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ところで釣り餌がないのだが、あの死体を掘り起こしてもいいか?

「えらく変わった死に方だな」


逃げるように街を出た2人は、西へ向かって進み歩く道中、奇妙な出来事に遭遇した。


全裸のまま手足を縛られ、首を樹木に吊られた状態で胸を1発撃たれている死体があったのだ。


拷問か何かを受けていたのか、皮膚の一部が削ぎ落とされていた。


ユメはあまり死体を見ないよう下に向きながら歩き、捨てられた衣服を手に取った。


「お医者さんだったのかな?」


衣服と一緒に聴診器や飲み薬が散乱し、何となく医者であることが推測できた。


「いやどうだろうなぁ、服を奪っただけかもしれん」


「てことは下着まで奪ったの?うぇ、ちょっと引く」


「そうは言ってもお前、1週間は風呂に入ってないだろう」


「………香水とか持ってる?いや訳ないよね」


「あるぞ」


「ほんと!?」


「嘘だ」


ユメは上げた肩を落とし、ため息を溢す。


「そりゃそうだよね、コルトが香水なんて逆に気持ち悪いし」


「まだ腐敗が進んでない、殺した奴がまだ近くにいるかもしれない」


死臭が移る前に、その場を立ち去ることにするが、一歩踏み出した直後、重みで枝が折れて死体が落下する。


死体は天へ祈りを捧げるが如く体勢で落ち、両手を広げた。


「その気になったら、俺が敵を取ってやるよ」




宿屋にて



「部屋は10ドロルでいいよ」


「あー手持ちがない」


「じゃ、何か交換出来そうな物は?」


こういった光景が見られるのも、共通通貨が存在しない大陸ならではの光景だ。


紙幣から硬貨は勿論、鉛筆や服用のボタンを通貨として運用している国もあると聞く。


通貨という概念のない種族相手にも、物々交換が有効である。


「で、お前さん達は何を対価にする?」


鞄からウィスキーを取り出すと、店主は一番いい部屋をどうぞと言ってくれた。


「あれって、飲み掛けのを水増ししたやつじゃなかったっけ?」


「こんなボロ屋の店主が飲める酒なんて、たかが知れてるさ。味なんて分かりゃしない」


安酒で舌が肥えてるだろうから、例え航空燃料でも美酒に感じる筈だ。


「おっと失礼」


狭い階段なので、互いに横向きになりながら通り抜けなければならない。


小太りな男は、腹を引っ込めてどうぞと手を上階へ向ける。


脂肪の障害物を潜り抜け、すれ違う間際、ユメの太ももに何か固い物が当たる。


「うっ」


男は涼しい顔をしているが、下半身の欲望を爆発させていた。


「あいつ見た?勃起してたよ」


「次やられたらぶん殴ってやるよ」


一番奥側の部屋へ、これまた狭い廊下を歩く。


コルトは外開きに開く扉に鼻をぶつけ、立ち止まったその背中にユメも鼻をぶつける。


「こんなにクソ狭い廊下の癖に外開きなのかよ!」


「いやはや全くですな、一旦下がりましょうか?」


「頼むよ」


宣教師の男は、身なりの通り紳士的な態度で接する。


「向かいの部屋の男女、賊みたいだから良く見ておいた方がいいですよ」


「ご忠告どうも、財布に紐でも付けておくよ」


通り過ぎる瞬間、宣教師の部屋が見えた。


瓶や本が散乱して、ベッドシーツが捲れ上がっていた。


「寝相が悪いみたいだ」


鍵すらない部屋に入り、内側からかんぬきで扉をロックを掛けた。


「こんな場所じゃ、貴重品は置けないね」


「出歩く場所もないさ、何せほら」


窓を開けると、小さな湖が広がる素敵な景色を見ることが出来ると同時に、何もないという退屈さも浮かんでくる。


「眺めはいいけどそれだけだね」


「来るのは湖へ釣りに来た奴か、俺達みたいに森の迂回が目的の人間ぐらいだ。わざわざ整備しようって気にもならんさ」


迂回、それはこの大陸で生き残る為の術だ。


内戦の爪痕は、あまりにも深くこの国へ刻み込まれていた。


ばら蒔かれた対人地雷が、未だにあちこちに埋まっていて幼子の足を吹っ飛ばしている。


内戦中に使用された科学兵器は、深刻な健康問題を生み出していた。


もうあの戦争から随分経っている。


歴史を知らない世代が増えているが、それを伝える事が出来る人間は少ない。


「ユメ、何か隠していないか?」


「………そうかもね、そうかも」


ダブルベッドに置かれた鞄をチラリと見て、鞄に入っている重みのある物に意識を向ける。


「あの本は何なんだ?」


さらば5人の勇者よ、あの本を回収して行ったのは、洗練された動きに加え、卓越した装備の数々を有した特殊部隊だった。


「俺は正直に話した。だから分からなくてもいいから話してくれ」


「………ちから、この本は力なの」


かつて5人の勇者が居た。


勇者達は1人の少女を守る為に突き進んだ。


勇者達は、勇敢であり、清純であり、寡黙であり、偏屈であり、愉快であった。


「こんな子供向けの冒険小説が力だと?」


裏表紙のあらすじに書かれた内容を流し読みしたコルトは、こんなちゃちな本が所持者に魔力を増幅させ、人智を越える能力を与えるとはとても思えなかった。


「うん、でもまだ制御が難しくて、一遍に魔力を出し切っちゃうんだ」


「なら武器を使ったらどうだ?昔観た超異屠って映画ではそうしてた」


「ちいと?やたらタイトルが長い小説に必ず付いてる言葉じゃん、こっちの世界にもそういう概念あるんだ」


大半の魔術師や魔法使いが使用する武器は、刃物や弓矢といった原始的な武器である。


力を武器という存在に乗せることで、出力を抑えたり逆に増幅させることが出来た。


例えるならば、口笛を吹くよりも縦笛の方が、簡単に音を出せて調整出来るのと同じような原理だ。


では何故、魔力を持つ者達が原始的な武器に拘るかと言うと、それは相性である。


余程腕の良い者でない限り、火薬や電子部品との組み合わせは、安定性が著しく低下して暴発の恐れを高めさせてしまう。


この相性の悪さも、科学と魔法の対立を生み出す原因の一つであった。


「銃は使うなよ、ガソリンに松明を入れるようなものだ」


「魔法の杖でも使えばいいの?」


「ああそうだな」


遠く、空の向こうに雨雲が見えた。


もうすぐ豪雨がやって来る。


「今のうちに外で水浴びでもしてきたらいい、しばらく外に出られなくなる」




豪雨の中にて



「おい!何処にいる?」


さっきまでいた筈の相棒が何処にもいない。


吹き付ける雨粒が視界を覆い、息苦しく淀んだ空気が身体中を包み込む。


「おーい!こっちだ!」


「こっちだ!」


暗闇から放たれた銃弾が胴に命中して、その痛みで思わず引き金を引いた。


吐血して膝を突くが、最後の力を振り絞って撃ちまくった。


が、盲撃ちだったので弾は当たらず、文字通り撃つ手無し状態となり絶望した。


「殺すなら殺せよ、俺はここだぞ!」


背後から銃を突き付けられ、撃鉄を引き起こす感触が頭蓋骨に伝わる。


「お前ら、アイツじゃ」


閃光が暗闇を一瞬照らし、頭に風穴トンネルが開通した。


こんな出来事があったとは露知らず、雨が上がる頃には宿の近くに死体が2つ横たわっていた。


「この制服、ロビン王国の近衛憲兵じゃないか?」


「ロビンとは随分遠いな」


宿屋の店主は、酷い殺され方をされている憲兵に十字を切って弔った。


ロビン王国、確か内戦の後に建国された新興国家だ。


一応女王が国を統治してはいるらしいが、何分歴史の浅い国の為、王室の権威はあまり無いと聞いている。


「近衛って王様の警備とかしてる人だよね?何でこんな場所に居るの」


「詳しいな、確かにその通り。まぁ大方便利屋の扱いされた結果がこれなんだろうな」


ユメの疑問に答えるコルトは、後頭部を撃ち抜かれた男をじっと眺めていた。


「初弾が運悪く肝臓……いやこれは胃か?まあその辺に命中して、吐血しながら膝を突いて動けなった後、背後から処刑スタイルで銃殺された」


もう1人は、数メートル離れた場所で首を絞められ絞殺されていた。


「妙だな、こいつらも皮膚が削がれてる」


削がれている場所もそれぞれ違っており、1人は手首、もう1人は脛をやられていた。


「それって、昨日見た死体と同じ犯行手口ってこと?連続殺人じゃん」


「このご時世だと、珍しくもないな」


他に何か手掛かりはないかと、死体の胸ポケットを探ってみたところ、濡れた厚紙を見つけた。


恐らく誰かの似顔絵が描かれていたのだろう、微かに顔の輪郭のようなものが、ぼんやりと写っていた。


滲んでしまって解読が困難ではあるが、太字で書かれた「手配書」の文字が並んでいることはわかった。


「お尋ね者 焼印師……」


「知ってるの?」


「あぁ、イカれた殺人鬼だ」


殺害方法、場所、時間どの要素からも、共通性がなかった為、治安維持当局は当初、同一犯であると見抜けなかった。


そこでその挑戦的な殺人鬼は、殺した人間の体に焼印を押し付け、犯行の証を残した。


何処かの国の新聞で読んだが、自己顕示欲が強いとか、神に生け贄を捧げているだの書かれていた気がする。


「恐ろしいもんだ、外でお喋りなんてしてられねえな」


店主は足早に宿に戻り、カウンターで酒を飲み始めた。


「もう出発しようよ」


「そうしたいのは山々だが、ここから次の目的地まで3日は掛かる。準備が足りない」


獣や化け物はこちらの事情などお構い無しにやって来るし、都合良く雨が降って飲み水が確保出来る訳ではない。


食料となる兎や鹿が、食べられる野草が生えてくる訳でもない。


「湖の魚を釣って、塩漬けか干物にして当分の食料にする」


「うーん確かに……缶詰めも瓶詰めも食べちゃったし」


ユメは紐に繋がった瓶を掲げ、底に張り付いたピクルスを見詰める。


瓶を縄で編み、落として大丈夫なよう強度を高めた瓶は、保存食を持ち運ぶのに重宝していた。


マブレンで調理場からひったくったピクルスも、オレンジの樹液漬けも切れた。ここで調達するしかない」


その前に、水を吸ってブヨブヨになり掛けた死体を埋める作業に入る。


まるで戦隊物で出てくる怪人のような見た目の死体は、胃の奥底から込み上げる気持ち悪さがあった。


「おえー泣きそうなくらい酷い臭い!」


動かす度に、膨らんだ手足から濁った水が滴り落ちる。


「全くだ、ジョニーの事を思い出す」


「それって、気の紛れる話になる?」


「俺が河川哨戒挺に乗ってる時だ」


「あっ話聞いてくれないんだ」


味方の救援に向かう最中、船首に搭載されている重機関銃についていたジョニーという海軍の新兵が居た。


河川挺が高速で移動するせいで激しく揺れ、ふと目を離した瞬間、ジョニーは川に投げ出されていた。


「戻って助けに行こうとは思ったんだが、たった1人の為に友軍を危険に晒すことは出来なかった」


「それで?」


「翌朝探してみたら、死体が岸に打ち上げられてた。こんな風にな!」


持ち上げた死体を振り子のように揺らし、穴へ放り投げた。


「どうだ?気が紛れただろ」


「最悪の気分!」


そう言って2人は盛り上がった土を背に湖で釣りを始めた。

先生!ハンモックを持ってきてもいいですか?

学校にそんなもの持ってこないで下さい

そこを何とか、アンモックの了解でお願いします


スマートフォンに麦茶を巻き付けた私はこう言った。

「これが水冷式スマートフォン」だと

私は熱中症を疑われた


因みにどちらかは実話だ

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