G20
「警視庁より各局。新宿区より誘拐事件発生」
スピーカーから、そうアナウンスが流れた。
「回、向かいましょう」
「はい」
バラバラバラ。プロペラが回る。
「回、捜索開始」
円香はそう指示する。
「はい」
バラバラバラ。捜索ヘリは、上空を行く。
「該当家屋なし」
「車両は?」
「該当車両なし」
人質の居場所は分からなかった。すると、無線で連絡が入った。どうやら、犯人は今、通話中らしいとのことだった。
「回。犯人は通話中、探して」
円香は指示する。
「はい」
《身代金は》
「聞こえた」
回は声を抽出した。
「どこ?」
円香は尋ねる。
「あの街灯、振動している」
回はディスプレイに映す。
「え!? もしかして、あの街灯の所にいる人物!?」
「そうかも」
「分かった。本部へ送信する」
すると、無線で連絡があった。
《データは見た。その人物を見張れ。地上班を向かわす》
「はい」
バラバラバラ。円香は機体を旋回させた。
「あ。地上班」
円香は捜索ヘリからそれを見つけた。
《犯人、確保》
無線からそう聞こえた。
――よし。
円香は微笑む。
「戻りましょう」
「はい」
警視庁。
「知ってる?」
回は円香へ話しかける。
「何?」
円香は彼の方へ振り向く。
「今日の誘拐犯、真犯人が人工知能だって言ってるんだよ」
「え!? 何で!?」
円香は驚く。
「警視庁の噂によると、KOKUIじゃないかって」
「KOKUIが逃げてる!?」
「うん」
回は頷いた。机の上には新聞が置かれてあった。
『G20 今日開催』
《向こうに見える、BOWIドームで今から、日本で開催されるG20が始まるところです》
テレビからはそう聞こえて来た。
「へぇー」
円香はテレビを見る。一方、回は怒っている。
「こんなにまったりしてていいのかよ! KOKUIを探しに行こうぜ!」
「KOKUIは捜査一課が探してる。サイバー対策課も探してる」
「……」
円香の返答に回は、固まる。
《今、各首相がドーム内に入って行きました。さっそく、開催されそうです》
テレビの中のレポーターがそう言い終わったと思った途端、爆発音が聞こえて来た。
ドゴォォォ!
《きゃぁ!》
テレビ取材班たちが叫ぶ。
「どういうこと!?」
「ドームが爆発した!?」
「警視庁から各局。新宿区で爆発事件が発生。各班出動せよ」
スピーカーから、そうアナウンスが流れた。
「もしかして、航空班も?」
「何するの?」
円香と回が話し合っていると、課長が言う。
「外部から、内部の様子を見てきてくれ」
「はい」
二人は現場へと向かった。
バラバラバラ。捜索ヘリは上空を行く。
「捜索開始」
円香は指示する。
「はい」
回はいつものように、音声の抽出を図る。
「どう?」
「中では、各首相がそれぞれの警備機械たちと話しているようです」
回が答える。
「というと?」
「どうなっているんだ? とか。救出はまだか? とか」
「そうか」
すると、無線から声が聞こえて来た。
《情報は受け取った。しばらく、状況を見張っていてくれ》
「はい」
バラバラバラ。プロペラが回る。階下には、捜索ヘリの影が落ちる。
「KOKUIってさ、何の為に誘拐事件を起こしたんだろう」
円香は呟くように尋ねる。
「え? 人類を試していたんだろう?」
回はきょとんと答える。
「今日の誘拐も?」
「あぁ、あれはKOKUIじゃないかっていう噂」
「でも、捜査一課もサイバー対策課も探してる」
「そうだね」
《円香、聞こえてるか?》
「はい。課長。何でしょうか?」
無線から課長の声が聞こえて来た。円香はそれに答える。
《今、HAKUIから、報告があってな。今回の実行犯が警察機械と警備機械だったそうだ。だから、警備管理人工知能も共犯だ。気をつけろ。決して、情報をそいつらに渡すな》
「HAKUIがそれを!?」
円香は驚く。
《あぁ、サイバー対策課の刑事がある文書をインターネット上に見つけてな》
「文書?」
円香は聞く。
《今、データを送った。見てみろ》
円香は送られてきたデータファイルを開いた。
「これは!」
《犯行声明だ。しかも、ばっちり各国の外務省の管理人工知能たちのな》
「待って!」
《どうした?》
「KOKUIが一番上にきている!」
《あぁ、そうだったな。気をつけろ。各人工知能たちが団結し合っている。誰が裏切るか分からない》
バラバラバラ。
「うーん」
「どうしたの?」
回は円香の疑問を尋ねる。
「目的は何かなって考えてて」
円香は疑問をぶつける。
「うーん。犯行声明文にはまだ、書かれてなかったよね」
「うん」
「僕だったら、完全終戦かな」
「え!? どういうこと?」
円香は驚く。
「まぁ、僕は人類に早く戦争を止めてほしいかな」
「それが動機?」
「あくまで僕はね? だって、みんな外務省だよ?」
「そっか」
円香は納得したみたいだった。すると、無線から連絡が入った。
《どうだ? 変化はあるか?》
捜査本部からだった。
「いいえ。ありません」
《分かった。そのまま、引き続き見張れ》
「はい」
「なぁなぁ」
「何?」
回は円香へ話しかける。
「今思えば、あいつら、要するに人工知能たちって、逃げる気なんてさらさらないんじゃないかな」
「そうよね。犯行声明文あるし」
円香は回に同調する。
「各首相を閉じ込めるってことは、首相たちに戦争で怖い思いをしている人々のことを分かってほしかったのかな?」
回はそう推理する。
「そのために?」
「うん。そう思う」
「そっか」
「……」
しばし、沈黙が流れた。すると、円香は階下の様子に気付いた。
「見て。救出作業が進んでる」
「ということは」
「今度こそ、本当の終戦」
すると、無線から課長の声が聞こえて来た。
《円香、また、文書が見つかった。そっちに送った。見てくれ》
「はい。課長」
円香は、データファイルを開く。
「これは、総辞職!?」
「やっぱり、そうなんだ」
回は悲しそうに言った。
警視庁。
「どうやら、実行犯の警察機械と警備機械はアカウントを乗っ取られていたらしく、責任は問われないようだ」
円香はそう説明した。
「うん」
「それから、各国の外務省管理人工知能は、それぞれ今、取調室にいる」
「そっか」
「見に行く?」
円香は回に聞く。
「え?」
「見るだけなら、ね?」
「うん。行く」
回は首を縦に振った。
取調室。
「各国の首相に分かってほしかったんです。人工知能たち、つまり、私たち機械は、人類に戦争を止めてほしいと思っているということを」
外務省管理人工知能のDAIIは淡々と話した。
「だから、事件を?」
「はい」
「ちなみに、KOKUIとの関係は?」
十武は聞く。
「インターネット上で知り合いました。彼は、人類が嫌いで試しているわけではありませんでした」
「だから、協力を?」
「いいえ。私が協力したのではなく、彼が協力してくれたのです」
「そうか」
翌日。
『G20 各国の外務省管理人工知能に妨害される』
新聞には、そう書かれてあった。
「これで良かったのかな? 戦争も終わると思う?」
回は円香に話しかける。
「分からない。けれど、……」
「ん?」
回はきょとんと首を傾げる。
「行こうか」
「はい」
二人は格納庫へと向かった。