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ふたりたび  作者: 神楽一斗


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14/16

14 ひとりたび

 もう何度目の手術になるだろう。外の世界に出るための希望の術も、天井を見つめる時間を延ばすだけのものになっていた。

 空想の中に構築した世界は、独学で得た知識でリアリティを増していた。でも、どんなに空が青くても、草花がみずみずしくても、そこにはわたし一人しか存在しない。誰かに側にいて欲しい。それが一番の願いなのだと気づくのに、それほど時間はかからなかった。追い求めても届かないことに絶望したわたしは、一度この世に留まることをあきらめた。


 闇の中に溶けてなくなってしまえば、楽になれる。心の世界に閉じこもろうとしたとき、誰かが呼ぶ声が聞こえた。それまでに作り上げてきた空想の世界の断片が嵐のように通り過ぎていく。やがてわたしは、見知らぬ荒野に一人で立っていた。


 わたしの空想の世界とは違い、そこには自分の身体が存在していた。土を踏みしめる感覚が、靴の底から伝わってくる。走ったり飛び跳ねたりすると息が切れ、空を飛ぶような人の力を超えるようなことは出来ない。わたしは胸いっぱいに空気を吸い込んで、しばらく爽快感に浸った。

 ここが現実世界でないとしても、自由に動く身体を手に入れたことに最初は浮かれていた。本で得た知識が十分ここでも通用することはわかったけれど、誰もいないことに変わりはない。一人きりでサバイバルを続けながら、次第にわたしは疲弊していく。あてのない一周目の旅は、途中で挫折を迎えた。


「ここで諦めるか?」


 朦朧とする意識の中、最初に聞いたものと同じ声が頭の中に響いた。


「もし旅をやり直す心が残っているなら、望むものをひとつ、支給しよう」


 草原に行き倒れていたわたしの前に、大きな姿見が現れる。曇り一つない鏡面に、やつれきった自分の顔が映し出され、思わずはっとする。

 

「心が続く限り、旅は何度でもやり直せる。次の旅を成功させるために、必要だと思うものを思い描いてみるといい」


 身体が自由に動かせないわたしには、時間だけは十分にあった。いつか世界を旅する日を夢見て、得てきた知識は誰にも負けない自信がある。

 病院のベッドのそばには、父に買ってもらった水色のリュックが置いてある。これに道具をいっぱいに詰め込んで、空想の世界でシミュレートを繰り返した。後から思えば、リュックに入らないような道具もあったのだけれど。


 もし、あのリュックがあったなら、わたしを旅を成功させられるだろうか。そう考えたとき、わたしはリュックを携えて、最初の荒野に戻っていた。


 振り出しに戻されたわたしは、まずリュックの重さに驚いた。物がたくさん入っているのだから、重くなるのは当然のこと。空想の中では、なんでも出てくる便利な入れ物程度に考えていた。ほとんど寝たきりのわたしが、頭の中だけで考えた世界なのだから、多少のほころびはあるのだろう。とはいえ、実際に目の当たりにすると、少しだけ悔しい気持ちがわいてくる。

 くたびれ切っていた体はすっかり元気になっていて、前より調子がいいぐらいだった。旅を続けていくうちに、リュックの重さも大して苦にならなくなっていった。


 旅は、途中までは順調そのものだった。一周目で通った道のりは全部頭に入っていたし、果実がなっている場所や、水場がどこにあるのかも把握していた。これにリュックの道具が加われば、鬼に金棒。最初のうちは、この世界を踏破出来る自信だってあったぐらいだ。

 しかし、便利な道具を手に入れても、心の内側までは補えなかった。人のぬくもりを感じたい。誰かに話を聞いて欲しい。先に進むにつれて、そんな思いが少しずつ心にのしかかっていく。結局わたしは、寂しさに押しつぶされるようにして、〝出口の入口〟の手前で前に進むことをやめた。これが、二週目の旅の終わりだ。

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