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雑魚戦

「ここにするカ。

 そこそこ開けてるシ、あの牛野郎どもから結構距離もあル」


 ここは目的であった民家の周辺、植物が絡みつく錆びた遊具の置かれた公園。

 作戦を説明したのち、俺たちは戦いのを行うための場所を探し歩いていた。


 場所を定めたあと、普段ならばブルーに一声かけ戦闘を始める。

 だが今回はナナシへの説明が先だ。

 ブルーもそれを理解しているのか、普段ならすでに構えている筈の武器を未だに背負っている。


「スカベンジャーは本格的な探索を行う前にはまず開けた場所を探す。

 そしてそこで行うのはゴミ掃除、つまり《幻想の住人(ファンタジアン)》の駆除だな」


「隠れながら使える資源を探すわけではないんですね」


「もちろん周辺の様子を探るとき等は当然隠れる、だが腰を据えて探索をする必要があるときは周囲の掃除から始めるのが基本だ。

 もしナナシが絶対に見つからない、という自信があるなら隠れながら探索をしてもいい。

 だが、万が一にでも見つかった場合は死ぬと思えよ」


 死、という言葉を聞いてナナシはゴクンと唾を飲み込む。


「《幻想の住人(ファンタジアン)》との戦いは、奴らの特性から基本的に複数を相手取ることになる」


 基本的に奴らは魔力を用いた攻撃でしか倒せない。

 そして奴らは魔力を感知する。


 俺は大げさに手を開き言葉を続ける。


「ここみたいに適度に広い場所ならまだいい、だが狭くて戦いにくい場所で複数の奴らに囲まれる所を想像してみろ」


「たしかに……厳しい戦いになりますね」


「そうだ、だから俺たちはまず有利な場所を選び、そこで戦う事で周りの《幻想の住人(ファンタジアン)》の数を減らす」


「理にかなったやり方ですね」


「だろ、まぁ師匠の受け売りなんだがな。

 それじゃぁこの後《幻想の住人(ファンタジアン)》を誘き寄せるためには何をすると思う?」


 ただ聞くだけでは身に付きづらい、だから相手に考えさせながら説明を行う。

 

 これも俺のスカベンジャーとしての師匠の受け売りだ。


「魔法……ですか?」


「その通り、軽めの魔法を打って周囲の……ん?」


 説明の途中、俺の頭上で何かが弾け、その少し後に冷たい水滴が降り注ぐ。

 

 これはブルーがいつも使う魔法だな。

 ……。


「おいバカ! ざけんなブルー!!

 説明の途中だろうが! バァーカ!」


「え?え?

 なんか《幻想の住人(ファンタジアン)》寄ってきましたよ!?」


「話長くテ」


 俺たちの周囲を囲うように鬼たちがゆっくりと集まり始める。


「あぁもうバカのせいで台無しだ!

 とにかくやるぞ!」



___



「ガハハッ、ほら何とかなッたロ。

 こンなもン実戦で覚えるのが一番なンだヨ」


 周囲に集まった鬼を駆逐したのち、静かになった広場にブルーの汚い笑い声が響く。


「説明をした後に実戦をすんだよ!

 はぁ……、これからの戦いは今みたいに俺が前衛、ブルーが中衛で後ろはナナシ、これでいくからな」


「は、はい……」


 息を切らしたナナシはかすれた声で返事をする。

 無駄な動きが多かったというのもあるが、一番は気を抜けば死ぬ可能性がある、という緊張感による疲労だろう。


 だが、それでも彼女の魔法はやはり一級品だ。

 初めてのまともな戦闘にも関わらず効果的な魔法を繰り出し、複数の鬼を葬り去っていた。

 それに、敵を殺すことに躊躇がないのも良い、記憶を失う前のナナシは優秀な戦士だったのかもしれない。

 

「上出来だったぜナナシ。

 ま、本番はこれからだけどな。

 とりあえずは休んどけ」


 そう本番は後に控えている大物、牛頭鬼に馬頭鬼。

 だが特別急ぐ必要もない、だからしばしはナナシの休憩。

 ついでに俺もタバコ休憩、別に俺がタバコを吸いたい言い訳ではないぞ。


「はぁ……はぁ……、お2人とも本当に慣れているんですね……。

 息一つ切らさないなんて……」


「そりャァ俺様達はベテランだからナ。

 もう10年以上一緒にスカベンジャーをやッてンだゼ」


「5年だよバカ」


「ア? そンなもンだッたカ?」


 若干あきれた顔のように見えるナナシ。 


「あァ、そうかそうか10年の付き合いはコイツのほうカ」


 そういってブルーは肩に担いだ銃剣を軽くたたく。


「ブルーさんは銃剣を用いて魔法を使うんですね」


「別になくても使えるんだけどヨ、あッたほうが命中精度が上がるんダ。

 手入れはして無いから弾は出ないけどナ!」 


 汚い声でいつものように豪快に笑うブルー。


「イメージの定着の問題ですね、道具を使ったほうが魔法を発動させやすいですから。

 まぁ、私には必要ありませんけど!」


「俺様だッて銃剣が無くたって強い魔法は使えるゾ!」


 胸をはってドヤ顔のナナシとそれに対抗するブルー。


「あ、シキの魔法はどういうものなんですか?

 凄まじい力で戦っていましたが……」


「俺は生まれつき魔法が使えない」


「それって魔力発露不全症……、ですか?」


「あぁ」


 この病気についても知っていたか、本当に魔法についてだけはよく覚えているようだ。


「でも私の記憶の限り、発露不全の人は戦いには向いていないとおもったのですが……」


「魔法使いと比べりゃあ向いてねぇな」


 一般的にこの病気のイメージは悪い。

 魔法が使えることが当たり前の世の中でその当たり前の力が使えない。


 魔法以上の身体強化ができるという利点はある、だがそれは魔法による破壊力や遠距離攻撃に比べれば小さな利点だ。


 ゆえにこの病気を持つものは無能の烙印を押され、差別される。


「だかまぁ、死ぬほど鍛えれりゃ強くなる」


 俺は上腕二頭筋を隆起させ、ナナシに力瘤を見せつける。


「は、はぁ……」


 筋肉は正義だ、服着てて見えないけどな。


「さて」


 そろそろ作戦を始めるか。

 雑談をこれだけできる余裕があるのならもう休憩もいらないだろ。


 俺は短くなったタバコを踏みつけ、声をかける。


「そろそろ大物狩りに出発だ。

 お前ら、作戦は覚えてるな?」


「俺様は完璧」


「ぁ、はい! い、いけまつ!」


 若干一名は緊張のし過ぎで噛んでいる。


「噛むとかだせぇ。

 失敗したらブルーがなんとかしてくれるから気楽にしとけ」


「俺様かヨ!」


「噛んでませんし!」


 ナナシの緊張が若干緩んだところで俺たちは作戦を開始した。

 


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