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拍手で歓迎を

タイトルを弄ってみました。

あれだと味気ないもの

地獄などという、使い古しの陳腐な言葉では片付けられない現実がそこにはあった。


恐らく、いやきっと神は死んだのだ。


役に立たないどころか、あまつさえ裏切った挙げ句、私を姦する役立たずの兵隊は、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら嬲ってくる。


愚民共は上に立つ者の重圧など考えもせず、あらゆる要求を通せと迫る。


税金が高いと不満を漏らし、減らしてやったらやったで、今度は街の景観が悪くなったと言いやがる。


税収が少なくなったから当然だろうが、民衆の脳がそこまで足りないと思わなかった。


犯され蹴られ、見世物にされ、首に縄を掛けられた瞬間ですらも、私は絶望しなかった。


潰してやる


全部潰してやる


何もかも潰してやる




セルバラ村にて



「あっはっはっ!なんだそれなら早く言ってくれりゃあ良かったのに」

「いや!全くだ!本当に!」


大笑いするブロンドの女と、声がやたらデカい男の笑い声は、腹まで響いた。


他の冒険者達はコルトの話に納得していなかった。


中に放射性廃棄物という物があり、触れると身体が破壊されて腐っていく。


組合に入ってもない流れ者のそんな話に、頷き分かるほど馬鹿ではないからだ。


それでも納得して引き上げてくれた訳は、この男女のお蔭だった。


双発の大剣使い、そう呼ばれていた。


「楽しみが無くなってしまったなぁ!あっはっは!」


豊満なボディが特徴的なパジー・ライトは、豪胆な性格らしく、何事にも臆せず進んでゆく勇猛さがあった。


「遺跡!なら化け物がいると思ったが!居ないのは残念だ!」


そしてその相棒であるマージ・ニングも似たり寄ったりな性格なので、とにかくうるさい。


「黙っていろ脳筋、今から討伐に行くんだぞ」


冒険者達が防護扉の向こう側へ行くのを拒んだのは、コルトの説得だけではない。


住民からの要請があったのだ。


「フォークの群れは、マッシャーと縄張り争いの真っ最中だ。我々はマッシャーを狩る」


「ねぇコルト、マッシャーってどんなの?」


「二足歩行で歩いて、前足で獲物を踏み潰す。それ以外は知らん」


フォークは良く縄張り争いをやる。


皿の上の料理を刺すように、次から次へと無差別にだ。


家畜は食われ、住民は怯えて何も出来なくなる。


だから定期的に駆除しなければならないのだが、今回は違った。


元から居るマッシャーの方を駆除するのだ。


フォークはその地域に置ける天敵が居なくなれば、大人しくなるので手っ取り早く問題を解決するには、個体数の少ない方を殺すのが一番なのだ。


しかしフォークは基本群れで動く為、相手より数が少なくなることはない。


在来種は一時の平穏を獲得するために滅ぼされ、フォークは更に支配域を広げる。


だからこそ、こういったやり方は辞めるべきなのだが、手間が掛かる上に旨味がないので誰もやりたがらないのが現状だった。


被害が出るのは決まって田舎村の僻地、ロクな報酬も出せないとこが依頼しても誰も来ない、組合も利益が出ない仕事は受け付けようとしないのだ。


「気に食わない!」


会議中、マージは突然大声を上げ、会議の流れに反してフォーク討伐をやろうと言った。


「私もそっちがいい!強いのがもっと繁殖すれば、もっと面白くなる!」


「戦闘狂共め、勝手にやってろ!」


冒険者達は口々に不満を漏らし、さっさとマッシャー討伐に向かってしまった。


「あーあ行っちゃった、どうなっても知らないよーだ」


「さて、あんたらはどうするんだ?」


マージの問いかけに、コルトは腰の拳銃を見せ応える。


「生憎これしかない、猛獣を殺せる武器があるならやってやってもいいが」


そんな冗談を言って、その場から立ち去ろうとするが背後から出てきた村長が、大きなライフルを持って現れた。


「こんなので良ければ」


押し付けられた物は、家の作業台で造ったよレベルのお手製のライフルで、暴発して手を負傷しないか不安だった。


重機関銃の銃身を切り詰め、それに木製のストックを組み合わせ、ボルトを溶接して造られた猛獣用の狩猟銃だ。


気は乗らないが、1発試し撃ちをすることにした。


「ユメ離れてろ、弾が破裂するかもしれん」


渡された弾は、どれも戦前に製造された古い弾だった。


大きな音と共に発射された弾が、狙った位置の少し右にずれて着弾する。


「あぁ畜生!ひどい反動だ」


音もうるさいし、反動はロデオをしてる気分になれる。


「どう?」


「剣を握った方がマシだな」


大勢がぞろぞろと森へ入って行くのを横目に、我々4人は少し遅れて狩りに出掛けた。


その前にじゃがいも味のスープを振る舞われたが、腹の足しにもならなかった。


割に合わない仕事だが、やらなきゃ飢え死にだ。




セルバラ村付近にて



「よーし囲め囲め!」


魔法でマッシャーの後ろ足を縛り、囲んで袋叩きにする。


潰す為の平べったい前足が使えなければ、巨体などただの重しだ。


「魔術師は眼を潰せ!」


1つしかない鋭い目に向けて、閃光が放たれる。


蒼白い光がマッシャーの目に焼き付き、白いモヤがかかって見えなくなってしまう。


「切り込めぇ!」


切先をバラつかせながらも、連携の取れた動きで横腹へ突入する。


分厚い皮ではあるが、突き刺してしまえば、後は引き裂くだけだ。


「うおおお!相変わらず斬れねえなぁ!」


「どいて!これを中に」


空いた僅かな傷口に向けて、弓矢を引き絞り放った。


肉へ深くめり込んだ矢が、マッシャーの心臓へと意思をもって潜り込む。


「溝鼠の魂を仕込んだ矢、食い潰せないハラワタはない!」


鼠は心臓をかじり、食い出来た道に沿って血液が吹き出す。


「やった……」


「意外と大したことなかったな」


安堵の声を上げ、冒険者達は剣を納めると同時に、全身から血を吹き出して消えた。


「……………………?」


「はっ!何が……起きて」


潰れていた筈の眼が動き、弓を持った女へ向けられる。


「えっうそ待って、ケントこれ」


弓矢ごと消えた彼女の言葉は、足元に血溜まりを作る。


「目玉だ離れろ!」


マッシャーの視界内に入る者は全員死んだ。


それに気付いたリーダー役は、仲間をなんとか逃げさせようとした。


マッシャーの眼は身体の中央に位置し、200度の範囲を見渡せる。


逃げ遅れた者やその性質を知らない者は、血飛沫を上げて消えた。


「ここまでくれば……」


目玉が体内へ引っ込むと、空いた横腹から剥き出して現す。


「なにぃ!?」


僅かに残った冒険者達は、蛇に睨まれたみたいに動けなくなる。


「愚民め、オマエ達の蛮勇に軽蔑の拍手を送りましょう」


1、2、3の拍手を送った。


前から順に3人の冒険者達が消えた。


いや、消えたのではない。


見えない何かに潰されたのだ。


両脇から壁が迫って押し潰されるみたいに。


「貴様は……何者なんだ?」


両手を胸の高さまで上げ、大きく振りかざした。


偉大なる演劇を成し遂げた冒険者へ、拍手を贈った。


割れんばかりの声なき称賛は、彼らを皆殺しにした。


「立てマッシャー、愚者の臭いがする」


全身から血を吹き出しながら立ち上がり、足を鳴らして答える。


血の臭いを嗅ぎ付け、崖上から遠巻きに様子を伺っていたフォークが潰れた。


力量の差を見せつけられたフォークの群れは、この地域から撤退した。


あれは自分達の手に負えないと悟ったのである。


「我が領地を侵犯した愚か者に告ぐ!」


「私はアルベ・ルド・ジャルバー!」


「ボーシャイング王国3代目女王、ジャルバー家最後の女である!」


「私の土地に愚か者は必要ない!潰れ失せろ!」


マッシャーは巨体をくねらせ飛び上がり、愚か者が居る場所に着地した。


「うお!なんだこいつ!?」


「マッシャーだぜ!なるほど一匹でフォーク共を葬った訳か」


コルト達の目の前へ、衝撃と共に降り立ったマッシャーは、眼を開いて凝視する。


間髪いれずにコルトは目玉をぶち抜き、視界を奪う。


「いい判断ですこと愚民、ボーシャイング王室から賛美を贈らせて貰います。はい拍手」


パチパチと手を叩くジャルバーにユメとパジーは、はてなの文字を浮かべる。


「え?なに?ぼーいんぐ?」


「ボーシャイングと言っていましょう!先ほど説明しましたよね!」


「いや聞いてないし……」


「あーすまん、何か騒いでたのは分かったんだが、遠すぎて聞こえなかった。あっはっは」


「……………ふぅ、愚か者に愚民め………なら潰れろ!」


眼が潰れたマッシャーは、足裏にある感覚器官を頼りに飛び潰そうと前足を伸ばす。


パジーが剣を抜き、潰し来る前に受け止め、その間にマージが前足を切り落とした。


「ほい来た!」


剣先を腹の下へ向け、骨のない部分へ突き立て胸から下腹部へ流れるように走り切る。


内包しきれなくなった内臓が剥き出しとなり、赤黒の何かが飛び出した。


「旨そうなレバー色だな!」


パジーが剥き出しにした内臓へ向けて突進し、マージがあばら骨ごとぶった切った。


そして反撃を受ける前に離脱し、交代交代で攻撃する。


彼らが双発の大剣使いと呼ばれる理由は、この連携にあった。


相手の最も脆い部分を正確に突き、そして強引かつパワフルに引き裂く。


それが2人のやり方なのだ。


マッシャーはあっという間に切り刻まれ、回復不可能なダメージを負った。


毛皮は血濡れ、ハエがその回りを旋回し、触れる筈のない風が臓器を撫で回す。


「剣よ、我の欲する光を求めん」

「刃よ、この瞬間に力を与えよ」


魔法を帯びてスパークをする剣は、確実に獲物の首を捉え、青白く光り輝いている。


大きく振られた刃から発せられる力は、マッシャーの血管を破裂させ、肉を焦がして縦に裂いた。


真っ二つになった胴体に繋がる足の筋肉はビクビクと動き、まだ生きているかのように死んでいた。


「さぁ、次はあんただ」


ジャルバーへ剣先を向け、覚悟を促すマージは姿勢を低くして飛び掛かる体勢を取る。


が、その前にコルトが胸を撃ち抜く。


「おい、びっくりするだろう!」


「殺すなら銃の方が早い」


「いやぁ、それ相手が人間の場合じゃないの……」


ユメの目線の先には、倒れる直前に何かに支えられるジャルバーの身体があった。


撃ち抜かれた胸から前後に腕が生え、動かし支えている。


「嫌になりますわね。こういう追い詰められ方は性に合わないし、何より昔を思い出して腹が立つ」


心臓から生えた2本の腕はジャルバーの身体を持ち支えながら、強烈な異様さを醸し出している。


「くそ、また化け物かよ」


もう一発、今度は首を狙って銃弾を放つが命中した場所、射入口と射出口から更に腕を出して地面を叩いた。


「まるでシャンデリアだわ」


「そうか?随分悪趣味のようだが」


パジーとマージはジャルバーの奇妙な身体に目を丸くし、皮肉を言った。


「さ゛あ゛こ゛い゛ぶ゛っ゛潰゛し゛て゛や゛る゛」


喉の異物がジャルバーの声から可憐さを奪い、報復の色で満ち足りた狂気に変貌を遂げた。


さぁ、スカートを捲れ


裾を上げろ


ヒールを脱ぎ捨てろ


ベルトを締めておけ


足を止めたら叩き潰されるぞ

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