表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/28

収奪の砂漠

「結構いますね、誰ですか?」


こちらを囲むようにして迫る野盗達が、稜線から頭だけを出して我々の動向を観察していた。


「野盗だろう、大人しくしとこうや」


「積み荷を渡して引き返してくれる連中には見えん、獣に武器は積んでないのか?」


「何年も使ってないライフルが一丁」


荷台の底板を外し、布にくるまっていた古風なライフルを取り出した。


東亜国製のタイプ38ライフルみたいだが、ボルトがかなり固い。


肉眼では豆粒のような敵へ狙いを付ける。


目測で600mの距離、スコープすらないのでは当てようにも当てられない。


「撃てる?」


「いや、まだ引き付ける」


ユメはコルトの横顔と同時にライフルを見つめた。


漢字が彫られたそのライフルは、久々に見る故郷の文字だった。


東亜国製造 民生三八式小銃


この世界にも、米を主食に畳の上で寝る人々がいるのだろうか?


「あそこに居る奴見えるか?動きから察するにリーダーだ」


あの無用心に近付く様子だと、こちらは寝てると思い込んでるらしい。


引き金に指を掛け、暗闇でも敵の輪郭が分かる距離まで引き付けた。


銃身の先から出た虹色の発砲煙が、目に焼き付く輝きと共に大爆発を起こした。


「あっ!?なんだこの威力は」


1人を狙った筈が、先頭を横並びに歩いていた6人も吹き飛ばした。


野賊達と一緒にコルト達も驚いた。


鳩がマグナム弾食らったみたいな顔をして、呆気に取られた。


まばらに戦闘が始まり、敵に向かって銃弾や魔法を送ったり送り込まれた。


「くそ、ボルトが固い」


弾の規格が合ってないのか、排莢がスムーズに行かず、途中で詰まって動かなくなる。


足で銃のボルトを押して薬莢を強制排出して、次弾を薬室に送り込んだ。


「信条よ敵を撃ち負かせ!」


火炎を曲射させて、火の粉を降らせたメーリャは、その一発で足元をふらつかせた。


自分に才能などないと実感する時は多々ある。


今なんかがそうだ。


息切れを起こして、周囲が自分に構わず戦っているこの状況は、上手く言えない苦痛を感じる。


私が惨めになる理由があるとするなら、まだ諦め切れていないということだ。


まだ魔法使いになるという目標を諦められていない。


「いや違う、私は学校に居たかった訳じゃない」


ただの田舎娘ではなく、それ以外の何者かになりたかったのだ。


戦車の残骸に隠れるユメへ歩みよると、自分の杖を握らせた。


「やり方は教えるから、連続して射てるのお願い」


「連続?」


メーリャに杖を構えさせられた瞬間、歌でも唄うかのように、自然と言葉が溢れて来る。


「個の執念よ駆動を果たせ」


視界が青に染まり、蚊みたくチョロチョロと動く黒い点があちこちに映った。


「黒を狙って」


重く荒々しい重音と重なりながら火花が散り、砂山が抉れ消し飛ぶ。


「なんだあの武器は!?」


我が優勢だった筈の火力が、たった一人の小娘が放つ魔法によって逆転させられている。


「引け!逃げろ!」


武器を放り出して背中を見せる野賊達は、砂の大地を走り逃げる。


乗って来た獣は魔弾に怯えて何処かへ行ってしまい、野賊は機動力を失った。


「キャンプまで戻れ!」


真っ先に逃げた奴の頭が破裂し、膝から崩れ落ちて倒れた。


突然のことに呆然と立ち尽くし、死んだ仲間の倒れた先を見上げた。


「あれは……」


月を背後に軍馬に跨がるその集団は、この国で最も有名な連中だった。


「我ら第一師団所属の王国近衛騎兵連隊である!」


突如姿を現した騎兵集団は、いつの間にか野盗を包囲し、いつでも擦り潰せる状態だった。


どんなに学がなくて追い詰められていたとしても、

この状況で戦うのは自殺するようなものだと野盗も理解し、大人しく投降した。


「そこに隠れてる奴らも出てこい!」


こうして、野盗共々コルト達は軍に拘束された。




古城跡地 現ロビン王国軍駐屯地にて



「貴様は何処から来た?」


両手足を縛られたコルトは、石壁に空く小さな隙間をじっと見詰めていた。


ランタンの明かりで胸元が照らされ、星一つに横線が入った階級章が見えた。


王国軍の階級章は見たことがないが、二等兵には見えない。


推測するに階級は少佐辺りで情報将校特有の雰囲気を醸し出していた。


「こっちを見ろ、牢にぶちこむぞ!」


机を叩いて威圧するそいつは、こちらが何者かを探りながら計算尽くしの脅しを吹っ掛けてきている。


「ただの浮浪者だ」


ビンタを食らったコルトは、顔をしかめて欠伸をして見せた。


「なぁそろそろ寝ていいか?長旅で疲れてるんだよ」


コイツは口を割らないタイプの奴だ、別の切り口で切り込む必要がある。


「………まあいい、ならお前の連れに話を聞くだけだ」


「ローブ着てる方は殺していいぞ」


「なに言ってやがる……」


おちょくってるのかと思ったが、本気でそう言ってるらしく、どうでも良さげな表情を浮かべている。


乾いた銃声が外から響き、複数の銃から一斉に放たれたような音が耳に届く。


「野盗を処刑したか、ちゃんと自分で穴を掘らせたのか?」


「それが必要なのは死体を隠す時だけだ、我々には特権がある」


「じゃあその特権で俺を解放してくれ、暑いのは嫌いなんだよ」


口を割らないどころか、仲間の心配をする素振りすらしないこの男から、何か引き出せるとは思えない。


腕時計に目をやると、かれこれ3時間は経過している。


明確な事は何も答えない。


はぐらかして冗談を言った後に、皮肉を込めた回答をして煙に巻く。


「いいだろう、なら外に出してやる」


両脇を抱えられて外へ連れ出されたコルトは、部屋から壁の外へと連れ出される。


百を越える軍馬に運搬用の獣、野砲や戦車が古城内に密集して並んでいた。


随分ピリピリしているように見える。


合戦前のような空気が、砂漠の冷たい夜を暖めるかのようだ。


当事者でなければ不快な熱狂だ。


これからこいつらは、何かをしようとしてるのだけは間違いない。


「よそ見をするな歩け!」


「分かった分かったよ」


後ろでライフルを持って偉そうに指図する兵士に、悪態をつくフリをしながら、周囲を覗き見していると我々が乗って来た獣が目に入る。


何か嫌な予感がした。


「門を開けろ!」


城壁上の見張りに将校の男は叫ぶ。


「分かりました少佐!……ホルスターの留め具が外れてますよ!」


「外れてるんじゃない!壊れてるんだ!いいから門を開けろ!」


少佐はホルスターも買えないぐらい安月給なのか?と聴こえぬよう愚痴を溢しながら門を開ける。


そうして1kmほど歩かされ、銃を頭に突きつけられた。


「ここなら貴様が腐っても臭いがこない」


「その為だけにここまで歩いたってのか?馬鹿だなお前ら」


「黙って跪け!」


額に銃口を押し付け、最後の警告だと詰め寄った。


将校の方へ顔を向けながら、笑って見せた。


「何がおかしい、自分の銃で死にたいのか!」


コルトから押収した拳銃を将校が突き付けた瞬間、剃刀の刃を手の甲に突き刺し、ホルスターから拳銃を奪ってライフルを持った兵士を撃ち殺した。


「クソ貴様ぁ!」


「撃ってみろ、撃てるもんならな」


将校が引き金を引くが弾は出なかった。


「ガバメントはシングルアクションだ、撃鉄が落ちてなきゃ弾は出ない」


「………………」


「取り敢えずスライドを引け、オートマチックは大体それで動く」


最後に知識を教え、頭を撃ち抜き将校を殺した。


自分の拳銃を回収し、ユメを取り戻しに古城へ戻ろうとしたその時、城から2頭の翼竜が飛び立った。


コルトは追い付ける筈もないのに走りだした。


直感的に判断したが、あの翼竜の背中の積み荷は間違いなくユメだ。


低空を緩やかに飛んで風の流れを確めた後、目視では補足出来ない高度まで上昇を始める。


「クソ!」


明かに追い付けない速さで飛ばれ、もう打つ手なしかと思った。


翼竜から人が落ちて砂漠に土埃を上げるまでは。


「落ちたのはメーリャか?」


突然の出来事に騎手は慌てて旋回するが、ピクリとも動かない様子を空から見て死んでると思ったのか、地平線の彼方へと消えて行った。





ロビン王国領 旧電波塔施設にて



「こちらアーヴィング1、本部応答を」


電波塔に繋いだ無線に向かって語り掛け、通信が繋がることを期待するが、案の定通信は繋がる素振りを見せなかった。


「やっぱり繋がらない、天候が悪いのかな?」


「こんな場所まで登っといてそれかよ」


「人生色々だよ、むしろ上手く行かない方が多い」


背嚢からブラッドソーセージを取り出し、小さな口を名一杯大きく開け、鉄と塩の味を舌と喉奥で感じた。


鼻から抜ける芳醇な血潮の香りが、脳を炸裂させるほど強烈で、印象深い匂いが忘れられない。


「昂る味だわぁ」


「私にもくれ」


ルーマはソーセージを投げ渡し、ジャルバーは肉を一目回し見て齧った。


「おえ゛まっず!?」


その嫌悪感は、処刑台の上で低俗な民衆に強姦された時のようなそんな記憶が思い浮かぶ。


「そんなに不味かった………何で泣いてんの?」


「う、うるさい!女王の私が愚民の前で涙を流すことはない」


分かってはいたが、恐ろしく辛かった。


あの光の影響で、記憶の何処かにある筈の負の感情がすっぽり抜けていた。


高潔なる血が穢れにまみれるおぞましい光景も、王族やそれに仕えていた使用人の首が跳ねられる光景も、覚えているが心は空っぽだ。


自分が受けた暴力も、辱しめも、すべて自分の身に起きた悲劇と感じられず、傍観者として記憶に残っている。


「忘れないのに、忘れられないのに………」


私を形作っていた過去が消え、再構築された存在となった私は、私ではなくなっている。


その事実に怯え涙した。


「こちらアデリーナ、応答して頂戴」


「おっ繋がった」


お仕事モードに気分を切り替えつつも、ニコニコしながら上司と話すルーマを見てジャルバーは目元の水滴を拭った。


「そっちに回収チームを送りましょうか?」


「マブレンで遭遇した奴らの追跡が最優先です」


「それは貴女の判断?」


「私の独断です」


ふぅん、と鼻を鳴らすアデリーナは、貴女がそう言うならと追跡の続行を認めた。


「それと補給をお願いします。5.56mm弾を300発、M67手榴弾とフラッシュバンを3個ずつに5万グース分の通貨を」


「他に必要な物は?」


「現地協力者を雇いました、初心者の王女様にオススメの一品を」


「なにその言い回し、まさか本当に王族を連れてきたんじゃないでしょうね?」


膝に頬を付けて座るジャルバーを横目で眺め、広角を上げてにやけた。


「その亡霊です。もう行くから切りますね、アーヴィング1-1アウト」

イージス艦の横腹って凄く欲情出来る膨らみ方してるんですよね。

日本艦で初めて弾道ミサイル迎撃に成功したけど、褒め称えよとは言わずに横腹を膨らませて凄いでしょってさりげなく主張してる感じのこんごう型が一番好きです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ