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火傷の痕には何が残る?

「1匹仕留めた!」


「品物を持ってるか?」


「確認します」


「おい待て!ブービートラップがないか確にn」


ミルがそう言い掛けるも、部下の1人が仰向けに倒れている死体を裏返していた。


パキンッと音を立てて手榴弾の安全レバーが外れ、爆発した。


「侮れん敵だな」


ぐちゃぐちゃに混ざった肉片をかき分け、品物を見付けようとするが、それらしき物も破片も見当たらなかった。


「残りの2人を追跡する!各員損害に構わず進め」


戦列歩兵のように横一列になって陣を作り、包み込むように包囲を始めた。


国境を越えられてしまえば、我々もなす術がなくなる。


国境から先の地図も、そこへ進む権限もない。


今ここで仕留める。


「全体止まれ!」


兵士達の目線の先には、葉がガサガサと揺れ何かが動いている茂みがあった。


「両手を上げて出てこい!降参しろ!」


茂みから白いシーツが突き出て、ゆっくりとその持ち主が姿を現す。


遂に白旗を上げたか、そう思い掛けた。


ベッドシーツは大量の血液で染められ、血を食む4本角が連なった雌のフォークは、腹を空かせながら憤慨していた。


ここ最近続いた悪天候狩りが出来ず、食料難に陥っている所に縄張りを侵犯する者が現れた。


フォークは飢えと怒りで歯を剥き出しにし、ここにいる生命全てを食らい尽くそうとしていた。


そして運の悪いことに、フォークで最も狂暴と言われるのは雌であり、最も狂暴な時期は子育て中の時だ。


「うわははははははははははははははは」


「うわははははははは」


「うわは゛は゛は゛は゛は゛は゛は゛」


抑揚のない鳴き声が驚くほど森の中に響き、その声が10、100と増えてゆく。


死角から3本角の雄のフォークが兵士を串刺し、続いて雌のフォークが真正面から突進する。


「撃て!撃ち殺せ!撃ちまくれ!」


あらゆる銃火器が火を吹き、暗闇に業火を巻き起こす。


散弾がフォークの頭を吹き飛ばし、銃剣で前足を切り裂く。


兵士が串刺しにされたまま、木に擦り付けられて投げ飛ばされる。


腹に突き刺されれば致命傷にはなるが、直ぐには死なないので、この乱闘を苦しみながらくたばってゆく。


「この野郎放せ!」


雌のフォークは頭の角に獲物を突き刺したまま、他の仲間に盗られないよう岩陰へ運び、それに抵抗して手榴弾でフォークごと自爆する。


「この野郎くたばりやがれ!」


そいつは雌である。 


密集隊形でないことが仇となり、部隊は各個殲滅されて行き、擦り潰された。


その断末魔を後に逃走を続けるコルトは、ザマ見ろと呟いた。


「ニコライ…………」


「まだ言ってるのか小娘、ニコライの事は忘れろ」


「でも」


コルトはユメの胸ぐらを掴み、また怒鳴った。


「お前が疲れて休んでなきゃ、もっと楽に国境を越えられてたんだ!」


「20年だ、20年知り合った仲だぞ!」


ニコライの言おうとしていたこと、思っていることは全て察していた。


ニコライは良い奴だ、皮肉は言うが不満は滅多に口にしない男だ。


「会って1日も経ってない奴がほざくな!」


ユメはすっかり萎縮してしまい、それ以上は何も言わなかった。


こういう言い方はしなくなかった。


怒りってやつは、発散しないと後々燻って面倒になる。


だが子供に怒鳴るのは良くなかった。


怒鳴っている最中にそう思ったが、それをコントロール出来てれば、俺っていう人間はもっと苦労しなくて済んでる。


「ねぇ」


「クソなんだ!?」


振り返ったその瞬間、閃光が目に焼き付き、音速よりも速く銃弾が届いて炸裂した。


拳銃を抜き、光に向かって乱射すると、射線から逃れて木の裏に隠れる。


「しぶとい奴らだ」


再びライフルの射撃が襲い、身動きが取れなくなる。


ボルトアクション式の中距離狙撃銃を、腰だめで撃ちながらミルは徐々に接近していく。


「逃げられると思ったか!殺されないと思ったか?」


弾切れのライフルを捨て、トカレフに持ち替えて木の裏へ飛び込んだ。


「こども?」


ミルの背後から忍び寄ったコルトは、必中の距離で銃弾を放った。


撃鉄が銃弾の雷管を叩き、その爆発で生み出された高圧ガスがスライドを後退させ、薬莢を排出する筈だった。


スライドが薬莢を噛み排莢不良、俗に言うジャム(弾詰まり)を起こした。


「くそったれ」


コルトはミルに飛び掛かり、取っ組み合いになった。


拳の一撃が脳を揺らし、軍靴のつま先が脛を蹴り付ける。


暴力的かつ原始的に行われる格闘戦は、近代兵器による組織的殺戮ではなく、石や刃物によって行われる。


倒れたコルトへ飛び掛かり、コンバットナイフを眼前に突き立てるが、それを腕でガードしながらポケットナイフで腹を突き刺す。


しかし刃渡りの小さいポケットナイフでは、致命傷を与えることが出来ず、何度刺しても止まらなかった。


「クソ野郎めが!そのチンケなナイフで俺を殺してみやがれ!」


「あぁ試してやるよ!」


コルトは突き付けられたナイフを払いのけ、目玉を切り付けた。


「うおおおおおおお゛!!!」


半分に割れた目がこぼれ落ち、二人の取っ組み合いダンスで土にまみれて消えた。


ミルの強烈なアッパーが良いところに当たり、コルトは起き上がれなくなる。


その隙に、先ほど放棄した狙撃銃を拾い、再装填を行おうと弾薬入れに手を伸ばす。


「汝、個を護らんとするなら、偽りを以てして反旗の片鱗を」


列車のブレーキのような音が響き、ユメの手のひらから光を飲み込む光が放たれた。


山を貫通したビームは、その断面に虹色の火の粉を舞い散らせた。


かすりすらもしないのに、ミルの片腕を溶解させて風圧で身体が飛んで行った。


「なんだ?何が起こってやがる!?」


太陽を至近距離で直視したかのように視界が焼き付き、見えるようになった時には全てが燃えていた。


「なでだ………なべこうなだ?シナモノ、シナモノを」


右頬を焼き付くされ、目に続いて舌をも半分失ったミルは、苦しみと事の顛末を嘆いていた。


「産まれた国を呪うんだな」


心臓へ1発撃ち込み、ユメの魔法で死ぬ前に止めを刺した。




マブレンまで10kmの場所にて



街に通じる橋が落ちたことで、荷車が通れなくなり、キャラバンはその直前で立ち往生していた。


「お客さんどちらからいらしてんで?」


方言混じりの舞語を話す商人は、人の良さそうな顔でコルトを見る。


「北の大地から」


「それ、昔の映画タイトルだろ。茶化さないでくれよ」


テントの前、小さな椅子に腰掛ける商人とコルトは、水を買ったついでに雑談をしていた。


「詮索は身を滅ぼす」


「フリッツ・ローバ主演 夕暮れを背に向けての台詞」


「驚いた、そこまで知ってるとは」


「映画は人生を豊かにしてくれた。日雇いの仕事をやった後に、ノースミッチェルの劇場で白黒映画を観てたよ」


映画、この大陸が荒れ果てる前まではどこの街にでもあった。


レギオン内戦が起きた頃は、映画ブームでどんな辺境の田舎町にでも映画館があった。


カラーテレビが当たり前の時代だったが、好き好んで昔の白黒映画を観てる物好きも居た。


懐古主義的考えに囚われた俺達物好きは、古き良きも新しきも滅んだ世界で、ノスタルジーに浸ろうとしていた。


「懐かしい話だ、俺はメレゲンの方に住んでた。窪地になる前まではいい場所だったよ。それじゃ、またどこかでな」


ここで長話をするのもいいが、今日中にマブレンに着きたかった。


朽ちた風車が回らずに風を受け、ガタガタと揺れる。


草を食べてのんびりと過ごす馬から離れて、2頭の獣が他の荷車より一際大きな荷車を引っ張っていた。


まるで今の俺達の状況だった。


「行くぞ小娘」


「……うん」


反抗してくるのも困るが、素直過ぎるのもやりにくい。


少し歩くと、キャラバンの商人が言ってた通り、橋が落ちていた。


「変だな」


「変って何が?」


橋は老朽化で錆び落ちた訳でもなく、流されてた訳でもなく、赤い鉄鋼がねじ切れていた。


「金属の上下から圧力が掛かってる。こりゃ軍隊のやり方だ」


幸いなことに川の水位は下がっていた。


「足を濡らすだけで済みそうだ」


真ん中から真っ二つに折れ、Vの形になった橋を渡る。


「ほら手を貸せ」


橋を渡りきった時、コルトは何か言いたげな顔をしていたが、何も言わなかった。


多分、もうすぐ何もかも済むからだ。


コルトは私を恨みたい筈なのに、そうしてくれなかった。


怒りを爆発させはしたが、責め立てることはしてくれなかった。


「コルト……わたし」


言い掛けた直後、再び風が吹き、ユメの顔に紙が貼り付いた。


「うぇっぷ!ペッ!ペッ!なにこれ?」


「街宣脅威書ってやつだな」


「なにそれ?」


「その週に大陸で起きた出来事をまとめて、政治に利用するのさ」


要は脅威論を作り、自分達の政治主張に合うよう読者に曲解させるのだ。


「例えばこうだ。近年、クロック系人の魔法使いが増えている。それと同時に大陸各地に伝染病が蔓延している。これはクロック人の陰謀であり~」


「どこの世界でもあるんだね、そういうの」


新聞紙のようなざらつきのある紙には、デカデカとしたタイトルが書かれている。


「夜に忍び寄る4つ目の怪物 馬鹿馬鹿しいな」


プロペラを付けた籠から、怪物達が飛び降りてくると、見えない槍で2回突かれる。


これは生存者の証言であり、真実に基づいた話だ。


この真実から言えることは、我々は確実に秘密結社歯車に~


「やっぱり下らない内容だな」




ジャルバー級強襲降下艦にて



「第1大隊はゲージにて、町の外へ垂直降下を行う!」


「第2第3はグライダーで滑空降下!」


「諸君らは誇り高き、モンゲンロート帝国軍である。本作戦は偽りを破壊する為の第一歩である」


ゲージに乗る兵士達へ、指揮官はそう言い聞かせ、高らかに宣言する。


「我々は戦争をするのではない。これは浄化である!」


モンゲンロート帝国軍 第44戦闘団はこの日、帝国支配地域から大きく離れた都市国家マブレンへ進出していた。


「本を燃やすだけにこんな大人数連れて行くなんて、上は一体何を考えてるんだろうか?」


「いいじゃないか、焚き火するだけで勲章が貰えるんだから」


「内戦の前からある書物まで燃やすんだぞ、焚書ってやつだよこれは」


「金を貰えるならお前の話に付き合ってやるよ」


「現金な奴だな、人生損してるぞ」


地上まで伸びたケーブルに沿ってゲージが落下し、接地する直前にブレーキが掛かり、火花を散らしながら着地した。


自動小銃で武装し、ODカラーの戦闘服に身を包んだ彼らは、向かい風を受けながら攻略の下準備に取り掛かる。


「工兵隊は橋を爆破せよ、砲兵は交渉が決裂した場合に備え待機、装甲部隊と共に我々歩兵が先陣を切る!」


それは住人にとって、悪夢に似た現実の始まりであった。

「佐世保もあるし」と言ったら「流石に食糧難」と空耳されました。

言語の無限の可能性を感じました。

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