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探索

「いやァ、なんとかなッたナ!」


 遠くから私を探して集まる《幻想の住人(ファンタジアン)》。

 魔力消耗によって疲労した肉体に鞭を打ち、命からがら逃げ出した先でブルーさんが声をかけて来る。


「はぁっ、はぁっ。

 私、目が覚めてから走ってばっかりな気がします……」


「がははッ、スカベンジャーッてのは体力が資本だからなァ!

 これもトレーニングの内だと思ッとケ!」


「うえっ」


 そう言ってブルーさんは私の背中を叩く。

 同じ距離を走ってきたはずなのにブルーさんは軽口を叩きながら余裕の表情。

 普段からの鍛え方が違うのだろうか……息も絶え絶えな私とは大きな差だ。


「その様子じゃ無事あいつをぶっ殺せたみたいだな」


 少し離れた所から聞こえて来るのはシキの声。

 彼は口元から白い煙を吐き出しながらこちらに近づいて来る。


「ちょっとシキ!

 あんな大群の《幻想の住人(ファンタジアン)》に襲われるなんて聞いてません!

 死ぬかと思いましたよ!」


「あ? ちゃんと魔法打ったら逃げろっつたろ」


「説明不足です!」


「いやいや、前に説明したから気付くだろ普通」


 そう言われてしまえばその通り、私の理解力が足りていないことが原因でもある……なのだが命の危機に晒された私の怒りは治らない。


「そうですけど!

 一言言ってくれてもいいじゃないですか!」


「ぁー悪かった悪かった。

 次からはナナシ様のために細かく説明しますよー」


 なぜか上機嫌そうなシキは軽薄そうな笑みを浮かべながら謝罪する。


「まァまァ、全員こうして無事に生きてンだからいいだロ」


「むー……っていうかなんでそんなに機嫌いいんですか?」


「どうせどッかでタバコが回収できたンだロ」


「ご名答! あと馬頭鬼がなかなか楽しい相手で満足した」


 ビシッとブルーさんを指差すシキ。


「楽しいって……、頭おかしいんじゃないですか?」


「どうせ戦いは避けられないんだ、だったら楽しんだほうが得だろ」

 

 よくよくシキの姿を見るとあちこちの服は避け、血が滲んでいる。

 顔にも頭から流れた血を拭った跡があり、これまでの戦いが壮絶なものであった事を示していた。


「ちょっとよくわかんないです」


 まったく理解できない感覚。


 私に様々な事を教えてくれ、勝利のための作戦も立案したシキ。

 私は彼に態度は悪いがそれなりに知的、というイメージを抱いていたのだけど……。


「気にすンな! こいつが頭おかしンだヨ!」


「……ですよね」


 が、ブルーさんの言葉からスカベンジャーがみんなそうではない事を知り少しだけ安心する。


 もしそうであったら仲間になるのを考え直さなければならないところだった。

 命がいくつあっても足りそうもないから。


「ひでぇやつらだなぁ。

 ほら、ようやく落ち着いたんだ、さっさと探索行こうぜ」


「おウ。いいCDさがさねェとナ」


 そういってシキとブルーは私を置いて歩き出す。


「ちょっと置いてかないでください!」


「何言ってんだ、ナナシが案内すんだろ」


「あ、そういえばそうでした」


 そうして私は2人の元へ駆け出すのだった。



___




「ここです!」


 一度私たちが出会った民家に戻り、記憶をたよりにたどり着いたのは崩壊したショッピングモールの地下駐車場。


 地殻変動の影響か、はたまた別の要因なのかは分からないが、崩れた駐車場の天井には大きな穴が開いており、電気が通っていないにも関わらず十分な明るさを保っていた。


「ここがナナシが起きた場所か、なにか変わったものは……。

 っておい、なんだよあれ!」


 私が案内しようとする前にシキが私の目的の物に気づき、私が言葉を発する前にそれに駆けつける。


「なんだよこんなもん見た事ねぇぞ……旧時代の最新式の車か?

 だがタイヤもハンドルも無いし……いや、もしかしたら格納されているのか?

 それとも自動操縦……」


「まさにその中で私が目を覚ましたんですよ」


 卵のようにツルツルとした表面の楕円形の物体。

 その物体のドアは開かれており、内部には人が寝転べる程度の椅子となんらかのボタンが配置されている。


 私はそれを前にしてブツブツと独り言を呟くシキに声をかける。


「ナナシがこれの中に……?

 おいなんか覚えてることはねぇのか!」


「それがまったく覚えてないんですよ!」


「役に立たないな……ぅうむ、どこかで電源が入ると思うんだが」


「なァおイ、俺様探索に行ッてきていいカ?」


 いくつかのボタンが配置されたコンソールを覗き込みつつシキは適当に手を振る。


「んじャ行ッてくるワ」


「これが旧時代の遺物だとすれば、ナナシはこれの調査中に記憶をなくしたと考えるべきか。

 いや、それよりこの遺物に記憶を失わせる効果があるならやば……ってうおっ!」


 シキの小さな叫び声とともに浮かび上がるのは宙に浮いた半透明な映像。


「これは……非接触型のディスプレイにキーボードだと……!

 噂には聞いていたが実物を見るのは初めてだ……、使い方は従来のパソコンと一緒なのか……?」


「なんだか新しいおもちゃを貰った子供みたいですね。

 ……あれ、なんだろうなにか落ちてる」


 口元を歪めながら宙に浮かぶキーボードに触れるシキ。

 私はそのシキの近くにキラリと光る何かがある事に気づく。


「これは……触れた感覚がないから操作しづらいな……。

 なんだナナシ、何か見つけたのか?」


「あ、ごめんなさい。

 そこに何か落ちてて」


 私は小さなシキ足元に落ちていた物に手を伸ばす。


「ペンダント?」


 拾い上げたのは金色に光る楕円形をした紐の切れたペンダント。


「ぁー、ロケットだな、そこの蓋を開けてみろ、写真か何かが入っているかも知れない」


「あっ、本当に写真が、ぁっ、これ、は……」


 シキの指示通りに私は拾い上げたロケットの蓋を開く。

 そこにはめ込まれた写真を見たとたん、私の意識は遠のいた。

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