百均に行った帰り道のおじさん
私の家の近くにある百均から帰っている時のこと。
颯爽と駆け抜けるチャラそうな信号無視の集団を横目に、しっかりと信号を守って自転車で帰っていた。
そんな時、あるおじさんが目に留まった。
(ここでの、「おじさん」は悪口などの意味ではなく、彼の愛嬌によるものである。ここ大事。)
彼はキャップを被っており、白髪で白と茶色ボーダーのポロシャツにチノパンという、まぁいかにも、というような格好。
道の脇、ポールによって塞がれた草の生い茂る真緑の空き地を、彼は見ていた。
正確に言うのならば、草の生い茂る真緑の空き地にある「何か」を見ていた。
彼はポケットから古き良きガラケーを取り出し、その「何か」を写真に収め、微笑んだ。
それまで私は、そのおじさんの行動を見たくてわざと自転車をゆっくりこいでいたが、ついに、止まっている彼を追い越して行くことになってしまった。
私は、彼が何を撮っていたのか気になり、通り過ぎざまに振り返り、彼の目線の先を見た。
そこには、真緑の空き地に咲いた桃色のラッパ型の花があった。
普通なら気づかずに通り過ぎてしまうようなところに、その桃色の花は咲いていた。
一輪だけ、緑の中にたくましく咲いていたその桃色の花を、彼は撮っていたのだ。
多くの人の目に留まらないようなところにこそ、大切なものがあるのだと「彼」に、あの「老紳士」に教えてもらった気がした。
あれから三ヶ月ほど経った今、あの老紳士をあれっきり見ていない。
だが、老紳士がいた道を振り返るとそこには今も、あの桃色の花が咲いている。