俺の実力
いよいよ星矢が登場...
誰でも初めてというのはありますよね笑
"破壊者"ドラガス。
全身に筋肉の鎧を纏った巨漢。
とても同じ人間とは思えない、彫像のような肉体の持ち主だ。
こいつのデビュー戦もまた、恐るべきものだったらしい。
ドラガスと対峙したのは、これまた巨大な熊のモンスター、ダークベアーだ。
その力は凄まじく、こいつ一体でそこらの村なら壊滅させられてしまう程。
ダークベアーがその巨大に似合わぬ速度で走り出す。
ドラガスは仁王立ちしたままだ。
あっという間に距離を詰めたベアーは、大きな顎でドラガスの頭に喰らい付いた。
その時、観衆たちは鮮血の赤をイメージした。
果たして赤い血が吹き出たものの、血を流したのは皆の想像と逆側であった。
ダークベアーが口から血を滴らせ、よろよろと後退りする。
ドラガスにはかすり傷一つ無い。
彼はおもむろにベアーに歩み寄ると、その腕をがっしりと掴んだ。
そして…
「グギャガギャアアア!!!」
その腕をちり紙のように引きちぎった。
悶絶するベアーを見下ろし、初めてドラガスはニヤリと笑った。
その手に持つベアーの腕を、なんと彼は喰らい始めた。
ぐちゃぐちゃとモンスターの生肉を咀嚼しながら、ドラガスはベアーを素手で解体
していく。
あまりに凄惨な光景に、それを見た多くの人々が吐き気を催したそうだ。
鮮血に塗れた破壊の王。それが"破壊者"ドラガスであった。
ドラガスが散らかしたコロッセオの清掃を待ち、次の勇者が降り立った。
マリアム・メリディアス。
見目麗しい女傑。
エメラルドグリーンの澄んだ瞳、ブランドの髪を後ろで纏めている。
白く美しい鎧を纏い、身長ほどもある長剣を携えるその姿は、前の2人によって澱んでしまったその場に清涼な風を吹き込んでいた。
彼女に向けて、5体のモンスターが迫る。
全身に醜悪な鎧を身につけた、ウォー・オーク達だ。
オーク達はその手に持つ剣でマリアムへと斬り掛かった。
マリアムは長大な剣を華麗に使いこなし、5体と同時に斬り結んでいる。
長剣一閃、モンスター達を弾き飛ばすと、デモは終わりとばかりに大上段に構える。
振り下ろされた瞬間、長剣は眩いばかりの光を放った。
輝きが去った後、そこにはミリアムだけが立っている。
"聖騎士"の持つ聖なる力で、モンスター達は浄化されてしまったのだった。
これぞ勇者、という姿を見せたミリアムには、惜しみない拍手が贈られた。
この3人が氏族達の剣としてモンスター退治で多大な功績を上げ、後に勇者三傑と呼ばれるようになる。
さて…俺だ。
マジで書きたく無いんだけど、やっぱ書かなきゃダメかな?
はあ…
デモンストレーションは序列通りの順序で進んだ。
アリーナのシェラザート家は序列最下位なので、俺は1番最後にデモンストレーションをすることになった。
俺は恐る恐るコロッセオに出た。
上から見ると気づかなかったが、下に立つと想像以上に広い。
俺は前の世界からの習性で、つい隅の方に寄りたくなってしまった。
コロッセオの反対側にある大きな鉄格子から、一体のモンスターが連れられてきた。
古ぼけた胸当てを付けた小柄な影。
手には小振りの斧を持っている。
ゴブリンの中位種、ゴブリン・ウォーリアーだ。
そいつは口からよだれをだらだら垂らしながら近寄ってきた。
よほど腹が減っているのだろう。
鼻をつく悪臭と、ハエがたかる耳障りな音が聞こえる。
ーお、落ち着け俺…練習通りに…
「ま、魔銃生成!」
身体からすっと力が抜けるような感覚。
それと同時に右手に固い感触が出現する。
俺の固有魔法、魔銃生成とは、文字通り魔力を消費して銃を生み出す魔法だ。
この魔法によって、アストランには存在しないはずの銃器を召喚し、扱うことができるのだ。
だが…
パスッパスッパスッ
生成した魔銃をゴブリン・ウォーリアーに向けて発射する。
…全く効果が無い。
何故かって?
俺の魔銃生成、レベルが最低だからだ。
これもゲームみたいなんだが、魔法にはレベルが存在するものがある。
俺の場合、召喚順序が1番最後だったこともあり、マナが不十分な状態で召喚されてしまった。
そのせいで、本来クラスの持つ固有魔法の力が全く発揮されず、最低レベルになってしまったのだ。
しかもそれは、ガンナー固有特性である銃器操作も同じこと。
どう銃を扱うべきか頭に浮かぶのだが、それはぼんやりとしたイメージに過ぎない。
細部が良く分からないせいで狙いは甘く、見当違いの方向へ弾が飛んで行く。
それが更に焦りを誘い、俺は何事か呻きながらゴブリンに無駄弾を撃ち込むだけであった。
ゴブリンはニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら迫ってくる。
「う、うわあああああああ!!」
俺は悲鳴を上げながら、無様に逃げ惑った。
見下ろす観客達からは失笑と罵声が聞こえる。
しかし俺はそんなものなどどうでも良い程怯えていた。
俺が最も恐怖したもの。
それはゴブリンの目だ。
あいつは俺のことを完全に餌だと思ってた。
俺をどこから食べるか、どうやって食べるか、そんな視線を浴びたのは生まれて初めてだった。
あの黄色い目を、俺は今でも夢に見る。
夢の中で俺はあいつから必死に逃げるんだ。
でも、まるで水の中にいるみたいに身体は重く、どれだけ走っても前に進んでくれない。
俺は怖くて振り返れない。
首の後ろにあの視線を感じるんだ。
逃げて逃げて、それで振り返る。
あいつの姿はない。
でも俺は知ってる。
あいつはすぐ後ろにいるんだ。
もう一度振り返った俺は、黄色い目を見る。
いつの間にか身体は動かなくて、俺はあいつに腹わたから食われる…
痛みと恐怖で絶叫して…
汗でびしょびしょに濡れたベッドの上で目が醒める。
そんな夢。
コロッセオで俺はそれ程までのトラウマを植え付けられた。
追いかけられ、ついには追い詰められて…
あの時とっさにアリーナが俺を助けてくれなかったら、俺はあの夢のようにゴブリンに喰われていただろう。
こうして、俺たちのデモンストレーションは終わった。
俺以外の勇者達は即戦力としてすぐに実戦への参加が決まった。
俺は…
「ふん。どうやらシェラザート家の勇者は全く戦力にならんようだな。そんな奴はもう必要ない。元の世界にお引き取り願ったら如何かな?」
ガバムが俺を嘲笑っている。
俺は先程味わった恐怖でガチガチと歯を鳴らして震えていたため、ガバムの言ったことを理解するのが遅くなった。
「か、帰るって…お、俺はもう、ま、前の世界では…」
ー死んでいる
そう言おうとして、何故か言葉が出てこなかった。
つまりガバムは、俺に死ねと言っているのだ。
勇者召喚の術には、召喚者への絶対服従という印が組み込まれている。
それは強大な力を持つ勇者を制御するためのものではあるが、結局のところ勇者達を縛る鎖だ。
鎖は緩めることもできるし、逆に締め付けることもできる。
死んでしまうほどに強くも…
俺は恐る恐るアリーナを見た。
短い時間だったがアリーナがそんなことをする奴じゃないことはわかってた。
でもさっきの体たらくを見たら、どんな聖人だって呆れかえって俺のことを見捨てるんじゃないかと怖かったんだ。
その時の彼女は…とても美しかったと思う。
アリーナはきっぱりと首を横に振った。
俺に向けてにっこりと笑いかけ、
「いいえ。セイヤ様は私の勇者です。私は彼を信じています。」
そう言ってくれた。
「で、でも…いいのか?」
俺は思わず聞いてしまった。
そんな虫のいい話があっていいのかと。
「セイヤ様、あなたは世界を超えてここに来た。その時点で十分、勇者なのです。それにあなたはさっき、私を助けてくれた。」
「い、いやあれはとっさに…」
「そうです。とっさに表れる無意識の行動こそ、その人の本質だと私は思います。セイヤ様は清らかな心の持ち主だと、私はあの時確信したのです。ガバム様。」
アリーナはガバムに向き直った。
「セイヤ様は必ずや私達を救って下さるお方。我がシェラザート家が責任を持ってその力を引き出します。どうかご容赦を…」
そうして彼女は、深く深く、頭を下げてくれた。
「ふん。好きにするがいい。だが無条件とはいくまいぞ。そやつが功績を上げない限りシェラザート家は13氏族会議での一切の発言を禁止する。これが条件だ。」
ガバムはここぞとばかりに無茶な条件を付けた。
「なっ、そんな無茶苦茶な…!?」
「ええ。いいでしょう。その条件をお受け致します。」
「あ、アリーナ…ちょっと…」
「信じています。セイヤ様。」
こうして俺は、アリーナのお陰でなんとかアストランに留まれることになった。
他の勇者達が戦場に向かう中、俺はアリーナと共に領地に戻り、そこで基礎的な訓練から鍛え直されることになったのである。
その間、約2年。
今思えば、この2年間があったから、俺は英雄とまで呼ばれるような活躍ができたのだろう。
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