黄色ケーキの残りカス
19XX 12 XX 世界標準時間204X
そちらの状況は?送信……
アポカリプスの到来だ……
施設内のメーターが振りきってる……
もう長く持たない……
ヴェロニカは使ったか?送信……
既に5、6本打ち込んでる……
心臓が爆発しそうだ……
司令部と連絡が途絶した……
緊急時マニュアルに従って施設を封鎖する送信……
了解幸運を……
そちらにも幸運を……エラーコード404
通信対象が見つかりません……
セルバラ村にて
「いい場所だね、田んぼとかにしたら良さそう」
多分これは皮肉だ、こんな土地が農作業に使えるもんか。
焼畑農業をやり過ぎたせいで土地は痩せこけ、例え水を引いてきても上手くは行かないだろう。
「ライスがそんなに食いたいのか?」
「別にぃ~お婆ちゃん家の田舎恋しくなっただけ」
「野暮なこと訊くが、家族はどうした?」
このご時世では、家族のことっていうのはあまり訊かない方がいい。
まぁ、大体生き別れてるか死んでるかのどっちかだからだ。
「わかんない、家を出てから会ってない」
彼女から見れば、ここは異世界であり危険な場所であった。
私が戦争に行った時、戦友達と一緒にここは別世界だと冗談交じりに言ってのけた。
肌色の違う連中が、四六時中じろじろとこちらを探る素振りをしてくる。
惑星南レギオン、そう現地人への侮蔑も込めた呼び名を口にした。
奴らは情報をこちらに流した人間の手と足を縛って、吊るし首にしていた。
俺達の国ではそんな事をしない。
裁判を行い、刑務所にぶちこんで報いを受けさせる俺達の方が、よっぽど倫理的に優れていると。
だがそれは文化と状況の違いとも言えた。
俺達から残虐に見えることでも、彼らからすれば全うな罰なのかもしれない。
本土まで外国軍に突入されている国家が、なりふり構っていられないのは自分も良くわかっている。
彼女ユメも、この別世界の文化と状況の差に怯えているかもしれない。
「家族が安全な場所にいるってんなら、マシな方だ」
「何でそう言い切れるの?」
「子供が1人で出歩ける国なら、治安はいい国なんだろ」
「あーまた子供扱いした!私これでも18なんだけど!」
「俺から見りゃ、18だろうが20の青二才もガキに変わりはないさ」
小馬鹿にするコルトに意地を張って、ユメはぶーぶーと反論する。
「お酒は飲めないけど、18なら選挙には行けるんだよ」
「おめでとうユメ、政治家に騙される哀れな国民の称号が手に入ったぞ」
「もう!どうしてひねた考えしか出来ないかなぁ!」
「悪いな、なにぶん偏屈なもんで」
なんだか負けっぱなしなのは癪なので、一泡吹かせてやろうと企むが、大人の条件とはなんなのだろうか?
自立することか?法律なのか?色気?色気なのか!?
コルトの背後で、服を捲ってへそを出したところで自分がお洒落の片鱗すらも感じさせない服を着ていることに気づいた。
これでどう色気を出すんだ?
そう思い固まっていると、コルトが振り向いて鼻で笑った。
「そういう安直なところが子供だと言ってるんだ」
ユメは目をぐるぐる回し、恥ずかしさで死にそうになった。
「そんなにその服が嫌なら、動き易くて可愛い服を買ってやるよ」
「……ほんと?」
「あぁ、ベビー服とか似合いそうだしな」
「ん゛ん゛ん!」
コルトはユメをおちょくって遊びながら、村の雑貨屋を尋ねた。
「いらっしゃい何も無いけど」
店番の女は、いかにも田舎娘って感じの服装で、棚から食料はおろか、石鹸や砥石といった物まで消えていた。
「品薄だな」
「遺跡が見付かったのよ、そしたら冒険家が沢山」
「見付かった?お前らはあの鉄塔に気が付かなかったのか?」
村の中から見える位置に、通信塔が立ち伸び、その下方にコンクリート造りの強固な建物があった。
普通に住んでいれば、嫌でも目に入る。
「あいつらにってこと、おかげで村中ごった返し、売る物無くなっちゃった」
外を見ると、剣を持った男達が意気揚々と乗り込んで行った。
馬鹿な連中だ、あれが遺跡に見えるらしい。
あの鉄塔はどう見ても長距離通信塔だ。
下にあるコンクリートも大方、それに付随した施設だろう。
あんな場所を、遺跡と言って有り難がる連中の気がしれない。
せいぜい見付かるのは、型落ちのブラウン管モニターか、白骨死体ぐらいだろう。
「倉庫にも無いのか?」
「あるけど村の人用、軟膏ならあるよ」
「生憎、火傷はしてない」
「でも火傷しそうな顔してるじゃん」
「どういう意味だ?」
「想像に任せるよ」
店を出たコルトは怪訝な顔をしつつ、ユメに問いかける。
「火傷しそうな顔ってなんだ?」
「さあ、まんま意味じゃない」
食べられない時に限って、何も手に入らない時に限って、腹が減る。
4日歩き続けてクタクタなのに飯も寝床もない。
「途中で道を間違えなきゃ、もっと早く着けた」
「あぁ、しくじったよ」
地べたに座り込み、首を斜めに傾けて言った。
「胡椒を振りかけたチキンが食いてえ」
「今なら、カビた段ボールでも食べられそう」
ふと何かを思い出したのか、コルトは立ち上がり電波塔へ歩き出した。
「急にどうしたの」
「昔、政府関係の施設には戦争を想定して、成人男性30人分、1ヶ月間の食事を賄える量を備蓄するのが義務付けられてた」
「もしかしてそれを当てにするの?何十年も前なんでしょ」
「いや、長持ちさせる為に色んなモンを入れてたお蔭で、味は最悪だから誰も食わねえ」
食った奴が言うには、カビた段ボール食った方がまだマシと言わしめる程の不味さらしい。
あんまり美味しくし過ぎると、おやつ代わりに食べられてしまうからとは聞いたが、それにしたって段ボール食わせることはないだろうに。
「トレジャーハントしてる連中に見付かるなよ」
「どして?」
「冒険家同士で手柄を横取りしたりされたりするからな、組合に許可貰ってない奴は追い出そうとしてくる」
冒険家、冒険者あるいは夢想行動主義者、連中はそう呼ばれていた。
冒険がこの戦火で焼けた土地にあると信じ、ありもしない夢物語を信じてる。
戦前の財宝を手に入れたとか、国を作ったとか、そんな話を耳にする。
本当かもしれないし、そうじゃないかもしれない。
だが、俺にとってはどうでも良かった。
こっちが必死で生きようとしてるのに、向こうは剣を振り回しながらの生活を楽しんでやがる。
羨ましいとまでは言わないが、そういう能天気な夢をみれる連中に苛立ってた。
なぎ倒されたフェンスを乗り越え、コンクリートに開いた大穴へ警戒しながら入り込む。
「ここってなんの施設だったのホントに遺跡?」
「さぁ、わからんな」
内装はえらく殺風景で、白い壁に緑色の床、消火器と公衆電話、随分味気ない場所だ。
泥水で出来た足跡が奥へと続き、その道中の扉はすべて抉じ開けられていた。
「まるで墓荒らしだな」
装備保管庫とプレートの貼られた扉を押し、中を覗くと、ここも見事に荒らされていた。
「これだから連中は嫌いなんだ、価値も分からず物をひっくり返しては……」
連中が価値がないと見なして捨てた、メーターの付いた機械が目についた。
丸枠の真ん中に更に小さな丸、その周りに3つの4角形が並んでいた。
Ανίχνευση παρεμβολής ιστορίας
Uvoľnite niektoré spomienky
「これは!」
どうして今まで忘れていた?
目の前にあるマークが、脳の奥深くに眠っていた記憶を呼び起こす。
「あれ?これって確か放射の」
コルトは駆け出し、足跡の続く限りに向かった。
年のせいか、少々走りに衰えを覚える。
「待ってよコルト!」
後ろから、状況を分かっていないユメが追いかけて来る。
だがそれを無視して、奴らが開けようとしているパンドラの箱へ走る。
「開かないなぁ」
「やっぱり爆破するしかないよ」
叫んだ。
敵を殴り付ける時よりも、歌を唄う時よりも、叫んだ。
「そいつを開けるな!!!!!」
強襲浸透部隊 チーム4PAMにて
「外が騒がしいな」
NBC防護服を着込んだ隊員は、防護扉の向こう側で口論する何者かを警戒する。
「諜報部め、いい仕事をしやがる。事前情報通りだ」
冒険家組合がこの核廃棄施設を見付けた瞬間から、我々は作戦を開始した。
この世界の住人には、手に負えない代物だ。
「空母が来るまでどのくらいだ?」
「わからん、だから全員始末するぞ」
防護扉をぶち破ろうとしている彼らに向けて、M4を構え備える。
「待てそいつを開けるな!!!!!」
壁越しに微かに聞こえるその声のお蔭で、扉は破られなかった。
「殺さずに済んだみたいだ」
扉の向こう側に居る誰かに感謝しつつ、地中に埋まる放射線廃棄物容器を回収する。
「お漏らしが多いな」
経年劣化でドラム缶は腐食し、微量な放射線が漏出していた。
ガイガーカウンターがカリカリと音を立て、人類へ向けて警告を発する。
「雑な梱包だぜ」
「ならこいつをデパートに持っていこう、梱包を丁寧にやってくれる」
「ゴミに用はない、もっと潜るぞ」
設計図に存在しないエレベーターシャフトを降り、旧政府の隠し部屋を発見した。
「見付けたぞ!」
「ああ、仮初の平和すら持たらさぬ忌々しい兵器だ」
この世界を2度に渡って滅ぼした存在、人類はそれを原子爆弾或いは、熱核兵器と呼ぶ。
「この型はW87だな、出力は300キロトンになる」
「ルーマ中佐に知らせよう」
「見た目20代の女に中佐って違和感あるよな」
「なら上級監査官でどうだ?」
「もう統合しちまえよ、ルーマ特別上級監査官兼海軍中佐でいい」
「早くケーキを確保したと報告しろ」
自分の創った物が、誰かの人生をとまでは行かなくとも、誰かの性癖を歪ませるぐらいの変化を起こしたい。
更なる変態性を追及し、人に迷惑をかけない自己完結型の変態になることで、優れた倫理観とフェチズムを保持することが出来る。