 無論、『あやかsickレコード』は少年漫画なので、それらの描写はギャグの範疇であったものの、二次創作においては出雲はヤンデレキャラにされることが多かった。


 私もヤンデレ要素は嫌いではなかった――というかむしろ好んでいたから、出雲がヤンデレる夢小説は数えきれないほど読んできた。


 ……でも、なんというか、こう、さ?


 ……ほら、現実(リアル)虚構(フィクション)では勝手とか事情とかがちょっと違うっていうか、さ?


 なんというかかんというか……ヤンデレを出すにしてももうちょっと手心を加えて欲しいよ神様! ――というのが、今の私の本音だ。


 というか、「クリスマスプレゼント高価すぎ事件」が起きるまでの出雲はヤンデレの「ヤ」の字もなかったように思う。


 いや、素養はあったのだろう。


 でなければ今ここまで斜め上にはカッ飛んでいない。きっと。


 けれども出雲だって、はじめはごく普通の善良で清らかな少年だった、ハズだ。


 それが今や立派なヤンデレである。


 そうなったきっかけは……やはり私、なのだろうか?


 『あやかsickレコード』において出雲の微妙な執着の対象だったあやかくんの居場所に、私がすべり込んでしまったがゆえの、この結果なのだろうか。


 ヤンデレ夢小説を呼んで「病むほど愛されるなんてサイコー」とか思っていたけれども、いや……当事者になるとキッツイっすわ。


 マジでひとときも心が休まらない。


 出雲の私への執着ぶりからして、真正面から別れを切り出すのはどう考えても自殺行為。


 そのまま権力を使っての監禁コースまっしぐらだと思うのは、決して一〇〇パーセント被害妄想とは言い切れないところが怖い。


 「じゃあ出雲から別れを切り出してもらえればいいじゃん!」と思ったが、そんな上手くコトが運べるわけがない。


 まず、出雲の好感度をどうやって下げればいいのかがわからない。


 また、嫌われるようなことをすればいいとはわかっていたものの、前世からの小心者である私が、そんな思い切りのいいことができるはずもなく。


 地道に、出雲との約束を仮病を使って破ったり、そもそも約束を取りつけないように仕向けたり、私からは絶対に「好き」とか言わないようにした。


 「あれだけこっちから出雲にアプローチして恋人になったのにこの仕打ち。控えめに言って最低じゃない?」と思ったが、背に腹は代えられないとはこのこと。


 自己嫌悪にまみれつつも、出雲から嫌われようと頑張った結果……


 「あれ? 最近出雲から『好き』とか『愛してる』って言われてないし、微妙に避けられてる?!」


 ということに気づいた。


 気づいた私は確認のために出雲本人にこう問うたのだ。――愚かにも。


「最近、『好き』とか言ってくれないよね?」


 私の言葉に、出雲は微笑んで言った。


「言って欲しいの? やっぱり紬は俺のこと大好きなんだね!」


 ――ああ~~~!!! 好感度下げ失敗!!!


 ……ということに気づいたものの、時すでに遅し。


 出雲は以前にも増して私に愛をささやくようになったのだった。


 あのまま行けばワンチャン自然消滅を狙えたのかもしれないが、前世の記憶があるくせに恋愛経験値がなさすぎる私には、出雲のそれが罠だったなんて可能性を、これっぽっちも考えつかなかったのである。


 かくして私が打ち立てていた「出雲から嫌われよう作戦」は振り出しに戻り、ついでに暗礁にも乗り上げて、瓦解寸前であった。


 ――この際悪魔でもいい! だれか私と出雲を穏便に別れさせてくれ!


 ……という願いが天に届いたのか、届いていないのかは定かではないが、時は流れて高校一年生。早くも進路希望票を書かされることになった私は、ある問題に直面し――そして私と同じ異世界転生者に出会った。

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