始まり
男はずっと都会にいた為に雪には慣れていなかった。人々が集められている会場から一番近く、歩いて行ける距離の旅館をとっていたにも関わらず、その道は険しく、何度もこけそう
なりながらもやっとの思いで到着した。男が到着した頃には、すでに会場には溢れんばかりの人がごった返していた。会場内は緊張が張り詰めており、皆これから行わる事を今や遅しと
待ちわびていた。先ほど旅館で聞いたサイレンから既に1時間。後どれくらいこの寒さの中に放置されるのだろうか?厚手の手袋をしているにも関わらず、手先がかじかみ感覚もなくなり
かけていた。男は無意識の内に体をさすり、必死に暖を求めていた。そんな時、一人の老人が広場の前に設置されたステージ ~学校の前に置いてある校長が使う小さな台~ に上がり
手に持ったマイクを2.3度掌で軽く叩いた後、しゃべり始めた。
「・・・・集まりの諸君。今年もこの季節がやってきてしまった。去年、一昨年と話し合いで解決出来たのだが、今年はどうしても手を引くことが出来ない事情があった事をまずは理解
してほしい。私だって必死に頑張った。引く所は引いたはずだ。だが、結局話はこじれた。こうなってしまってはどうしようもない。村の掟に従うしかないのだよ。傲慢な彼らに見せつけて
やるのだ!彼らがいかに愚かな事をしようとしているのか。本来こんな事をしたところで何も解決はしない。憎しみは憎しみしか生まない。だが・・・・・。」
「能書きはいいんだよ!俺たちはこれの為に来たんだ!やるのか?やらねぇのか?」老人の話を遮り、会場から野太い声がこだました。それにつられてあちらこちらから声が聞こえる。
ここにいる皆が殺気だっているのだ。会場が異様な空気に包まれこの会場内で乱闘でも起きそうな雰囲気だ。
「静粛に!」老人の横に立っている眼鏡の中年が声を張り上げた。顔に似合わず、その威圧的な一声で周りは静まり返った。続けて眼鏡の男が老人に続きを促した。
「うむ、今ここに徴兵として多くの人を徴集している。村にも少なからず人はいるが、それでは到底奴らにはかなわない。どうか、皆で一丸になり、今日のこの戦いに終止符をうってほしい。
その為にはここにいる皆の協力が必要だ。皆の検討とわれらの勝利を祈っている。」
そういうと、老人はステージから降り、代わりに先ほどの眼鏡の男がステージに上がり話を始めた。