手段の自由思想
「精神を集中させろ、爪の先だ」
金槌で爪を割り、けたましい金切り声が部屋を反響する。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ん゛ぐ!」
口に布を詰め、古いダクトテープで口を塞いだ。
「殺すのは得意だ、だが殺さず痛め付けるのは専門じゃない」
道具箱からペンチを取り出し、割れた爪の半分を剥いだ。
モゴモゴと悲鳴を上げて、目を真っ赤にして止めてくれと訴え掛ける。
「俺の所属は海兵隊だった、国家転覆と拷問が得意な諜報機関のNSIAじゃない」
塩胡椒をサッと振り掛け、ヂクヂクとした痛みを与える。
「俺が学生の頃は、赤(共産主義者)狩りの為なら何でも許された」
そう、肌色の違う人間をどれだけぶん殴っても、取調室の中であらゆる手を使って自白させてもさせても構わない。
「皆一つになってアカを見付けて撃滅する。そういう感じの気分だ、言ってること分かるか?」
大義が生まれれば、何しても構わない気分になれる。
「連れ去った女は何処だ?」
「地獄に落ちろ!」
テープを剥がして喋らせてみるが、まだ威勢が良い。
釣り糸に引っ掛かった暴れる魚は、まだ疲れてない。
再び布を突っ込み、テープを張り付けた。
「3つだ、次答えないなら3箇所潰す」
暖炉で炙って寝かして置いたアルミを足に流し、皮膚を焼き固めた。
「ん?なんだ話す気になったか、だがあと2箇所残ってるぞ」
もう片足にアルミを掛け流し、皮膚に剥がれ落ちない傷跡を残した。
頬にナイフを突き刺して、筆でなぞるように浅く鋭利にダクトテープを切り裂く。
「ユメは何処に行った?」
「ここからひがし………30km!」
コルトはユメの居場所を地図に書き記させると、布の代わりにガラスのコップを押し込んだ。
「喜べ最後の1箇所だ」
残りのアルミをガラスへ流し込むと、どんな身分の奴であっても必死に生きようとするただの男になる。
目を支える筋肉が引きちぎれんばかりに隣にいるコルトを凝視し、必ず殺してやると叫んでいる。
コルトはドアの前で立ち止まり、銃を向けコップを撃ち抜いた。
「あ゛あ゛あ゛ゴ ブぁぁぁーーーーわあ゛」
アルミが舌を焦がして喉に穴を空け、そこから空気がスーと音を立てて漏れだした。
こいつは自分の妻が死んだ時辺りに喋るべきだった。
ユメが連れ去られた後、ロビン王国内の有力者をしらみ潰しに当たり、次から次へと尋問して5人目でようやく確信にたどり着いた。
関係のないのを2人殺した。
「終りました?」
「しぶとい奴だった」
メーリャは家から漂う死臭に思わず顔を背けた。
鉄棒を舐めた時みたいな、錆びた鉄の味が空気を通して感じる。
「ユメは何処に?」
「後で教える、今必要なのは大量の武器だ」
HD社(倒産済み)の家庭の武器庫にて
高々と掲げられた看板には、亀のマスコットキャラクターが描かれた絵が写っていた。
吹き出しに「あなたの枕元に抑止力を」のキャッチコピーが書き記されている。
ベニヤ板が打ち付けられた店の扉をノックすると、無愛想な声の垂れ目男が出てきた。
「金は?」
拷問先で略奪したドロル硬貨と腕時計を見せると、直ぐに扉を開けてくれた。
武器屋の男は、コルトから発せられる殺気と軽装備な様子を見て、稼ぎ時だと判断した。
「これはM500ショットガン、ポンプアクションで信頼性が高い」
散弾銃をカウンターに置き、次の商品を見せた。
「ブリタニカ製L1A1、7.62mm弾を20発装填出来る。スコープ付きで400ドロルで売る」
ライフルの槓桿を引くと、僅かに引っ掛かりの感触が手に伝わる。
「これはFAL用のスコープマウントだ、干渉してるぞ」
L1A1とFALは、名前こそ違えどライセンス生産で生まれた武器だ。
ブリタニカの連中は、ヤードポンド法という悪魔が作り出した寸法を使っている。
レギオンも昔は使っていたが、法整備によってセンチメートル法に変更されている。
変更時、保守派からの反発をかなり受けたらしいが。
「調整してもいいが時間がない、そこのM16A1を取ってくれ」
フルサイズの7.62mm弾を使うライフルと違い、M16は小口径の5.56mm弾を使うことで携行性を高め、兵士の継戦能力を上げている。
低反動で連射速度が高く、優れた命中精度を有している。
「運がいいぞ、これだけ状態の良いM16は珍しい」
内戦の混乱に乗じて、州兵の倉庫から何丁か持ち出せたと少し自慢気に男は話す。
「見張りが居ただろう?」
「ビール缶さえあれば、誰でも協力者になる時代もあった。それであとはどうする?」
折角だからもっと買ってけという表情に応え、パワフルなのをと所望した。
木箱からパワフルな武器を担ぎ取り出し、ハムの原木でも置くみたいにカウンターに並べ置いた。
「MG42だ、毎分1500発の発射速度で撃ちまくれる」
海の向こう側の大陸、ガルマニア帝国が造った汎用機関銃だ。
「こいつは豚を殺す為に造られた武器だ、あんたの敵はどんな豚だ?」
「王国近衛騎兵連隊」
ん?聞き間違えたか?笑えない冗談はよせと、垂れ目の店主が言う前に金を出した。
「ショットガンとM16を貰おう、あと予備の拳銃と防弾ベストも」
パイソンの357マグナムリボルバーと、腰の後ろに着けるタイプのホルスターを差し出された。
「これの値段は?」
「サービスだ、また利用してくれ」
「こんな国には二度と来ない、行くぞメーリャ」
買い物を済ませたコルトはメーリャを呼ぶが、彼女は埃被っているセール品のカートをじっと見詰めていた。
「すみませんこれって幾らします?」
指先にある物は古い杖だった。
「好きなの持ってけ、ほぼゴミみたいなもんだ」
持てるだけの武器と弾薬を抱え、ユメの奪還の第2歩を歩んだ。
何処かにて
酷く寒い、だけども風は吹いていない。
手錠と首輪を掛けられた自分が、いつでも誰かの餌食に成り得る可能性を考えた。
コンクリートで覆われたカビ臭いこの場所は、とにかくジメジメしてて閉塞的な空間だった。
心臓の鼓動を気にしなければ、目の前の鉄扉が軋む音が聴こえる。
「正直に話してくれますか?」
目の前のカウンセラーが、自分の目を真っ直ぐ見る。
「夢さん、何があったんですか?」
「知ってなんか出来んの?」
もっと取り繕って話すつもりだったのに、思ったことがスイカの種を吐き出すみたいに出る。
生意気なクソガキって、多分自分みたいなのを言うんだと思った。
「元気出せって夢、あたしらも何か手伝うからさ」
友達に恵まれなかった訳じゃない、むしろ充実してた。
「うん………ありがとう」
周りに居る友達は、出来る限りの配慮を込めた言葉を掛けてくれた。
でも改善なんかされない、優しくて一緒にいると楽しい友達は、私の問題に対して無力だ。
「ほらやっぱり私が言った通りになった!不合格!不合格!不合格!」
猿のように踊って叫ぶ母親は、罵詈雑言を口にしながら私が正しいと狂気に満ちた顔で笑う。
「可愛い子沢山居ますよ、可愛い子居ますよ!」
表情は明るいが目は必死な風俗の客引きが、サラリーマンや若い人を手当たり次第に捕まえている。
60分1万5千円、どれだけお店に天引きされるか知らないが、自分がこうして突っ立っている時間よりも、不純で意味のある60分だと思う。
「まもなく1番乗り場に列車が参ります」
持っている100円硬貨3枚を全てを入れ、一番近い駅への切符を買った。
釣りの60円を返却口に残したまま、駅の改札機を通った。
後はただ座って時を待つのみ。
今頃警察が私を探しているのだろうか?
階段から落ちた程度では死なないのだろうか?
私が消えたてあいつが生き延びたら?
座っていたベンチから腰が浮き、吸い込まれるかのように黄色い線の外側へ進んだ。
「理不尽?いや理不尽だ」
風がホームへ吹き込み、中に乗っている人達がはっきり見えた。
また吸い込まれるような感覚が、違和感に吸い込まれる気分に陥る。
「こんな逸材どこで見つけてきた?」
鉄扉はいつの間にか開いていて、目の前には金と白の糸で編んだ服を着て、顔を仮面で半分隠した男がこちらを舐め回すように眺めている。
その変態的な目付きと、ムカデの足の如く動く指先が、たまらなく気持ち悪かった。
「クリフォード様、間も無く儀式を執り行うので」
そう少女が言い掛けた直後、平手打ちを食らわせ、胸ぐらを掴んで引っ張り上げた。
「今はクリフォード将軍様だ、将軍を付けろジュム」
怯える表情の少女は、申し訳ございませんと空中で土下座でもしそうなぐらいの勢いで謝っていた。
「ならスカートを捲れ」
恐怖が絶望に変わる瞬間を初めて見た。
ジュムという少女は、スカートの端を両手で掴み見せつけるように持ち上げた。
クリフォードは思いっきり股ぐらを蹴り上げ、少女は悶絶した。
いや、この痛がり方は変だ。
確かに女でも股を蹴られたら痛いが、それにしたってオーバーなリアクションだった。
数秒間の思考があった後、全てを察した。
この少女のような格好をした子供は男だ。
「次間違えたら竿を切ってやるからな!」
「はい申し訳ございません将軍様………」
股間を押さえる少年は、内股になって部屋を後にした。
二人きりになってしまった地下室で、肩に手を這わせ肌着を上から脱がされる。
「いやっ」
この拒絶が生理的な部分から来たのか、背中の火傷を見られたくないからなのか分からないが、とにかくこの男から逃げ出したかった。
「あぁ……孤独な気高さの証だ」
クリフォードは赤い皮膚を舐め上げ、白い綺麗な手で肩を掴んだ。
「貴方の目的はなんなの?人を殺してまで果たす理由って」
軍隊を引き連れ、あれだけやるのだから、よっぽど何か大それた事を仕出かそうとしているのではないかと思い、ユメは問い詰めた。
「既に我が国は強権を敷かずとも、国を治めることが可能だ。もう王という君主を立てる必要はない、腐敗した王族を追放し、民を優先した政を実現する」
「その……貴方も王族に見えるんですけど」
「という建前の元で我々は動いている。私は違う」
仮面の縁を掴み、ブチブチと音を立てて仮面を剥がす。
仮面の裏は癒着した皮膚や筋が、腐ったスパゲッティのように伸び散らかしている。
「うわぁ……」
「いいんだ、誰だってそんな顔をする。私がこの国の王になったら、皆同じ顔にしてやる」
電動ノコギリに似た音が頭の上で響く。
心臓の鼓動は高まり、脳をハンマーで小突くみたいな感覚に襲われる。
「ジュムが弾頭になる予定が、塊が来てくれてるのが嬉しいよ」
「弾頭?塊?何の話?」
「将軍様!」
歯軋りしながら息を切らすジュムの方を振り向き、睾丸を優しく握って問い掛ける。
「何の真似だ、言ってみろ」
「敵襲です。か、数は分かりません!」
「何故!攻撃されまで誰も気付いていない!何が精鋭だ私に嘘をつきやがって!全員両目が見えているんだろちゃんとだ!」
何時もの癇癪を起こし、真っ赤に熟れた顔でジュムに八つ当たりをする。
「誰もサイロの中に入れるな!誰もだぞ!誰か入れ入らせてみろ!恥辱を味あわせてやる!」
人差し指を鼻っ面に指し、これでもかと忠告するがジェムは泣きじゃくりながら叫んだ。
「もう入って来てます!」
映画とかで拷問のシーンあると、心臓がキュってなりますよね