6 銀世界にて
顔を出したばかりだというのに、太陽は物凄いスピードで沈み始めた。さらに、さっきまでいいお天気だったのに、小雨がぱらついてきて、挙げ句の果てには雪が降り始めた。
「ユナちゃん、今って、冬?」
前を行くユナの後ろ姿が吹雪で霞み始めていた。
「ここの季節はその日次第」
気温の変化が激しく、昼夜の時間も不定期。気をつけないと、そのうち本当に体調を崩しそうだ。
しばらく降り続いた雪はあっという間に辺りを白く染め、わたしたちは銀世界の真っ只中にいた。
ユナは川辺りの老木の側に荷物を下ろした。リュックの中からスコップを取り出して、柄を伸ばす。さらに、スコップの先で、地面に大きな円を描いた。
「何するの?」
「かまくらを作る」
そう言うと、ユナは折りたたみバケツを渡してきた。
「これにどんどん水を汲んで来てもらえる?」
「合点、承知です」
初めてユナに頼られて、ちょっと嬉しくなる。勢い勇んでバケツを川の水に突っ込んだところで、わたしは後悔した。今にも凍りつきそうな程の冷たさだったからだ。
ユナは円に沿って雪を集め、少しづつ高く積んでいく。そこにわたしが汲んできた水をかけて、スコップで固めていく。この工程を繰り返していくと、気づいたときには雪のドームが出来上がっていた。
「お疲れ様」
出来上がったかまくらを見上げて、ユナが言った。
「ユナちゃんこそ」
小さいかまくらだが、二人で作るには中々の重労働だった。
「入ってみてもいい?」
「どうぞ」
人生初めてのかまくらにテンションが上がる。死にかけてるから人生に入るのかは微妙だが。
中は意外なほど暖かかった。ユナと並んで吹雪が止むのを待つことにする。
「かまくらまで作れるなんて、凄いね」
「わたしは雪国出身だから」
南の出身のわたしは、雪が珍しくて仕方なかった。本当は雪の上を駆け回りたいくらいだが、流石にそこは自重する。
しばらくかまくらの中でまったりしていると、吹雪の勢いが弱まってきた。穏やかに雪が舞う景色は、それだけで異世界のようだった。
「綺麗だねえ」
「見た目はね」
ユナは意味深な感じでつぶやいた。
「おや、異議あります?」
「雪にはあまりいい思い出がないから。雪かきとか雪下ろしとか」
「そっか、雪国は大変だね」
同じものを見ても、感じることは人それぞれ。同じ事を考えているとは限らないのだ。わたしは改めて、ユナの横顔をそっと観察した。
少しまどろんでいるうちに、雪が止んでいた。ユナも眠っているようだったので、わたしはそっとかまくらを出た。
踏み出した足が雪に埋まる。結構積もっているようだ。わたしは身体がウズウズしてきた。北国出身のユナはどうかは知らないが、積もった雪を見たら、アレを作らないと気が済まないのだ。
土台は少し大きめ、胴体と頭は同じくらいの大きさに。わたしはしばらく雪と戯れていた。
「何してるの」
ユナがかまくらから出てきた頃には、立派な雪だるまが出来上がっていた。
「かわいいでしょ」
鼻につけた小枝がチャームポイントだ。ユナは不思議そうな顔をして、雪だるまを眺めている。
「なんで三段なの」
「え? うちでは子供の頃から雪だるまは三段だったけど」
「……レミって欧米出身?」
わたしはユナの言う意味がわからず、首を傾げた。