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高度な平和

ロビン王国 武装中立都市アムインガルにて



ロビン王国内に存在するここアムインガルは、とても奇妙な生まれたちをしている。


ロビン王国建国時、領土内の都市に唯一自治権を求めた都市があった。


絶対君主制に反旗を上げる彼らは、王様という絶対的権力を嫌い、徹底抗戦の構えを見せた。


王国側もそういう存在は目障りに思ってはいたが、建国して間も無い状態では、街一つ落とすのにも苦労がいる。


都市側も、絶対君主制に舵を切った王国の判断に一定の理解を示していた。


たった数年にして一国が百に分裂し、民族同士で戦争を繰り広げる世に置いて、権力を集権するという判断が必ずしも間違っているとは限らない。


だが、有能な独裁者が晩年になって気を病んでとち狂う例は、珍しい話ではない。


都市側はその事を憂いていた。


話し合いとテーブル下の蹴り合いの結果、国の中に国が誕生した。


武器を持ったまま睨み合うことで平和を維持する武装中立都市、それがアムインガルだった。


そんな都市でユメとコルトは、情報を求めてさ迷っていた。


「それでこいつの生まれ故郷を探してるんだ、西の方にあるのは分かるんだが」


「西の方?悪いがそれだけじゃ情報が足りんな」


思えば偉くあやふやな情報だけで西へ進んでいた。


仮にしらみ潰しに当たるとしても、両手で数えきれないほど国は乱立しているし、情勢は安定していない。


この大陸にあるのか、それとも海の向こうまで行くのかさえわからない。


だが、ユメの能力は凄まじい破壊力を有している。


魔法技術が発展している国や、そういった能力を必要としている組織の連中が依頼主かもしれない。


そこに絞ってみれば、手掛かりの欠片ぐらいは見つけられる可能がある。


「今は考えても埒が明かんな。おいユメ、何か好きなものを買ってやるよ」


「え?いいの」


「言ったろ、ベビー服を買ってやるって」


「動き易くて可愛い服じゃなかったっけ?」


2人は賑やかではないが、川のせせらぎのように動く街を歩く。


普段は賑わっているらしいが、今日は物資の搬入が少なく人が居ない為か、いつもは飛ぶように売れるという露天の商品達は暇そうに日向ぼっこしていた。


「そこのお二方、何か飲まれませんか」


店主が歩いていたユメとコルトを招いた。


「どうする?」


「断る理由もないよ、えっとそれじゃあ……オススメ下さい」


オススメとして出されたのは、牛乳と蜂蜜を混ぜた飲み物でコルトの味覚は甘過ぎるという評価を押した。


「あーこんなに甘いの飲んだの久し振り過ぎてヤバい」


保存食を煮たシチューばかり食べていたユメにとって、この甘みは脳へダイレクトに届き、気付けばもう一杯と口にしていた。


「えらく人が少ないな」


「どうにも西で嵐があったみたいで、商人と一緒に馬車もそっちに流れていったんですよ」


天災や戦争が起きた場所に出向き、物を高値で売り付けるのは、古今東西見られる光景だがこうも節操がないと呆れてしまうものだ。


「今日は商売繁昌とは行きませんからね、せめて場所代ぐらい稼いでおかないと」


「ごちそうさん」

「美味しかった」


「またどうぞ」


喧騒と混沌が渦巻くこの世界で、こんな世界があったのだと、ユメは安心していた。


この世界に来る前までは、本気の殴り合いなんて見たことがなかった。


暴力と接する機会なんて、せいぜいクラスメイト同士の些細な喧嘩程度だったのが、ここでは生きる手段として日常的に用いられていた。


暴力によって被る苦痛は昔、身体に深く刻み込まれていたので分かっていたつもりだったが、そんなものとは比べものにならないほど強烈だった。


そして私も暴力という手段を使っている。


この能力は一体何のためにあるのだろうか?


誰がこんな力を授けたのだというんだろうか?


足元で動く人形を爪先で突っつきながら……えっ?なにこれ気持ちワル!


目が左右非対称で頭と身体のバランスが悪い人形が、足元で踊っていた。


自分の重心を忘れて地面に頭突きをしたり、両手で逆立ちしたりする出来の悪い人形だった。


「あーちょっと待ってぇ!」


ローブをなびかせ走る彼女は、足をもつれさせベッドにダイブするかのように身体を石の床に叩き付けた。


「こんなお約束みたいな転び方、イマドキしないでしょ」


「イマドキの転び方がどうかは知らんが、中々いい転びっぷりだった」


この格好から察するに、魔法使い見習いのようだ。


ドジで間抜けなか弱い女に見えるが、魔法という力を保持しているだけでも厄介だ。


敵の魔法持ちに仲間が大勢殺されたのを、今でも覚えてる。


強烈な光とケミカルな臭いが、湿ったジャングルの腐った水に溶け込んで黄銅色になる。


「すみません~この子言うこと聞いてくれなくてぇ」


ふにゃふにゃした喋り方がまあ何ともムカつくが、戦地で戦った連中よりは簡単に殺せそうだ。


「もしかして手品師?」


「えーこの格好見て分からないんですかぁ!?」


トホホと肩を落としながら人形を拾うドジな魔法使いは、自信無さげにこちらへ顔を向けた。


「わたし、魔法使いのメーリャと言います」


「はぁ、これは丁寧にどうも」


まるで濡れた子犬のようにくたびれた格好の彼女を見るに、相当あっちこっち歩き回ったのだろう。


底の厚いブーツがサンダル並みに柔らかくなるまで擦り切れ、ローブは石畳の跡が付いていた。


「随分な格好じゃないか」


「え?あっこれはその見習いになった頃から使ってる物で……」


「大事な物だけど、そろそろ新しいのが欲しい。けど金がないから新調できない」


「そうです!よくご存知で」


「いやそのぐらいわかるでしょ」


空中船が3人の上を通り、日影が作られる。


「あぁ……この影のように暗い私の人生を照らしてくれる人、どこかに居ないのでしょうか………」


サッと振り向きコルトとユメの方へ顔を向け、助けて下さいと訴えかける。


出会うなり厚かましい奴だが、いい性根をした女だ。


嫌いなタイプの人間だが、生き方は嫌いじゃない。


「どうするコルト?助けて欲しそうだけど」


「見返り次第、当たり前のことだ。もしショボい物寄越したらお前の指を目玉に突き刺してやる」


「冗談?」


「そう聞こえるなら見たことないんだな、目玉が潰れる」


あっこれまずい人だ。


「卵みたいには潰れない、ゼリーみたいにブニュてなるんだよ」


冷や汗を流すメーリャは、この目の据わった男に関わったことを少し後悔した。


「それで?なにを助けて欲しいんだ」


「雑草の駆除です、とっても危険で私ではちょっと」


「危険?毒でも持ってるのか」


今思えば、もっと熟考しておくべきだった。


幾らこの女が見たまんまのポンコツだと言えども、雑草如きに手こずるほど馬鹿ではないことを。


中心街から少し離れ、枯れた花畑の通路を進んでゆく。


「こりゃ強力な雑草だ、花が全部枯れてる」


その雑草とやらが、全部栄養を吸いとって枯らしてしまったのだ。


「……一応調べておくか」


あの施設で拾ったガイガーカウンターを起動し、放射線量を測定してみるが平常値である。


文字通り虫も殺せない値で害はない。


「となると枯葉材か?」


コルトの心配を他所に、心配なんて無さそうにユメは歩く。


目前にひっそりと佇む小さな屋敷は、この街ではかなり上等な部類に入る物件だった筈だ。


花瓶に入った綺麗な花、こりゃ何だったかな?


「ゲリラ共だ!」


一瞬で現実に引き戻され、曳光弾がヘルメットの真横を掠める。


コルトは頭を下げ、CAR15カービンを乱射しまくる。


「NSIAの連中は何処だ!?」


「知らん!無線じゃここを指示してたんだ!」


まずい状況だった。


カービンライフル2丁にカールグスタフ短機関銃と分隊支援火器しか持ち合わせていない4人分隊が、敵勢力圏下で囲まれている。


「航空支援を呼べ!」


「SAM陣地があちこちにあるんだぞ!」


「うるせぇ、空軍の連中にガッツを見せろと言ってやれ!」


要請から何分もしないうちに空中待機していたファントムが飛来し、爆撃体制に入る。


誤爆防止の為に、緑の発煙筒を自分達の居る場所に落とし、頭を下げて爆撃の衝撃を待ち耐えた。


ナパーム弾が降り注いで辺り一面は火の海となり、まるでオーブンの中に入ってるかのようだった。


「よし突破する!」


爆撃で混乱するゲリラ兵の真横をすり抜けながら、引き金を引いて弾をばら蒔いた。


低空で爆撃を行い、全速力で離脱するファントムに向かって対空砲火が浴びせられ、そのうちの一機に命中した。


エンジンから黒煙混じりの炎を吐き出しながら、水平線の向こうへと墜落した。


「畜生ファントムが!?」


視線を墜落してゆくファントムに向けたその瞬間、背後からマズルフラッシュの断続的な光と違う、溜め込むような光が照射された。


「マック後ろだ!」


身体が真っ二つに折れて、持っていた機関銃が溶けてマックの両手を焼いた。


まるでスライムまみれになったかのように、唖然とした顔で死を迎える。


「マジカリストめ!」


残弾なんか気にしてられなかった。


いつもなら袖で拭う汗が、眉から垂れ落ちるて目に入って来るが、そんな事を気にしてられる状況ではなかった。


ポーチから弾倉を取り出して装填し、銃口から数秒間炎が吐き出され、目に焼き付く。


それはマッチに火を付けるみたいな行為だ。


暗闇を照らす為に擦られ、僅かな寿命を燃え尽きさせるような、そんな感じだった。


包囲を抜けたコルトは窪みへ滑り込むように隠れ、肩を大きく揺らしながら弾倉を交換する。


ヘルメットを脱ぎ捨て全方位を警戒しながら、地図を広げた。


確かにこの場所に情報局の連中がいる筈だった。


「レックス?」


眼前に横たわる仲間は、骸となって私を見つめていた。


そしてその近くに杖を持った魔法持ちが、佇んで居やがる。


うんざりだ。


何が魔法だ。


窪みから這い出て、アレックスを殺した女の後頭部を銃床で叩きつけた。


「あ?え……?」


戦闘慣れしていないのか周りが見えておらず、コルトの草根を踏む足音すらも女は気がついていなかった。


「おい魔法使い、俺は八つ裂きも焼き殺しもしないぞ」


魔法使いの手を掴んで両目に突き刺した。


柔らかくて固い目玉が潰れ、甲高い悲鳴を上げた口へ土をねじ込んだ。


家の倉庫で見掛けた、親指大の腹のデカい蜘蛛を潰した時よりは躊躇しなかった。


花瓶に添えられたダチュラの花が、何故かそこにあった。


「いや、これは記憶にない」


そもそも俺が持ってたのはCAR15だったか?M16を持っていた気がする。


あの時死んだのはアレックスだったか?シャールズだった気もする。


「なるほど、厄介な雑草だ」


扉の洒落たガラスを撃ち、崩れた音で目が覚めた。


手の招きに拐われて

偶然に入り込んだ我々を

迎え入れるは汝かな

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