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背中をみてくれ

マブレンにて



「それで、ここに転がってる奴らはなんだ?」


届け場所であったマブレンは、至るところを砲撃され、半壊状態であった。


「多分だけど、報酬を渡す筈だった人」


襲撃され、なんとか反撃しようとしたが抵抗虚しく、数に圧倒され全滅したらしい。


死体が持っていた封筒には、共和国銀行の小切手らしき紙が、血染めの状態で入っていた。


「こんなもん使えねぇよ!」


どうする?金が貰えなきゃ、ここまで苦労した意味がない。


「おい小娘、何か情報はないのか。こいつらはこれで全部か?」


「……わからない、西に行くとは聞いてたけどそれ以外はなにも」


苛立ちを隠さなくなったコルトは、地面に転がる酒瓶を蹴り、死人へ向かって怒鳴った。


「そもそもこの状況は何なんだ?モングのクソ帝国主義者野郎共がこんな田舎を攻めて来やがるんだ!………シナモノ?」


そうだ、確かジュハーブの軍人が死ぬ直前、シナモノと口にしていた。


「おいその鞄、品物が入ってるのか?」


「え?な、なんのこと」


「とぼけるなよ、嘘が下手な奴はすぐ分かる」


ユメの鞄を引ったくり逆さま振って、中身を全てぶちまける。


「やめてよ、なにするの!」


「お前は信用出来ないからな、調べさせて貰うぞ」


コルトは手鏡から財布、ガラスが貼り付けられた薄型の箱などを調べる。


「これはなんだ?」


「ただのスマホだから返して」


「スマホ?そうか、何か知らんがタダのだったら中を見ても問題ないな」


コルトは箱を叩き割り、中身を確認するが怪しい物は入っていなかった。


「ほんと最低」


ユメは背を向けながら拳を握り、目を赤くした。


溢れる涙を堪えようと、裾で拭ったり押さえ付けるが、それでも止まってくれない。


どうしようもなく悲しかった。


「あークソ、悪かったよ」


流石に悪いと感じ、決まりの悪そうに謝るものの、泣き止みそうになかった。


コルトはため息を溢し、天を仰ぐ。


今の自分は、あの頑固な父親に似ていた。


よく喧嘩をしては、怒鳴り合いの喧嘩になっていた。


田舎者の頑固親父、それが親への総評だった。


「俺は昔、家出をしたことがある」


「………………」


ユメは涙を溢れさせながら、唐突に昔話を始めるコルトにどうとも言えない感情を向ける。


「家を飛び出して、食うために軍に入った俺を待ちかまえていたのは、果てしない湿地が広がる蒸し暑いジャングルだ」


大陸がまだ一つの国家であった時代、戦争が勃発し、同盟国支援の為に大規模な派兵が行われていた。


「俺は海兵隊に所属して、毎度最前線で戦ってた」


南のジャングルはとにかく川が伸びていた。


敵は川に沿って防衛線を築いていたので、上陸作戦が得意な海兵隊が先陣を切らされていた。


「波のない湖で浮かべても転覆しそうな粗末なボートで、敵の監視を潜り抜け、蚊に刺されながら機会を待ち、攻撃を仕掛けた」


見張りを締め殺し、敵陣に迫れば自動小銃で撃ち殺し、肉薄すれば銃床で殴って殺した。


「まるでスプラッター映画みたいに、現実味が無くて信じられないような光景ばかりだった」


「それである時、部隊が移動中に攻撃を受けた」


やったのは敵の魔法持ちで、増援を待つ間に仲間が霧に覆われて血煙になって消えてしまった。


「俺は仲間を殺した奴を捕まえて全員でリンチした後、川に沈めた。それで……帰りたくなった」


それから何年か経って戦争が終わり、帰国したコルトは軍人年金を使いながら大陸各地を放浪した。


すぐには帰る気にならなかったのだ。


「家に戻ったら、父親は何も言わずに俺を出迎えた。末期ガンだったんだ」


あれほど頑固で仲の悪かった父親は、もう何処にも居なかった。


学校の事、女の事、将来の事でいつも口出ししてたあの偏屈者が、小さくなっていた。


「いや、小さくじゃないな………」


「元から小さかったんだ。父親の背中は」


いつも面と向かって喧嘩をしていたからこそ、父親の背中が見えていなかった。


「俺は考えなかったんだ。父親が偏屈な男だから、こんな癪に障る言い方しか出来なかったことに」


家から出ていくコルトの背中を見る父親の背中は、とても小さかった筈だ。


「俺のことを嫌いになって、もう顔を見るのが嫌になっても構わない。いやそれも仕方のないことだ」


「だから背中を見ててくれ。俺は父親と似て、背中は正直なんだ」


たった今、本心を話した。


だから、ユメは今泣き止んでくれた。


「分かった」


そうポツリと呟いたユメは、コルトの背中を見ていた。


コルトがぶちまけた物を鞄へ入れる最中、先ほどは気にも留めなかった物が目に止まる。


「さらば、5人の勇者よ?」


その本は、いやその本だけが、圧倒的な異質さを放っていた。


「早く移動しろ急げ!」


建物の外から、声が飛び兵士達が駆けていく。


「装甲部隊を図書館前へ回せ!弾薬が尽きるまでが勝負だぞ」





マブレン公共図書館にて



迫撃砲から発射された榴弾が、屋根に命中して天井が崩落する。


「正面玄関から入ってくるぞ!」


戦車がバリケードを無理に乗り越え、突破口を作ろうとするが、火炎瓶の集中攻撃を浴び堪らず後退した。


「キャノンを放て!」


魔術師は高圧魔力砲を戦車へ向けて照射し、装甲が花びらのように裂けて中の乗員を殺傷した。


通路を塞ぐ形で撃破された戦車は、攻撃側の侵入を妨げる形となり、攻めあぐねたモンゲ軍は一時撤退した。


民兵達は歓喜の声を上げ、勝利に酔いしれた。


「やったなお前ら、あと数日持ちこたえれば俺達の勝ちだ!」


突如侵攻してきた軍隊は街を包囲し、逃げ道をすべて断つと、一方的な要求をしてきた。


「奴らめ、何が偽りを破壊するだ。子供用の本まで焼きやがって」


連中は書店に置かれている本、新聞、ポスターに至る街中の表現物を焼いた。


挙げ句、モニュメントや創設者の石像まで破壊した。


幸いなことに、この混乱の大地で生き延びて行く為の備えがあった。


「古いライフルに古い装備ばかりだが、あって良かった。血税食らいの市民軍だと馬鹿にするもんじゃなかったな」


「あぁ全くだよ、これなら役場の改築じゃなくて酒場に…………ありゃ誰だ?」


積み上げた組んだ家具の隙間から、人影が見えた。


「モンゲ軍の偵察か?」


「そうは見えない、観光客か何かだろう」


「どうする?」


「……今は人手が足りないからな。おい、そこのお前!」


呼び止められたコルトは、反射的に拳銃を抜き、声の方向へ向けた。


「待て!撃つな、そこは危険だからこっち来い」


顔を見合せ、右へ左へキョロキョロと周りを見渡し、他に行く場所もないと悟り、急ぎ足で図書館へ入ることになった。


「俺はブレントだ、よろしく」


「どうも、俺は名乗らんぞ」


「偏屈だなぁ、連れも苦労してるんじゃないか?」


手を引かれ、導かれるが如く図書館内を連れ回される。


「ここには9万冊以上の書籍が保管されている。地下には貴重な書物が4万、合計13万冊だ」


「はぁ、そいつは凄いな」


空返事のコルトに気付いてないのか、次に武器庫を見せられた。


「この図書館は元々城塞だったから、古いけど地下に武器を置く部屋があったんだ。今じゃ槍や剣の代わりに、高圧魔力砲が並んでるって訳さ」


ガラスをはめ込んだ鉄筒に、照準器と圧縮装置を組み込んだこの砲は、魔力を込めさえすればガラスが寿命で歪むまで撃ち続けられる。


腕の良い魔術師か魔法持ちなら、速射砲10門並みの価値を持つ。


今魔力を込めているのは、普段は工芸品を作ってる魔女や、魔灯の燃料入れを行っていた魔術師である。


「腹は減ってないか?スープがあるぞ」


最後に炊事場に案内され、小さな子供から婆さんが大鍋に集まって、芋と人参しか入っていないスープをかき混ぜ、大量にグツグツと煮ていた。


「とても良い塩加減だ、まぁ肉は入ってないが……」


「ネズミなら幾らでもいるけど」


「! あーその手があったか」


ユメの発言にハッとしたブレントは、気付かされたと言わんばかりに声を上げた。


「冗談でしょ?」


「病原菌が入ったらどうする、この馬鹿息子め」


ブレントの父親が頭を叩き、ささやかな笑いが起きた。


「防衛の協力に感謝する。マブレン市議長のフーバーです」


「いや、まだやると決めた訳じゃ」


「あーあーいいんです、最近は謙遜をする人が多くなった。奥ゆかしい人物というのは、ブリタニカ系の私と気が合う」


「面白いジョークだ」


紺茶色の山高帽を被り、チェック柄のベストを羽織ったフーバーは、政治家気取りの小金持ちといった感じだった。


「なんか胡散臭い………逃げようよ」


「俺もそうしたいのは山々なんだが、もう逃げ場は塞がれてる」


こうして半ば強引にコルトとユメの2人は、防衛に協力させられることとなった。




ジャルバー級強襲降下艦にて



「はいそうです将軍、はい、えぇ……あと3日もあれば はい?援軍ですか……いやしかし、分かりました………」


受話器を置いたバンプ大佐は、怒りに震えた顔をしていた。


「これで責任を取らされるのは私だ」


「援軍がそんなに悪いことなのですか?」


「そうかエリオット、お前はまだ補佐官になったばかりだから知らんか。トレンチコートの気味悪い奴らが来る」


「何者なんです?」


「分かるもんか、普通の奴らでないことは確かだ」


その数時間後、何機ものヘリが編隊を組みながら接近し、降下艦の後部デッキにラペリングで降りて来る。


「状況は?」


「市民軍が市街地に立て籠っています。弾薬欠乏、戦車2両を喪失」


「相手を舐めて掛かったツケね。貴女は戦列に加わりなさい」


「いいんですか?荒れますよ」


「荒らすのは得意分野でしょ、夜になってから行動なさい。あぁそれと」


歯茎に牙を生やした彼女は、トレンチコートの下にこの世界の技術体系にそぐわない武器を忍ばせ、大いなる大義を足枷に引きずって歩く。


「吸っちゃ駄目よ、ルーマ」

私の父親はタバコが好きなのですが、もう吸うのを止めたらどうだと私は言いました。

隣の半島で戦争が起きた時代に産まれた老いぼれなので、いい加減健康に悪いと。

父はコンビニの駐車場で、ボンネットに寄りかかりながらこう言った。

「継続は力なり」

こんなのでも、終戦から70年以上生きたのだから、医学というのは素晴らしいものだ。

しんみりした話になりましたね、因みにまだ生きてます。

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