暗闇の中で
神器の元ネタは、某TPSRPGゲームです。
けっこう好きなんで、どうしても出してみたかったんですよね。
元ネタよりもだいぶ高性能になりましたけどww
ちなみに、ガンナーというクラス自体そのゲームが発想元です。
なんのゲームか、わかりますかね??
逃げて行くゴブリン達。
俺はホッと息を吐いた。
戦闘力は大したことがなくても、あの時のトラウマのせいで俺はゴブリンが苦手だった。
山ほど現れた時は背中がざわざわして仕方なかったが、結果的には2年の修行を経た俺の敵では無かったようだ。
安心して引き上げようとした、その時…
地の底から低くおどろおどろしい唸り声が響き渡った。
それは先程までのゴブリン達とは明らかに異質な声だった。
逃げ惑っていたゴブリン達が、突然動きを止め、一箇所に集まり始めた。
それはさっきまでのバラバラな動きではなく、明らかに何かの意図に従っているように見えた。
「なんだ…?」
見る間に、ゴブリン達は隊列を組み始める。
「ゴブリンが…こんな動きを…!?」
アリーナの反応を見る限り、この事態は異常なようだ。
しかもそれだけでは無かった。
洞窟の奥から、明らかに大きな個体が進み出て来る。
それは…
「うっ…ゴブリン・ウォーリアー…!?」
それは未だに悪夢に出てくる、忌まわしいあのモンスターだった。
どう見ても数十体はいる。
「こんなところに、どうして!?」
確かにこんな街の近くにこれ程の群れがいるというのはどう考えても異常事態だ。
「理由は後だ!とにかくこいつらも撃退するぞ!」
俺は再びライトマシンガンを構え、引き金を引いた。
両脚を踏ん張り、全身に力を込めて反動を抑えつけ、ゴブリン・ウォーリアーを狙う。
しかし…
「なっ!?こいつら、壁になってやがるのか!?」
ゴブリン達が肉壁となって立ちはだかり、ウォーリアーを守り始めた。
さっきまで恐慌に陥っていたゴブリン達は、今は己の死を一切恐れない動きでその身を捧げている。
明確な意図を感じさせる動きだ。
「まずいな…」
俺とアリーナだけであればこの群れ全てを片付けることも可能だろう。
しかし今はワッツとクロエがいる。
2人を護りながらこいつらを殲滅するのは…
かなり厳しいかもしれない。
考えがまとまらないまま、引き金からガチッという手応えを感じた。
「くそっ、リロードだ!」
マガジンを替える間、銃撃が止む。
アリーナが得意の風魔法を放つが、いかんせん多勢に無勢だ。
チャンスと見た大群がどんどん迫ってくる。
リロードが終わり、すぐさま制圧射撃を行い、近くの個体を始末する。
その繰り返しだ。
群れはまだ地下から続々と上がって来ている上に、徐々に包囲網が縮まって来ている。
「っ!撃ち漏らした!ワッツ、クロエ!いけるか!?」
「はい!任せてください!」
「いつまでも足手まといにはなりたくないです!」
2人は決然とした表情を浮かべゴブリンを迎え撃つ。
実力が定かでない分正直不安だったが、2人は危なげなく寄ってきたゴブリンを処理している。
ワッツは剣士、クロエは武闘家だ。
鎧と盾を持つワッツが前に出て敵を引きつけ、その隙に小回りの効くクロエが仕留める。
流石に幼馴染だけあって連携がスムーズだ。
「問題なさそう…だなっと!!」
2人の動きを確認している隙に、ゴブリン・ウォーリアーが間近に迫っていた。
振り下ろされた斧の刃を躱し、ライトマシンガンの銃把で頭を殴る。
敵が怯んだ一瞬でマシンガンを投げ捨て、今度はハンドガンを生成。
ウォーリアーの頭に向けて引き金を引いた。
「今度は前とは違うんだぜ!」
最初の一体を一撃で仕留め、続け様に近くのゴブリン・ウォーリアーの頭を撃ち抜いていく。
しかし…
「くそっ!キリがない!どうなってんだこいつら!?死ぬのが怖くないのか!?」
普通、例えモンスターであってもここまで躊躇いもなく命を捨てたりしない。
群れを相手にしていたとしても、ある程度の段階で"恐怖"や"保身"といった感情から戦いは終わるものなのだ。
しかしこのゴブリン達にそんな気配は無い。
これは…
「セイヤさん!これは…どこかにゴブリン達を操っているものがいるのかも知れません!」
「っ!そういうことか!?」
アリーナの推測は正しいかもしれない。
しかしこの大群の中、操っている個体を探し出すのは至難の技だ。
…今のままであれば。
「…アリーナ!」
「わかりました。"神器"の使用を許可します!セイヤさん!今こそ修行の成果を見せて下さい!」
「ああ!任せとけ!!」
"神器"。
召喚勇者に与えられるクラス特権。
己が魂の形に応じた、戦況を一変させるほどの強力な兵器。
「解き明かせ!数理の究明者!!」
俺のブレスレットが灼熱とともに青い光を放つ。
青い輝きに包まれ、俺は幻を見る。
この場の、この国の、この世界の全て、あらゆるものが視える。
世界の営み、命とマナの繋がりが見えた。
そして、ソレの目覚めとともに、俺は一瞬の白昼夢から目覚めた。
『ご機嫌様、マスター』
どこからともなく女性の声。
ワッツとクロエが目を瞬かせながら辺りを見回している。
そりゃびっくりするよな。
何せ声は俺のブレスレットから聞こえてるんだから。
「ピタゴラス。状況はわかるよな?」
『もちろん。私はマスターと一心同体ですから。何なりと仰せのままに。』
「ああ、それでこそだ!ピタゴラス、スキャニング!!」
俺のブレスレットから、緑色の光が波のように走った。
その場にいる全ての生命、あらゆる物質とマナの流れが一瞬で頭に流れ込む。
全ての情報はピタゴラスが処理し、瞬時に俺が知るべきことが知覚された。
「いた…!こいつだ!」
頭の中にあるこの一帯のマッピング情報。
入り乱れるマナの流れの中で、指向的なマナを放つ個体が一体。
数多のゴブリンに守られたそいつが、この場にいる全てのゴブリンをコントロールしている。
俺は脳裏に浮かぶイメージを具現化する。
「ピタゴラス、道を切り拓け!"オービット"生成!」
周囲に、無数の白い球体が生み出される。
球体は浮遊しながら周囲を旋回し始めた。
『斉射準備開始。ターゲットはゴブリン及びゴブリン・ウォーリアー……ロックオン。
全オービットスタンバイ。マスター、いつでもどうぞ。』
「よし...!行くぞ!」
俺は両手にピストルを生成し、雲霞のごとく押し寄せる群れに向けて疾走した。
「雑魚共を殲滅しろ!ピタゴラス!!」
『了解。オービットによる殲滅戦を開始します。』
目前に迫っていたゴブリンの壁がその瞬間、霧散した。
ピタゴラスによって完璧にコントロールされたオービットの一斉射撃が、周囲のゴブリン達を駆逐していく。
血煙と熱線、悲鳴の最中を俺は駆け抜けた。
『オービットのマナ充填率…60%に低下。』
オービットとて無限に動かせるわけではなく、これだけの一斉射撃は長くは続かない。
『マナ充填率40%…30%。』
オービットの斉射が…途切れると同時。
「抜けた!」
俺はゴブリンの大群を抜けていた。
「いたな...!!」
この場を統べる超常の知性が、ターゲットを捉えた。
『ターゲット確認。ゴブリン・メイジです。』
ゴブリン・メイジ。
数多いゴブリンの中でも、上位種族に位置付けられるモンスターだ。
最大の特徴はその優れた知性である。
ゴブリンは基本的に単純で、言ってしまえば愚かだ。
しかしこいつの知性は非常に高く、人間の策略家を上回るほど。
またメイジの名を冠するように魔法にも長け、ゴブリンでありながらもその危険度はBランクに認定されている。
そしてこの時のゴブリン・メイジはそれだけではなかった。
『ターゲット分析完了。特殊個体として認定します。』
ピタゴラスを通じて流れ込んでくるその見た目は、極めて異様だった。
体格は通常のゴブリンより少し大きい程度だろうか。
身にまとった小ぎれいな服が、地位の高さを物語っている。
だがそいつの頭。
まるでそこだけ別の生物であるかのように爆発的に膨れ上がっていた。
それを支えるために背中から首にかけてプロテクターのようなものを装着され、移動も神輿のようなものに固定されて動いているようだ。
『脳が異様に発達しています。恐らく先天的な異常個体なのでしょう。通常のゴブリン・メイジの数十倍の演算能力があると推測します。』
そいつの周囲には護衛として屈強なゴブリン・ウォーリアーが配置され、さらにその外側を大量のゴブリンが守っている。
加えて俺の後ろからは、先程抜けた大群が押し寄せていた。
それら全てをなぎ倒して特殊個体を倒すのは絶望的なように思える。
しかし俺は分かっていた。
何をすべきかを。
俺は両手の銃を乱射し、近くにいたゴブリンを倒した。
そして全身のバネを使い、高く、高く跳躍する。
「魔銃生成!"対物ライフル"!」
空中で長距離狙撃用のライフルを生成した俺は、標的を見もせずに出鱈目に銃口を上げた。
自分が見る必要はないのだ。
俺には頼もしい相棒がいるのだから。
「ピタゴラス!!狙え!!」
ピタゴラスのスキャンデータから最適な方角、角度が示される。
俺はそれを一片の疑いもなく受け入れた。
目を閉じたまま、ライフルを構える。
頭の中には標的と、自分。
完璧なイメージが浮かぶ。
銃口とターゲットを繋ぐ線が糸のように伸び…繋がった。
「スティング・バレット!」
貫通能力を付加された大口径の弾丸は、立ち塞がる全てのものを貫き…
ゴブリン・メイジの頭に吸い込まれた。
その軌跡は張り詰めた糸の如く。
一分のブレなく叩き込まれた弾丸はその巨大な頭を軽々と吹き飛ばした。
ゴブリン達の動きがピタリと止まる。
まるで夢から覚めたかのようにキョロキョロとあたりを見回している。
やがて1匹。また1匹と武器を取り落とし…
最後は雪崩を打って闇の奥へと逃げていった。
ふーっと俺は大きく息を吐く。
「これでひと段落か?」
俺は期待を込めてピタゴラスに聞いた。
この静けさの中、これ以上の脅威はなさそうだったからだ。
『いいえ、マスター。』
だから最初、俺は耳がおかしくなったのかと思った。
『残念ながらそうではないようです。』
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