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ふたりたび  作者: 神楽一斗
2/9

2 まだ死んでない

 外はずっと薄暗いままで、今が夜なのかもわからない。ユナが寝る準備を始めたので、わたしも一緒に寝ることにした。

 テントは二人寝れるギリギリの広さのため、必然的に彼女との距離が近くなる。何か話さないと間が持たない。

「ユナちゃんって呼んでいい?」

「……お好きにどうぞ」

 彼女はくるりと背を向けた。返しは素っ気ないが、満更ではないとわたしは判断した。

「ユナちゃんはいつからここにいるの?」

「さあ、数えてないから」

 あの旅慣れた感じは、少なくとも、それなりの時間を過ごしていると思われる。

「死後の世界にしては、不思議なところだよね。普通に疲れるし、お腹もすくし」

 ユナは何も答えない。あまり話すのが好きではなさそうだ。わたしは本当に死んだのだろうか。実は生きていて、この世界に飛ばされただけという可能性もあるのでは。

「あの、ユナちゃん。つかぬことをお聞きしますが、わたしたち、死んでるんだよね?」

 ユナは顔だけをこちらに向けた。

「変なこと聞いてごめん。なんだか実感沸かなくて」

「死んでないよ。……まだね」

 どういう意味だろう。わたしは少し考えたが、考えるほどに混乱してくる。ユナはひとつ欠伸をすると、また向こうを向いてしまった。

「あのう、説明……」

 彼女はすぐに寝息を立ててしまったので、わたしはしばらく眠れないまま悶々としていた。


 翌朝、と言っていいかはわからないが、わたしが目を覚ましたとき、隣にユナの姿はなかった。

 テントを出ると、ユナは焚き火に鍋をかけて何かをかき混ぜていた。

「おはよう、ユナちゃん。何作ってるの?」

「……おはよう。味噌汁だよ」

 お母さんだ。この人は味噌まで持っているのか。

「わたしも手伝うよ」

「もう出来るから。顔でも洗ってて」

 完全にお母さんだ。わたしはほっこりしながら水辺に向かった。両手ですくうと、水の冷たさにびっくりする。少し慣らしながらやっと顔を洗った。水の底に丸いものが沈んでいるのに気づいて、覗き込む。ヤシの実が二つ、沈めてあった。


 ユナのところへ戻ると、簡易テーブルの上に湯気の立つお椀とご飯が用意されていた。わたしは感動してつい見惚れてしまった。

「……座ったら」

「はい、お母さん」

 お椀の中の白味噌のお汁に、豆腐とお揚げがよく合う。いや、待て、流石にこれはおかしい。

「おかあ……じゃなくてユナちゃん、この材料はどうしたの? その辺りで採れるものじゃないよね」

 ユナは質問に答える代わりに、側に置いてある袋を指さした。乾燥豆腐にお揚げ。そんなものがあるのか。一瞬納得しかけたが、違和感が後から湧いてくる。

「この世界にお店とかあるの?」

「あるわけないでしょ。交換するの」

「交換って……誰かと?」

 そうだとしても、その乾燥豆腐を持っていた人はどこから仕入れたのかという話になる。わたしは頭の中がぐるぐる回りだして熱が出そうになった。

「……いくつか支給品がもらえるんだよ」

「どこから? もしかして、神様とか」

 わたしは冗談で言ったのだが、ユナは何も答えずに味噌汁をすすった。

「……もしかして、本当に?」

「どうだろ」

「どうしてほのめかすの」

「わたしもその辺りのことは、よくわかってないから」

 何か誤魔化されたような気がする。ユナは話したくない事情でもあるのだろうか。


 具材が乾燥物でも、野外で飲むお味噌汁は格別だった。白いご飯とのコンビネーションは完璧だ。後は食後のデザートでもあれば。などと考えていると、ユナが水辺の方から歩いてくるのが見えた。顔を洗ったときに見かけたヤシの実を抱えている。

 ユナは昨日と同じ要領でヤシの実の頭を割ると、ストローを差してくれた。よく冷えているので、喉越しが爽やかだ。飲み終わると頭がスッキリしてくる。果肉の方にはユナがハチミツをかけてくれた。ぷるぷるの食感に甘さが加わって、高級なデザートに早変わりだ。

「これ、好きかも」

 ユナと一緒にハニーココナッツを堪能する。この幸せな気持ちがどこから来るのかと言えば、わたしが生きているからに違いない。やはり、確認しないわけにはいかない。

「ユナちゃん、昨日言ってたことだけど」

 ユナがチラリとわたしを見る。

「わたしたちがまだ死んでないって、どういうこと?」

 ユナはしばらく黙っていたが、唐突にわたしの鼻をつまんだ。息苦しくなって、思わず口で呼吸する。

「人は、生きるために呼吸をするし、食事を摂るんだよ。この身体は、少なくとも生きているってこと」

 そう言われても、腑に落ちない。わたしの不満が表情に出ていたのか、彼女は言葉を継いだ。

「この世界にはどこかに出口があるの。わたしたちは、出口を探す旅をしないといけない」

「出口があるって、どうしてわかるの?」

「……わたし、三度目だから」

 彼女は、そう言って空を見上げた。

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