Eランクレンジャー・セイヤ誕生
クエストの報酬とかは、後で変えていくかもしれません。
物価とかそういうところまではまで練り切れておらず...
進めて行って違和感があれば書き直そうと思います。
走る。
走る、走る、走る走る走る。
脚が千切れそうになる。
肺が張り裂けそうになる。
吐き気が込み上げてくる。
それでも、走る。
木立を抜け、開けた場所に出る。
視界の端に違和感。
瞬間、身体を捻って転がる。
ついさっきまで俺がいたところに、矢が突き刺さっている。
今度は左側から、来る。
さらに跳んで躱す。
躱す、躱す、躱す躱す躱す。
吹き出る汗を拭う間もない。
キルゾーンを駆け抜け、走る。
後ろから圧倒的な存在感。
あいつが迫ってくる。
その口から発せられる臭いが届く。
死の恐怖に突き動かされ、もう動かない脚を無理やり動かす。
走って走って走って…
「撃ち抜け!!」
その声と共に投げられた人の頭程の的を撃ち抜く。
撃つ、撃つ、撃つ。
次々に放られる的を全て。
もしそれを落としたら…
もう一度初めからやり直しだから。
2年間。
俺はこんな訓練を毎日行っていた。
そのお陰か、どんな場面であっても状況を瞬時に把握することができる。
マナを"見る"技術もこうして磨かれた。
ハッサイの技は確かに威力は中々のものだった。
しかし俺の目はマナの薄い部分がはっきりと捉えていた。
だからそこを撃ち抜いてやったんだ。
「技は威力だけ磨いても駄目だ。それと同じくらい、"弱点を作らない"ことが重要だ。」
これは俺がレナードに散々言われ続けたこと。
"強さ"は"威力"と同義ではない。
技の始動から終わりまでの隙、速さ、そして早さ。
これら全てが揃わないと強い技とは言えないと。
ハッサイもその事を思い知っただろう。
さて、来て早々妙なトラブルに巻き込まれたが、仕切り直してレンジャー登録を行うことになった。
俺たちが暴れてボロボロになった受付ではなく、奥の個室で受付嬢と向かい合う。
ついでなので、絡まれていた2人組も一緒だ。
コホンと咳払いして、受付嬢が話し始めた。
「先程は失礼致しました。私はレンジャー協会の管理官、シェリー・マグナットと申します。皆様は初めてレンジャーになろうとされていますので、簡単にレンジャーについてご説明からさせていただこうと思います。」
シェリーによると、レンジャーにはSからEランクまでの階級があるらしい。
俺たちのようにレンジャーになりたての者は例外なくEランクからスタート。
クエストをこなす事で評価を高め、ランクを上げていくことができる。
「Eランクは、言わばお試し期間も兼ねております。登録される中にはレンジャーとしてやっていけない方もいらっしゃいますので…」
Eランクに留まれるのは最長1年。
それ以上は認められず、レンジャーの権利を剥奪されてしまう。
つまり、本当に"レンジャー"と認められるのはDランクからということだ。
当然、国境移動を含めた様々な権利もDランク以上のものだけに与えられる。
当面俺のなすべき事は、Dランクへのアップを目指してクエストをこなすことになりそうだ。
「なるほど…でも俺たちはともかく、セイヤ様の実力ならすぐにDランクでもいいんじゃないですか?」
一緒に話を聞いていた青年、ワッツが何やらキラキラした瞳で俺を見ながら言った。
「ううう…私もそう思うのですが…一応規則ですのでぇ…」
既にシェリーさんは涙目だ。
この調子ならハッサイみたいな奴が調子に乗るのも仕方ないかも知れない。
「いいっていいって!せっかくだから俺もEからやるよ!…ってアリーナ、良いよな?」
「ええ、勿論です。元々その予定でしたし。セイヤさんの力ならDランクまではすぐでしょうし。」
という訳で、俺も皆と足並みを揃えてレンジャー生活をスタートすることになった。
「では、こちらの指輪をお渡しします。」
そういって渡された指輪には、白い宝石がはめられていた。
「これは?」
「はい。これがレンジャーであることを証明する"リング"です。この宝石に、皆様のマナを注いでみてください。」
試しに俺がマナを注ぎ込むと、リングの宝石がきらりと輝いた気がした。
「では、それを指に…」
言われるがまま装着すると、リングがリィーンと涼やかな音を鳴らした。
「試しにリングを交換してみてください。」
アリーナのリングをはめてみると、今度はギィィーンと耳障りな音が鳴った。
「ふーん。本人のマナに反応するってことか?」
「はい!これはレンジャー協会の独自技術で作られておりまして、本人以外着用できないものなのです!これでレンジャー達が本人であることを識別しているのです!」
どやっ!とばかりにシェリーさんが胸を張った。
今にも制服のボタンが取れそうだ。
「複製とかは出来ない?」
「もちろん!この製法は門外不出!複製は不可能です!更に更にこの指輪、レンジャー達の実績管理もできるんですよぉ!」
どやぁぁぁあっ!!
と突き出された胸が大きく揺れている。
隣のワッツ君なんかはその動きばかり見て話を全く聞いていなかったんじゃないかな。
「実績管理?」
「はい!この指輪は"マナ交換の法則"を観測することができるのです!!」
"マナ交換の法則"とは。
物理的、心理的な接触があった物体同士はマナを交換する、という法則のこと。
長年連れだった夫婦の顔が似てくる、なんてのは俺の世界にもあったことだけど、アストランではそういうのは全て、マナによる影響だとされている。
例えば近くにいるだけでも、知らず知らずのうちにお互いのマナが少しづつやり取りされており、魂はその影響を受けるということだ。
当然、より強い接触があれば、移動するマナはより多くなる。
例えば戦闘。
命を賭けた戦いでは、大量のマナ交換が起こる。
そして勝利した側には、敗北した側から大量のマナが移動することになる。
戦いを経ることで魔法や特性を身に付けることができるのは、このためなのだ。
そしてこの指輪はレンジャーがどれだけのマナを得たのかを観測することができるらしい。
「もちろん、それも我々の秘伝の魔術によるものなのです!!!」
どやぁぁぁあっっ!!!!
パチンッとシェリーさんの胸元のボタンが弾けた。
「あ、あわわわわわわ!!??み、見ないでくださいぃぃいい!!!」
先程までのドヤ顔は何処へやら、シェリーさんは顔をイチゴのように真っ赤にしてドタバタと逃げて行ってしまった。
「………」
気まずい空気が漂う中、再びドタバタと彼女が戻ってくる。
協会の正装の上から、ジャージのようなものを羽織って胸元を隠している。
なんともチグハグな姿だ。
「そ、そういう訳で!この指輪は皆様肌身離さず持ち歩いて下さいね!!」
「は、はい。」
「すごいですね...いろんな意味で...」
ワッツ君は何に感心してたんだろう。視線がずっと胸元に...いや、彼の名誉の為にやめておこう。
「秘伝の魔法ね…もしかしたらアレを使えば調べられるかもな…」
俺は考え事をしながら無意識に呟いた。
「えっ?なんです?セイヤさん?」
「ん?あ、なんでもない。それで俺たちがDランクに上がるにはどんなクエストがあるんだ?」
「はい!今ここでEランク向けに受け付けているクエストは...」
■Eランク向けクエスト
▶︎薬草採集
○ゼーフェルの街近郊にある谷間に、豊富な薬草が生える。
環境が厳しくなる冬場に向けて、薬草の採取をお願いしたい。
・募集人数:1〜2人。
・期間:契約から3日間。
・報酬:1人当たり1,000G+採集量により出来高払い。
▶︎鉱石発掘
○ゼーフェルを囲む高山には豊富な鉱脈が存在する。
現在、怪我人が多く発掘作業が難航している。
力仕事が得意なレンジャーに、協力をお願いしたい。
・募集人数:3〜10人。
・期間:1週間。
・報酬:1人当たり5,000G。
▶︎洞窟調査
○先日起きた地震により、ゼーフェル近くに新たな洞窟が出来ている。
坑夫たちの話では、洞窟から物音や異臭がする時があるとのこと。
この辺りに危険なモンスターはいないはずだが、念のため調査をお願いしたい。
なお、調査中にモンスターと遭遇した場合、可能であればこれを駆除、
最低でも情報を持ち帰って欲しい。
・募集人数:2〜4人。
・期間:調査完了まで。
・報酬:1人当たり5,000G+危険度に応じた出来高払い。
「なるほどな...一番手っ取り早く済ませられるのはどれだ?」
「そうですねぇ...そうなると…洞窟調査でしょうね。」
こういう調査系のクエストはたまにあるらしい。
ゼーフェルのような、比較的安全な地域では下級ランクのレンジャーが主に担当する。
「よし!じゃあそれにしよう!あ、4人まで行けるみたいだぞ!ワッツ君達も一緒に行かないか?」
どうせなら、ということでその場の4人でクエストに向かうことにした。
旅は道連れ...ってね。
彼らはこの近くの農村出身で、ゼーフェルでレンジャーになってひと旗あげるつもりらしい。
「セイヤさんとご一緒できるなんて...感激っす!!」
「ホントに!さっきはカッコ良かったです!」
2人も嬉しそうだし、誘って良かったかな。
その日はもう昼も過ぎていたので、出発は翌日ということになった。
俺のレンジャーとしての第一歩が、始まる。
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