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牛頭鬼

「がはははハッ!」


 瓦礫が散乱したひび割れた道路の上を全力で駆ける。


「人気物はッ!」


 ただでさえ走るのに苦労する道のり、だが今回はさらに背後から突進してくる超デカい牛のおまけ付き。


「つらいゼ!」


 破砕音と共に吹き飛ばされた小さな瓦礫が俺様の身体にぶつかる、ひとつひとつの威力は小さい。

 だがすでに俺様が走り始めてから数えきれぬほどのこの衝撃に襲われている。

 青白く美しい俺様の体毛が無ければ身体は今頃ぼろ雑巾のようになっているだろう。

 

 付かず離れずの距離で牛頭鬼を誘導する、それが当初の予定……なのだが思ったよりも牛頭鬼の速度が早く、予定外の手傷に身体が痛む。


「ァー!

 あんまり魔力を減らしたく無いンだがなァ!

 しャーねェ、《地獄の番犬(ケルベロス)》!」


 このままでは追い付かれかねない、そう判断し水によって構成された2匹の犬を顕現させる。


 これは俺様の得意魔法の1つ。

 遠距離魔法は通常、軌道をイメージしなくては発動できない。だがこの魔法は俺様の忠実な犬、というイメージを具現化した魔法であり、顕現した2匹の犬が自動で攻撃を繰り出すという特徴がある。


「さァ、やッちまえお前らァ! っておイ!」


 こういった逃走中などの自分も相手も位置が激しく変わる戦場において最適な魔法……なのだが、一度顕現した犬達はコントロールが聞かないというデメリットがあり、発動後の行動は犬たちの気分次第。


「ケルちャンどこ行ッちャうノ!」


 1匹は牛頭鬼、そしてもう1匹は猛スピードで俺様を追い抜く。


 まさか逃げちゃうの!?


「ケルちャ……ぬオッ!」


 そんな思惑を抱いた瞬間、物陰から飛び出してきた小さな鬼、そしてその鬼をケルちゃんが引き裂き、そのまま向きを変え牛頭鬼の方へ駆け出す。


「ありがとうケルちゃん!」


 そして疑ってごめん!


 2匹の犬が牛頭鬼の元へ駆けつけ、振り回される棍棒を掻い潜りながら攻撃を繰り広げる。

 対格差は歴然であり、牛頭鬼に有効打を与えるには遠く及ばない。

 だがそれでも、時間稼ぎには十分だ。


「おッ、見えて来た来タ!」


 目指していた目的地は川。

 先ほどの探索で見つけた三途川だ。


「んじャ、そろそろ花火を上げますカ!」


 ケルベロスの攻撃によって生まれた余裕を集中力へと回す。

 雲間から除く太陽を狙うように銃剣を構え、イメージするのは大きな水球。


「俺様ニ! 注目しナ!」


 射出された大きな水球は中空にて弾け、周囲には小さな水滴が降り注ぐ。


「さァナナシ、こッからの主役は譲るゼ」



___



「あ、虹……綺麗……」


 周囲に拡散した水滴に太陽光が反射し、七色に光る美しい虹を作り出す。

 

「……ってそんな場合じゃない!

 あれはブルーさんからの合図だ、集中しろ私……!」


 殺伐とした戦場に突如現れた幻想的な光景に一瞬目を奪われる、だがすぐに思考を現実に戻し、己のやるべきことに集中する。


「私の使える最強の魔法、それを打ち込む!」


 戦闘経験の少ない私ではどの程度の魔法を打てば牛頭鬼が倒せるのかの検討がつかない。

 だからこそ経験の多いシキの作戦に従い、私の少ない記憶から思い出せる最強の魔法を使用する。


 頭の中でイメージを固めながら、本当に自分の魔法であれが倒せるのか、タイミングは会うのだろうか、という不安がよぎる。


 ええい、今は考えるな!

 あの二人が行けるとふんだ作戦なんだ、それを信じろ!


「私ならいけます!」


 雑念はイメージの精彩を欠き、威力を下げる。

 私は自らを鼓舞する様に声を出し、イメージに集中する。


 想像するのは雷神の一撃。

 天を引き裂き、触れるものすべてを打ち滅ぼす苛烈なる雷が上空に集い、徐々に一つの形を成す。

 そうして生まれたるは槌。

 雷神が振るう、全てのものを粉砕する力の象徴。


 その槌の名は――。


「《雷神の鎚(ミョルニル)》」

 

 魔法名を呟くと同時に、上空に止まっていた眩く輝く雷鎚がゆっくりと川へ向かって振り下ろされる。


「っーー!!」


 雷鎚が水面に触れた瞬間、目を覆いたくなる閃光が周囲に走り、それと同時に音が消える。


 正確に言えば音が消えたわけでは無い、振り下ろされた雷鎚からもたらされた轟音が周囲の音を飲み込みんだのだ。


 その後に訪れたのは衝撃波。

 鎚の着弾地点は決して近くは無い、だがその衝撃は離れた所にいる私の身体をも吹き飛ばさんと襲い来る。


「ひゃぅっ」


 魔力消費に伴う脱力感を感じつつ、なんとかその場に踏みとどまる。


「ぅゎー……、なんですかこれ……」


 衝撃波がおさまった後、私は魔法の着弾地点を確認し、言葉を失う。


 そこにあったのは小規模なクレーター。

 雷鎚は文字通り触れるもの全てを粉砕した。

 それこそ、周囲にあった建造物は愚か、大地すらも消滅させた。


「一応……成功なのでしょうか……」


 抉れた大地の傷を埋めるかの様に、クレーターには川から水が流れ込む。

 そしてそこにはいくつもの魚の死体が浮かぶ。

 これは川に雷を打ち込み、感電現象により命中範囲を増加させる、という狙いが成功した事を示している。


「牛頭鬼は……いないようですね」


 周囲を見渡すが牛の頭をした巨体は見当たらない。


「ふぅ」


「おイ! ナナシ! 逃げロ!」


「へ!?」


 脱力し、一息ついたところに聞こえて来るのはブルーさんの叫び。


 そんな、まさか失敗!?


 だが、再度周囲を見渡すが巨体はどこにも見当たらない……巨体は。


 ……えぇと、巨体はいないが遠くに無数の影が見えますね。


 私は『《幻想の住人(ファンタジアン)》は魔力を検知し人を探し、見つけた人間を襲う』というシキの説明を思い出す。


 でかい魔法を打ったら逃げろってこう言うこと!?

 私を心配してのセリフだと思ってたんですけど!?


「説明不足ですよぉー!!」


 私は叫びながら駆け出した。


 

 

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