旅立ち
新キャラは、三蔵法師と旅してたキャラを元にしています。
なんだか後になるほど好きになってきまして、もうちょい活躍させようと思います。
あれから2年の月日が流れた。
俺はシェラザート家が治める南のエルフ領、ヴェーランドにいた。
この2年、俺は美少女エルフと楽しい生活を送り、きゃっきゃうふふなことを沢山経験した。
…はい、嘘です。
正しくは…"この2年は地獄の特訓の日々だった"。
俺は中途半端な召喚成立により、必要な能力を持たないままクラスを持っているという、有り得ない状態であった。
そのまま放置すれば、魂が壊れて死んでしまう可能性があったらしく、それを防ぐ意味でも俺はクラスに見合った魂の強度を身につける必要があったのだ。
とはいえクラスによる補正の無い俺は、言ってみればただのサラリーマンだ。
そこからクラスを使いこなすための実力を身につけるためには…地獄の日々が必要だった…のだ。
ヴェーランドは数年前、何らかの自然災害によって壊滅状態に追いやられ、そこからの復興途上にあった。
なので朝は稽古、昼は復興の手伝い、夜はまた稽古という、鬼のスケジュールをこなす日々。
また災害以降モンスターも多く沸くようになっているため、防衛のための実戦を何度も経験した。
死にかけたことも一度や二度では無く、そのおかげで俺もかなり成長できたと思う。
ビビって逃げ回っていた頃とは別人に生まれ変わった気分だった。
そしてついに…
「領地を出る?」
「はい。お陰様でここの復興もかなり進みましたし、セイヤさんの力も十分備わったと思います。今なら出征に最適なタイミングだと私は思っています。」
そう言ってアリーナは深く頷いた。
この時の彼女は、最初に会った時のようなひらひらの薄着ではなく(あれは召喚儀式用の服らしい)執務用の正装を着ていた。
「ああ、暴れるモンスターを退治するっていうあれね…」
この頃は、俺が召喚された頃よりも目に見えてモンスターが増え、しかもより凶暴、強力になっていた。
俺と共に召喚された勇者達は今や12勇者と呼ばれ、各地で大きな戦果を上げている。
「はい。ですが、我々は彼らとは異なるアプローチをしようと思います。」
「異なるアプローチ?」
「はい。やはり、増加するモンスターを倒していくだけでは、問題の根本的な解決には至らないのではないかと…」
確かに12勇者がどれだけモンスターを退治しても、平和になるのは一時。
その場所にはまた、新たなモンスターが湧き出てくるのだ。
「もちろん、モンスターへの対応は行います。しかし、私の情報源からもたらされた情報では、モンスターが沸いて出てくるのはもっと大きな事象、いえ災害の前触れではないかと…」
「大きな災害…」
「はい。幸い私たちは12勇者の頭数には入れられていません。なので後に起こるかも知れない、その大災害の防止のために努めようと思います。」
「なるほど…ま、いいんじゃないか?別の道を模索するのも。で、俺はどうすれば?」
「はい。私達はここを出て北上、道中いくつかの場所を調査しつつ、最終的には北のエルフ領を目指す予定です。」
「…私たち?」
「ええ。セイヤさんと、私です。」
俺は当然とばかりに言うアリーナの顔をしばし見つめた。
何を勘違いしたのか、少し赤面しつつアリーナが、
「あ、あの?何か?」
と言う。
「いや、アリーナはここの領主なんだから、同行するのはまずいじゃないかと…」
アリーナは何やら少しがっかりした様子だ。
「その件ですか…私がここを離れることは、皆承知のことです。ね?じい、レナード?」
じい、とは所謂宰相の地位にあるエルフ、ベルカント・カープのことで、かなり長い間シェラザート家で政務を取り仕切っている。
髪の毛も長い髭も真っ白。枯れ枝を想像させる体と、いかにもな老人なのだが、まだ若いアリーナを完璧に補佐し、復興を推進させている敏腕だ。
ベルカントは長々とため息をつき、本当に渋々と頷いた。
俺は唖然としつつ、その横にいる見た。
レナードはこの国最強のエルフだ。
美しいプラチナの髪を肩近くまで伸ばし、女と見間違える程の美貌。
しかし戦場では鬼神の如き強さを見せる。
クラス"アーチャー"の持ち主であり、この2年俺を鍛えに鍛えてくれた師匠でもある。
こちらもまた、この上ない渋面をしている。
どうやらこの件については一戦どころか何戦もやり合ったあとらしい。
「ま、2人が了承してるなら俺に文句は無いよ。でも、危険なんじゃないか?」
「危険は承知です。私には…どうしても果たさねばならないことがあるのです。」
そう言うアリーナの顔はひどく硬く、その決意の重さを物語っている。
「わかった。一緒に行こう。」
こうして、俺とアリーナの旅が始まった。
旅立ちの日。
俺とアリーナは荷物をアリーナの魔法、"亜空間収納"で格納して出発しようとしていた。
亜空間収納がどういう原理なのか、俺は使えないのでさっぱり理解できていないが、これはとんでもなく便利な魔法だ。
生物は入れられないのと、入れられる量に限りはあるのが欠点ではあるが。
すぐに使うものはバックパックに背負い、俺とアリーナは領地を出る道を歩いた。
領地の外れにある大きな門、そこにベルカントとレナード、そして多くのエルフ達が見送りに集まっていた。
「アリーナ様、どうかご無事で…」
ベルカントが今生の別れであるかの如く涙を零している。
アリーナはベルカントを抱きしめた後、集まった1人1人と別れを交わしている。
俺には政治のことは分からないが、民に慕われるその姿は為政者としてのあるべき姿であるように感じた。
「姫を頼むぞ」
レナードが俺の肩をがっしりと掴み、俺の目を見て言った。
「はい!」
そうして俺たちの旅は始まった。
オースリア。
アストラン南部に位置する小国でヴェーランドの友好国だ。
今回訪れるのは高山に囲まれた街、”ゼーフェル”。
「そこに何があるんだ?」
俺とアリーナはきつい斜面を登っている。
冬は一面雪に覆われてしまうのだが、今は緑に覆われ、牧歌的な風景が目に楽しい。
「ゼーフェルでは"レンジャー"に登録するのが目的です。"レンジャー協会"の支部がある、ヴェーランドから一番近い街なのです。」
"レンジャー"はいわゆる"冒険者"ってやつだ。
レンジャー協会は国とは独立した機関で、言ってみれば大規模な仲介業者だ。
レンジャー達は各地の協会支部で登録、管理されている。
強い者、探索が得意な者、はたまた調査や隠密活動が得意な者...
この世界には特殊な技能に秀でたものが数多くいる。
彼らはレンジャーとして依頼が来るのを待つ。
依頼者は協会に成し遂げたいこと、解決したいことを"クエスト"として提出。
協会が難易度の判定及びレンジャーの募集・派遣を行う。
「レンジャーか...俺たちがレンジャーになる理由は?」
「レンジャーになると国境を自由に渡ることができますし、クエストをこなして"ガルド"を得ることもできますので。」
アストランの貨幣は、"ガルド"という。
もちろん、相応のガルドは持ってきているが旅は長い。
収入が無ければ続けられないだろう。
それに今回の旅ではアリーナはその身分を隠して行くらしい。
流石に氏族がうろついているのはどうか、という事と、他にも内密にしたい理由があるらしい。
俺自身も、レンジャーになるのは少し楽しみだったので、理由は深く気にせずレンジャーになることにした。
ゼーフェルの街。
周囲を美しい山々に囲まれた街。
この辺りではもっとも大きな都市だ。
人通りも多く、意外なほど活気に溢れている。
優しい緑と白、木材の茶色で彩られた中央通り、その一角に目指す場所はあった。
レンジャー協会ゼーフェル支部だ。
ここで、俺たちはレンジャーとなるため手続きをすることになるのだが...
大きな山小屋といった風情の建物、その扉を開ける。
すると...
「ああ!?なんだてめぇ?役立たずは引っ込んでろ!」
俺たちは突然の罵声に出迎えられた。
声の主は、スキンヘッドの大男。
筋骨隆々で厳つい顔立ち。
既に酒に酔っているのか、顔が赤い。
罵声を浴びせられているのは、まだ若い男女の2人組だ。
「てめぇらみたいなやつは、レンジャーの面汚しなんだよ!」
見た所、スキンヘッドが2人組に絡んでいるようだ。
2人組は見るからにおどおどしている。
とりあえず俺はそいつらをスルーして、受付嬢に話しかけることにした。
「あのー、すいません」
びくっと受付嬢がこちらを向く。
黒髪にショートカット、大きなメガネをかけた可愛らしい女性だ。
「は、はひっ?!」
慌てすぎて噛んでしまうところもまた可愛らしい。
「レンジャーになりたいんだけど」
「おい!」
「手続きとかどうすればいいです?」
「おいてめぇ!!シカトかましてんじゃねぇ!」
「なんか試験とかあるんですかね?」
「こるぅらああ!!殺すぞてめぇ!!!!」
突然、俺の肩が荒っぽく掴まれる。
仕方なく俺はスキンヘッドに向き直った。
「なんだよ?あんたらに用はないんだ。そっちで勝手にやっててくれないか?」
「ひっ!!??」
受付嬢が息を声がする。
スキンヘッドは赤い顔をさらに赤くして喚き散らす。
「てめぇ、いい度胸じゃねぇか!!ここはこの俺、"猪突拳"のハッサイ様が仕切ってるんだよ!俺様を無視して勝手にレンジャーになろうなんざ、許されねぇんだよ!!」
"猪突拳"とやらが唾を撒き散らしながら凄んで来る。
「はっ?なんだそれ?そんな訳ないだろ?なあ?」
俺はそう言って受付嬢を見る。
「は、はひっ!!??あ、あわわ、えとその...」
どうやら彼女はこのスキンヘッドにビビっているようだ。
既に涙目になっていて、今にも泣き出しそうだ。
「はぁ…めんどくせぇな全く...」
「てめぇ、マジで殺す...!!ん?その女はお前の連れか?」
"猪突拳"が今度はアリーナに絡み出した。
「ほう、なかなかの器量じゃねぇか...おい、クソガキ!この女を俺に寄越すならレンジャーにならせてやってもいいぞ」
そう言ってハッサイは汚らしくニタリと笑った。
「あん?てめぇ俺が大人しくしてれば調子乗ってんなよ?レディの扱い方もしらねぇのか?」
...どうやら、俺は災難にあう運命に転生したらしい。
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