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拍子抜け

窓枠から飛び降りようとしていた彼を、私は引き留めてこう言いました。


「死んではいけない、きっと良くなる」


それでその時、彼はこう言い返したんです。


俺より優れている癖に、よくそんなことが言えるよなって





宿屋にて



床の軋む音、それからゆっくりと重みのある何かが移動する気配で目を覚ました。


拳銃のスライドをゆっくりと引き、ユメの肩を叩いて起こす。


「んーなに~もう」


「ここに居ろ、扉にバリケードを築け」


シーツを剥いで結び、窓から垂らして外へ降りると、一階へ忍び足で近付く。


「鍵が掛かったままだな」


外から入った賊ではない、ならばあの宿泊客の誰かだ。


隙間へナイフを挿し込み抉じ開け、中へ入る。


「おい店主、起きろ」


小声で呼び掛けてみるが、全く起きやしない。


酒の匂いに混じって、微かに鉄の臭いが鼻に飛び込んで来る。


口を動かし、最後の力で助けてとこちらに語りかけてくるが、それを無視して2階へ上がった。


「あれ?開かないなぁ?」


ユメの居る部屋の前で、怪しい人影が細長い棒でカンヌキを開けようと四苦八苦していた。


背後から忍び寄り、口を塞いで股ぐらへナイフを当てた。


「よく聴け、指示に従えば、お前のムスコが親離れせずに済む」


振り向いた男は、昨日階段ですれ違った小太りの奴だった。


「殺さないで、出来心だったんだ」


「下の店主を襲わなきゃ、考えてやったのに」


「店主?何のことだ」


ん?やったのはこいつじゃないのか、となると……


「おい、この部屋に入れ」


「いやカンヌキが」


「じゃあその棒はなんだ?マス掻きにでも使うのか?」


銃で脅し、男女の泊まる部屋へこの変態を差し向けた。


「開いたぞ」


その言葉の直後、コッキングの音が響く。


扉越しに放たれた散弾が、男の顔面を吹き飛ばした。


ほれ来たと言わんばかりに、壁に向かって銃弾を撃ち込む。


弾を撃ち尽くすと、拳銃へ新しい弾倉を装填して、素早く部屋を覗き込む。


「あぁ、いいのが入ったみたいだ」


散弾銃を持った若者は目を撃ち潰され、絶命していた。


「もう1人は何処だ」


血の跡が外へ続き、慌てて窓から飛び下りたのが分かった。


「クソ逃げたか!おいユメ、部屋から出てこい」


ユメは荷物を両手に抱え、不安な顔をしながら恐る恐る部屋から出てきた。


「撃ち合ってた相手ってもしかして」


「いや、ただの強盗カップルだ」


「ただのって……」


だだで強盗カップルがそこらにいるもんか。


「たまにいるぞ、田舎の宿とか酒場で」


「そんな珍獣じゃないんだからさ」


推察するに、あの王国兵と店主を殺したのは、そこでくたばってる男と今逃げた女だ。


大方、宿賃でも盗もうとしたのだろう。


だがそれにしては妙だ。


王国兵が追って来るというなら、店主を殺したというなら、さっさとこの宿からおさらばするべきだろう。


何故、部屋に隠れて待ち構えていた?


今すぐここを離れるべきかもしれないが、そこが引っ掛かった。


1階へ降りたコルトは、店主の死体を退けてカウンター下にある小さな手持ち金庫を開けた。


中身は少額の金と、客が宿賃代わりに渡したであろう物品が入っている。


「これは風邪薬か、そういやあの死んでた医者、何か盗まれた跡があったな」


状況証拠だけ見るなら、あの強盗カップルの仕業だ。


「全く、次から次へと厄介ごとに巻き込まれちまう」


結局、いたのは殺人鬼ではなく、たちの悪いゴロツキだった訳だ。


ユメとコルトは、朝を待ってから無人の宿を出た。


そう無人だったのだ。


あの忠告を発してきた宣教師の姿は何処にもなく、散らかっていた部屋は片付いていた。


もしや連中が恐れていたのは、あの宣教師だったのでは?




モンゲンロート帝国にて



「ケーキの残りカスが見付かりました!」


ヘリエンジンの爆音に晒されながら、大声で叫ぶルーマは、端から見たら訳の分からない単語を話していた。


「あら!それはまずいわね!」


メインローターの風圧でアデリーナのスカートが波打ち、下着が露になるが、そんなことを気にせず会話を続ける。


「私の独断でチーム4を出撃させました!」


「いい判断ね!支援に空母を派遣するわ!」


アデリーナの乗ったヘリは急速に上昇し、西へ進路を取った。


「…………アデリーナ、何であんな派手なの履いてるんだろ」


上司の下着の趣味に疑問を持ちつつ、停まっている自動車へ向かった。


サングラスを掛け、車のドア枠に足を乗せてくつろぐ男は、周りの目も気にせず昼寝をしていた。


「起きてよヴァイアー」


「ん?なんだもう終わったのか」


「よくあの爆音で寝られるよね」


「12気筒ガソリンエンジンが背中で振動してる鉄の塊を常時乗り回してたら、こうもなるんだよ」


戦車乗りは騒音に慣れている。


十数トンを超える鉄のボディを動かす為の巨大なエンジンと、戦車砲の爆音が原因で、耳が遠くなってしまうらしい。


「空母までお願い、ほら早く出して」


「わかったから叩くな、今出す」


ヴァイアーの顔をペチペチ叩く様子はまるで、遊びに行きたい子供に手を引っ張られて、渋々付き合う仕事疲れ中の父親みたいだった。


「今度はどこでドンパチするつもりだ?」


「別に撃ち合いに行く訳じゃない、ゴミの片付け」


自動車は大通りへとハンドルを切り、馬車を軽々と追い越しながら、石畳で舗装された道路を進む。


「最近機甲は出番がないから羨ましいよ、俺も歩兵隊に入るべきだったかな」


「よく言うよ、射撃の腕が悪い癖に」


「これでも高校の大会では9位だったんだぞ。まあ15人中だったが」


ルーマは肩をすくめ、頬杖を立てて道行く通行人を眺める。


大陸一発展している国とはいえ、自動車は珍しいらしく、様々な眼差しでこちらを見る。


戦前の技術を用いて造られているこの4WD車は、今残っている工場が無くなれば今後、数世紀に渡って製造不可とされている代物だ。


当然軍隊や政府機関限定で配備されるので、一般人には遠い存在だった。


この状態は他の工業製品にとっても同じことで、この帝国が生産する製品の殆どは、戦前の技術によって造られている。


幾つかは複製に成功したが、こういった複製な構造をしている乗り物は、製造機械を騙し騙し直しながら使っていた。


「ヴァイアー見て、手なんか振ってるよ」


隣を並走している路面電車の窓から、若い女が数人手を振って話しかけてくる。


「軍人さん何処へ行くの?」「私も乗せてって」


「入隊してくれたら幾らでも乗せるよ!」


そう言ってヴァイアーは電車を追い越し、手をヒラヒラと振った。


「またね軍人さん!」


彼女達の笑顔の一方で、ヴァイアーは浮かぬ顔をしていた。


「兵隊が感謝されってのは、いつでも嫌な時代だよ」


「そう?私は肉屋とか行くとオマケして貰えるからいいと思うけど」


「お前がいつも買ってるブラッドソーセージは、この国じゃ人気ないから、在庫処分感覚でやってるんだろ」


軍港へ到着したルーマは車を降り、守衛に身分証を見せ、空中機動空母ワスプへ乗り込んだ。


翼竜14頭に加え、A1スカイレイダー6機を搭載した空中機動空母だ。


戦前はF4ファントム等のジェット機を搭載していたが、整備製造技術が失われた為、新たに翼竜を乗せている。


搭載数は海を航行する正規空母に劣るが、空中を移動するので足は速い。


初動対応にはいつもこの空母が向かわされる、いわば火消しとも言うべき存在だった。


枯れたハイテクに、アナログな物を載せるというのは、何とも言えぬ哀愁があった。


ルーマが乗ったことを確認した空母は、直ちに出港し、緊急事案への対処へ向かった。




森の中にて



罪人は、何故自分がうつ伏せで倒れているのかを記憶に問いていた。


きっかけは彼氏のポールが言い出した、思い浮きだった。


郵便局の強盗に失敗し、国から逃げなくてはならなくなった私達は、馬鹿な事を考えた。


ポールは、自分達を追ってくるであろう王国の兵士や賞金稼ぎの手から逃れる為に、焼印を作った。


巷で話題の連続殺人鬼が使っている焼印を偽造して、自分達の犯行から目を逸らす目的で死体に焼印の跡を付けた。


実際上手く行った。


殺人鬼は単独犯だと分かっていた為、探しに来た賞金稼ぎはものの見事に自分達をスルーして行った。


だが昨日、追って来た王国兵を殺した時から運命が狂い始めた。


豪雨の最中、たまたま雨宿りしにきた兵士が、自分達の顔を知っていたのだ。


押し退けて雨の中に飛び出し、雨音に紛れて兵士を殺し、いつも通り焼印を付けた。


だが奴に、いやコイツに見られていたのだ。


「真似したのは問題ではない。むしろ私の行いは社会にとって推奨されるべきだと私は思っている。ただし、社会的に劣っている人間に適用されるべきだと私は思っている」


「理由を考えずに焼印を押すのは本当に困る。彼らの名誉の為に価値のある人間の皮膚を剥いでしまうのは実に忍びない」


「私という人間はね。多分絶対恵まれていたと思うんだ」


「天才の輪にいる優秀な亜人って話を知ってるかな?」


とある国で種族差別が撤廃されたのをきっかけに、田舎からやって来た優秀な亜人が、人の学校へ勉強をしにくる話だ。


人間達は亜人を歓迎した。


生き物は平等に扱われるべきだと主張する人々は、やって来た亜人を偏見の目で見ることなく接した。


だが亜人は所詮亜人だった。


周りが丁寧親切に勉強を教えてくれているのに、亜人は常に成績最下位だった。


それでも人々は亜人を励まし、頑張れと応援してくれた。


そこで亜人はようやく気が付いた。


人は優秀だからこそ、頂点に立ち差別を行っていたのだと。


差別とは、嫌悪とは、集団から劣った存在を排除する為の行為であり、その価値のない存在は他の優れた存在の為に死ぬべきだと。


その真理に気が付いた亜人は、国の亜人を全て殺し、最後に自決した。


「当時の亜人差別を象徴とも言える作り話だが、私はこの話が好きだ。特に最後のシーンが」


「ゴミがゴミ箱へ勝手に進んで行って、自分から燃えてくれれば社会はもっと良くなる筈だ」


「それでゴミが他のゴミをゴミ箱に持って行けばもっと良くなる」


「分かるか?いや君にはわからない世界がどうしてなぜこの簡単な問題を解決出来ないのか え?なに選民思想?これは自己犠牲だ自分という周囲より劣った存在が同じ劣った存在を殺すことで優秀な人間の足を引っ張らず国の社会保障を蝕まなくても済む更に節税に繋がる素晴らしい仕事が出来ない人間は死ぬべきだ歩けない人間は死ぬべきだ会話の出来ない人間は死ぬべきだ無職は死ぬべきだ罪を犯した人間は死ぬべきだ頭の悪い人間は死ぬべきだ狂った人間は殺すべきだ私のような偏った思想を持つ人間は死ぬべきだ」


「誰か一人自分より劣った人間を殺せ!どうせ出来ないよな!じゃあ私がやる!」


地面を這いつくばって、必死に逃げようとしていた彼女は、心臓を杭で貫かれた。


「死ね!私よりっ!価値のないっ人間っ!」


焼印を背中へ押し付け、印を付けた。


この私より劣った人間がいると知らしめる為に

最近街で地雷系ファッションを見掛けることが多いのですが、本来の地雷という物は見えないからこそ意味があり、そこにあることで敵の進軍を妨げる効果があります。


可愛い格好ではあるが、中身はわからないというのは正に地雷、この表現はなかなか面白いと思いました。

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