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作戦開始

「いやァー、いい眺めだゼ」


 半分近くが崩れた集合団地、その屋上のふちに立ち、青白い毛皮の獣人が周囲の景色を一望する。


 馬鹿となんとかは高いところが好き、とシキならバカにするだろう。

 だが何と言われようと俺様は高いところが好きだ。


 正確に言うと別に俺様は高いところが好きなわけではない、目立つところが好きだ。

 目立つってのは良いもんだ、『俺様はここにいるンダ!』と強く自覚できる、それが良い。


「さテ……オ、いたいタ。

 たくあいつら俺様より目立ってやがるゼ」


 探していたのは2体の巨大な鬼、彼らは至る所に亀裂の入った道路を我が物顔で闊歩していた。


「♪」


 鼻歌交じりで銃剣を構え、スコープを覗き狙いを定める。


 一般的にファンタジアンは視界に入った人間を襲うと思われている。

 だがそれは厳密には違う、視界に入った一定範囲の敵を狙うのだ。

 

 では、超遠距離ならば一方的に攻撃が出来るのか、というと答えはNOだ。

 どれだけ距離があったとしても攻撃を仕掛けられれば奴らも接近して来るし、魔力を感知できるあいつらには超遠距離の攻撃は大体防がれる。


 ならば俺様はいま何をしているのかって?


「作戦第一工程……」


 集中だ、イメージするのは銃剣の延長線上、高速の水弾が奴の頭を弾き飛ばす瞬間。


 集中が極限まで達した時、銃口からは空気を切り裂く音と共に水弾が射出される。


「さァ、魅力的な俺様に釘付けになりナ!」


 

___



 俺のいるのは屋上に立つブルーと、牛頭鬼馬頭鬼のいる地点。

 崩れた建物の影に隠れながら周囲の様子を伺う。


「そろそろか」


 作戦開始の合図は特に決めていない。

 だが銃剣を構え、狙いをつけるために姿勢を低くしたブルーを見れば今から戦いが始まるのは明らかだった。


 彼がしゃがんでから数秒後、銃剣より射出された高速の水弾は空を切り裂きながら牛頭鬼の頭へ向かう。

 直撃すれば頭を吹き飛ばす程の威力を持つ水弾、だがそれは頭部に当たる寸前に、奴が手にした巨大な棍棒によって防がれる。


「ま、そうなるわな」


 魔力を感知できる奴らにとって、超遠距離からの攻撃を防ぐのは容易い。

 だが、今回の狙いは端から敵を倒す事ではない。


「ヴォォォォォォォオオオオオオオ!!」


 攻撃を防いだ直後、2匹の鬼は重低音の雄叫びを上げ、その巨体を走らせる。

 狙いは当然屋上にいる1人の獣人。


 まるでブルー以外は目に入らないと言わんばかりの猛進は、盲目の恋をする少女であるかのように一直線に目的地へと突き進む。


 人の恋路を邪魔する奴は犬に食われてなんとやら、という言葉がある。

 だが、悪いけど今回限りは邪魔をさせてもらう。


 猛進する2体の鬼、俺はそのうちの1体、馬頭鬼のほうに狙いをさだめて飛び出す。


「おら、お前は俺とデートだ」


 そうつぶやきながら俺は馬面に蹴りを喰らわせた。



___



「そろそろ、ですかね」


 二階建ての廃墟の屋上から周囲を見渡す。

 2人がいるだろう位置の予測はできるが、立ち並ぶ廃墟によって詳細な位置はわからない。


「はぁ……、あんな人たちだけど、別行動になるとちょっと怖いですね……」


 性格的には信用のおけない人たちだ、だが説明はそれなりに分かりやすいし、戦いに関しても有能だ。

 あの人たちとの行動には安心感があったことを分かれた今になって実感する。


「ぅーん……待つだけって、なかなかつかれる……」


 1人でいる心細さを打ち消す様に独り言をつぶやく。


 この作戦において私の今の役割はただ待つ事。


 どうせ時間はあるんだし、作戦の確認でもしようかな。

 そう思い、少し前のやり取りを思い出す。


『ナナシ、最高火力の魔法を動く相手に充てられる自身あるか?』


 今回の作戦会議は、私へ喧嘩を売るような言葉から始まった。


「私を誰だと思っているんですか……嘘ですごめんなさい多分無理です」


 魔法というのはイメージが細かく具体的であるほど威力が上がる。

 どのような形で発現するのか、発現の際に装飾は施されているのか、どの程度の大きさでどの程度の速さでどのような影響力を……などなど、イメージすべきことは多岐に渡る、そしてその中には魔法がどの様な軌道を描くのか、も含まれている。


 イメージを詳細に行わなくてはならないという性質上、強力であればあるほど魔法の発現には時間がかかる。

 短時間で発現する魔法であればイメージから発現までにタイムラグが少なく、相手に命中させることは難しくない、だが発動までに時間のかかる魔法は相手の動きを予測したうえでイメージを描かなくてはならない。

 それ故に強力な魔法を命中させるのにはセンスと経験が極めて重要である。


 今の私は魔法についての記憶は充実している、それに様々な強さの魔法も習得している。

 だが、残念なことにそれを使いこなすための経験についてはすっかり抜け落ちてしまっている。


「別に謝る必要はない、そもそも期待してない」


 無遠慮な言い方に少しイラっとする。


 言い方ってものがあるでしょっ!


「そうムッとするな、別にナナシが役に立たないと言ってるわけじゃない。

 むしろお前には活躍してもらわなきゃぁ困る」


「ですが私が当てられる魔法では……」


 ある程度の敵ならば有効打は与えられる、だが私の倍を超えるほど大きさの敵に対しては無理だ。

 最悪なのは此方の攻撃を無視して殴りにくること、そうされれば即死亡だ。


「いや、ナナシにはどでかい魔法を打ってもらう」


 えぇと、当たらないっていいましたよね?


「狙いをつけられないなら狙う必要を無くせばいい、ナナシは合図に合わせて俺の指定する場所に全力で雷の魔法を打つ、それだけだ」


「え、それだけですか?」


「それだけだ、あとは俺たちでなんとかする」


 ……というわけでこの作戦で私がする事は2つ、待つ、打つ、以上!


 本当にこんなんで大丈夫でしょうか……。

 まぁ作戦の全部を聞けばそれなりに勝率は高い作戦、という気はするので大丈夫なんでしょう。


 そう思いつつも、周囲を見渡して逃走ルートの確認をする。

 

 でかい魔法を打ったら逃げろって、シキが言ってたのでこれは裏切り行為ではありませんよ!

 

『ヴォォォォォォォオオオオオオオ!!』


「はうっ」


 そんな最中、突如聞こえて来た空気を震わせるような重低音の叫び声に身体が竦む。


「は、始まりましたね……」


 私が受け取る合図は一瞬のはず……、見逃すわけにはいかない。

 私は頬を叩き気合を入れた。


 

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