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ふたりたび  作者: 神楽一斗
8/9

8 波打ち際にて

 ユナは波打ち際に立つと、じっと海の向こうを見ている。何百メートルか先に島が見えるが、あそこへ向かうのだろうか。

 もしかして、サバイバル系の番組で見かける、自前でイカダを作るみたいな流れなのでは。

 わたしがドキドキしているのを他所に、ユナはリュックからスコップを取り出した。


「何するの?」

「貝掘り。しばらく時間があるから」


 ユナは砂浜を掘り始めた。後ろで見ていると、面白いように貝が出てくる。

「ねえ、わたしもやっていい?」

「じゃあ、ある程度採ったら、バケツの中に海水を入れて、漬けておいて」

 そう言ってスコップを手渡すと、ユナは林の方に向かって歩いていく。

「どこに行くの?」

「焚き木取ってくる」


 ユナがいなくなると、途端に心細くなる。ここにたどり着くまで、わたしはユナに頼りっぱなしだ。彼女がいなければ、わたしはとっくに野垂れ死にしていたかも知れない。


 この世界で死んでしまうとどうなるのだろう。結局のところ、わたしはまだ、この世界の事を何も知らない。ユナが帰ってきたら、その辺りを少し聞いてみよう。


 もくもくとスコップを動かし、貝を採ってはバケツに入れる。ただそれだけのことなのに、なんだかとても楽しい。気づいたらバケツが貝で一杯になっていた。


「随分採ったね」

 焚き木を抱えたユナが戻ってきて、呆れ気味に声を上げた。

「えへへ、はりきり過ぎちゃった。この貝、食べるの?」

「うん、ホイル焼きにする」

 ユナは焚き木を組んで、火を付けた。採れた貝をホイルに包み、オイルや塩で味付けをして蒸し焼きにしていく。

「なんでも入ってるね、そのリュック」

 ユナのリュックは確かに大きいが、今まで出てきた物がどうやって入っているのか、ちょっと想像出来ない。

「もしかして、異次元に繋がってたりしないよね」

 ユナは何も答えず、淡々と焚き火を扇いでいる。確か、以前リタイアした時に貰ったと言っていたが、あり得るのでは。そもそも、この世界では、どこまで常識が通じるのだろう。


「この世界はね、何度でもやり直せるの」

 不意にユナがつぶやいた。

「でも、それは心が続く間だけ。レミは生き返りたいって、思うよね?」

「……うん」

 わたしは今、生と死の中間にいる。それはなんとなくわかっていた。

「ここまで来るだけでも結構大変だったでしょ? 大抵の人は、途中で諦めちゃうんだよ。やり直しそのものをね」

「諦めたらどうなるの?」

 わたしはそっとユナの横顔をうかがった。

「もちろん、死ぬことを認めることになる。その場で消えておしまい」

 わたしがもしユナと出会えなかったら、一周目はあっという間にリタイアしていたのだろう。何もわからないこの世界にひとりでいるなんて、考えただけでゾッとする。

 ユナも同じ気持ちなのだ。だからこそ、彼女は二回の失敗の後、一緒に旅する相手としてわたしを呼んだ。


「そのリュックの中、気になるなら見てもいいよ」

「えっ」


 これはユナがわたしを信頼してくれているということかも。

 パンパンに膨らんだ水色のリュックを手繰り寄せ、そっとジッパーを開けてみる。沢山の物が詰まっていると思いきや、中は一見空っぽのように見えた。


 リュックの中に恐る恐る手を入れてみるが、肩まで突っ込んでも何もない。というか、底そのものがない。わたしは思い切って覗き込んでみた。ぼんやりと光っているような、不思議な空間が広がっている。


「ユナちゃん、これ、どうなってるの」

「自分で言ってたじゃない。レミの想像通りだよ」


 まさか本当に異次元に繋がっているとは。道理で何でも出てくるわけだ。この世界だから、こういうモノが存在しても不思議ではないけれど。


「でも、何も入ってないよ」

「中身の持ち主しか取り出せないんだよ」


 そう言うと、ユナが近づいてきて、わたしの代わりにリュックに手を入れた。少しだけゴソゴソして、中から取り出した物をわたしに差し出してくる。


「あげる」


 ユナが持っているのは、銀色のフレームの可愛い腕時計だった。


「これは?」

「時間がわかった方がいいでしょ」

「そうだけど、高い物なんじゃ」

「大丈夫だよ。それも貰い物だし」


 よく見ると、ユナの腕時計と同じデザインだ。


「……時間、わたしのに合わせとくから」


 ユナはそう言って手早く調節すると、押し付けるようにして手渡してきた。こんな風に誰かにプレゼントを貰ったのは初めてかも。なんだか気持ちがほわほわする。


「ありがとう、ユナちゃん」

「……ん」


 ユナによると、わたしは彼女を支えるためにここにいるらしい。でも、実態はわたしの方がお世話になってばかり。少しでも役に立てるようにならないと。わたしは少し照れているユナの横顔をそっと見つめた。

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