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ふたりたび  作者: 神楽一斗


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11/16

11 日記

 声が出なくなるまでユナの名前を叫んだが、わたしの声は暗闇の中に吸い込まれていくだけ。気づいた時には三時間以上が経過していた。

 ユナのことにわたし自身のこと。今のわたしには、次々に襲いかかってくる不安を振り払うのが精一杯だった。ふらふらと部屋に戻ってリュックの隣に座る。この重たいリュックの中身を取り出せるのはユナだけ。もし、このままユナが帰ってこなかったら。また、そんな考えがよぎってしまい、わたしは思わず頭を振った。

 万が一ユナとはぐれたとしても、このリュックは連れて行こう。ここまでずっとお世話になってきたのだから。そっとリュックに触れると、ほんのり温かさを感じる気がした。


「……これ、なんだろ」


 わたしは、リュックの外側に付いているポケットに気づいた。こちらは普通の物入れのようで、小さい手帳が入っていた。開いてみると、手書きの文字が並んでいる。


 十日目

 スタート地点でキャンプを始めて十日が過ぎた。

 まだもう一人は現れない。


 十一日目

 このまま待っているのは正解なのだろうか。

 今日まで待って現れなければ、移動を始めることに決めた。


 表紙には〝三周目〟と書かれている。これは多分、ユナの日記だ。


 十二日目

 旅立つ覚悟を決めたとたんに、希望がかなえられた。

 同世代だったのは安心したけれど、複雑な気持ちもある。


 十三日目

 レミはとても元気で、一緒にいると気持ちが軽くなる。

 それだけに、巻き込んでしまったことが気になって仕方ない。

 わたしの考えすぎであって欲しい。


 人の日記を読むのは良くないと思うけれど、一人になった寂しさが勝って、頁をめくってしまった。やっぱりユナはわたしを巻き込んだと思っていたみたいだ。わたしがここにいるのは、ユナのせいじゃない。そのことだけは、はっきりと伝えなければ。わたしはここで一晩過ごすため、囲炉裏の火を起こすことにした。


 通路の松明を持ってきて、なんとか薪に火をつけることは出来た。たき火を見つめていると、早速不安になってしまう。ユナはこんな気持ちでずっと旅をしていたのだ。よく考えたら、ユナがいなかったらどこに行けばいいのかもわからないのだ。

 今のわたしは生きても死んでもいない状態で、どこかにある出口を目指している。行先はユナの記憶が頼り。なんとしても、帰ってきてくれないと困る。


 パチパチと薪がはじける音が心地よくなってきて、そのうちわたしは眠りに落ちていた。


 *  *  *


 わたしは、片道一時間半ほどかけて高校に通っていた。進学校なので、早朝と夜に課外授業があって、帰るころには十時を過ぎる。勉強が跳びぬけて得意というわけじゃないわたしは、次第に周りに置いていかれるのを感じていた。

 その日、わたしは通学路途中の横断歩道で信号待ちをしていた。疲れが溜まっていたのだろう。歩道側にはみ出して走行するトラックに気づくのが一瞬遅れた。暗闇の中で近づく二つのライトがスローモーションに見えたそのとき、わたしは受け入れてしまった。

 ここで終わりになっても仕方がない。そう考えたのは、わたし自身が自分を好きでなかったからだ。自信の無さで誰かの顔色を伺うことが増え、それでいて大した成果は生み出せない。わたしなんか、いてもいなくても変わらない。いつしか、そう考えることが増えてきていた。


 そして最後の瞬間、大きな衝撃とともに意識が弾けた。


 *  *  *


「ん、起きた?」


 わたしは頬をくすぐられる感覚で目を覚ました。隣を見ると、ユナの肩に寄りかかっている自分に気づいた。


「ユナちゃん? 本物?」

「わたしは本物だと思ってるけどな」

 ユナはふっと笑いながら焚き火を木の枝でかき混ぜた。長い黒髪と、落ち着いた優しい声。間違いなくユナだ。わたしは緊張感から解き放たれた反動で、涙が溢れてきてしまった。

「ちょっと、泣かないでよ。どこか痛むの?」

「ううん、安心しちゃって」

 わたしの体には毛布がかけられていた。ユナを待つ間に寝てしまったのだろう。


「心配かけたね、ごめん」

「わたしの方こそ……」


 ユナは湯気のたつカップを差し出してきた。日記帳のことが脳裏によぎる。勝手に読んでしまったことを謝らないといけないのに、言葉に出来ない。


「この場所のことを確認してたんだ。ここが〝出口の入口〟で間違いないみたい」

「どういう意味?」

「ゴールが近いってこと」


 ユナの横顔が焚き火に照らされて赤く染まっている。いよいよ、この旅の終わりが見えてきたのかもしれない。

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