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デモンストレーション

朧って言う字にルビを打った方がいいですかね?

"おぼろ"です。

13氏族会議ではその他にも様々な事柄が話し合われた。

いや、大派閥の都合がいい案を受け入れる儀式が行われた、と言ったほうがいいか。

その中でもう1つ、重要な出来事があった。

それは...


「デモンストレーション?」

俺は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

どうやら他の勇者達は知っていたらしく、特に驚いた様子はなかったが。

「そうだ。あなた方はこれから我らの剣となってモンスターと戦っていただくことになる。だが人数が限られる以上、戦闘能力の高い者をより重要な地域に派遣すべきだろう?我々が作戦を検討する材料として、今のあなた方の力を把握しておきたいのだ。」

話しているのは、これまた物凄く傲慢そうな人間のおっさん、メーグル・トランプだ。


こいつはこいつでガバムとは別の派閥を率いていて、後々色んな問題を引き起こすのだが、それはおいおい書こうと思う。

とにかく氏族が見守る前で、俺たち勇者の実力を示すイベントが開催されることになった。


「ちょ、ちょっとアリーナさん...ど、どうしよう?」

この時俺は情けなく慌てふためいていたと思う。

だって、いきなり実力を見せろとか言われても無理じゃね?

俺なんかついさっきこっちに来たとこだったんだから!


「落ち着いてください!セイヤさんはついさっき来られたばかり...それは仕方ないことです。まだ少し時間がありますので、私が説明します。」

...

俺の理解ではこうだ。

まず、このアストランという世界には"魔法"がある。

俺が呼び出されたのも魔法によるものだし。

で、魔法は"マナ"というものを操作することによって発動する。

"マナ"は魂のエネルギーとされており、万物全てに宿っている。

マナは魂のありようによって性質が変化する、つまり使える魔法も魂のありようによって変化する。

そして、俺たち異世界からの渡来者はこの魂の性質が根本的に異なるらしい。

よって使える魔法もかなり特有、かつ非常に強力なものになる。

召喚なんて七面倒なことをする理由はここにある。


で、これはほんとゲームみたいだと思ったんだが、アストランには"鑑定魔法"というものがある。

この魔法は魂の性質を分析することで、対象の使える魔法なんかを確認することができる。

そいつを使って俺を鑑定した結果は...


クラス:"ガンナー"

クラス特性:銃器操作Lv1

固有魔法:魔銃生成Lv1、魔弾生成Lv1

クラスというのは言わば魂の天職だ。

通常、クラスを獲得するに至るのはいわゆる達人とか仙人とかいった類の者だけらしい。

自らの魂の特性に合った厳しい鍛錬を積み、ようやく手に入れることができるもの。

それをいきなり保持している時点で、召喚者の優位性が示されている。

だが…


「が…んなー…??」

アリーナはひどく困惑していた。

逆に俺はガンナーと聞いてすぐに思い当たる節があったのだが。

「ガンナーってあれだろ?銃を使って戦うやつだよな?」

「じゅう?じゅうとは何ですか?」

そう、このアストランには、銃なんてものは無かった。

主たる武器は剣、弓矢、そして魔法だ。

城攻めや大型モンスター用の大砲なんかはあったりするらしいのだが、

基本的には魔法がある時点で銃なんて必要なかったのだろう。

「えっ…?てことは…俺のクラスって、役立たずってこと!?」


クラスにはそれぞれ特性というものがある。

例えば剣技に優れたクラスの場合、当然剣技に長けている。

通常、これはクラスを身につける過程で剣の腕を磨くからで、その鍛錬により魂の在り方が変化して初めてクラスを得る。


では俺のように何もしていないのにクラスを持っている奴はどうなるのか?

これは卵が先か鶏が先か、みたいな話だが、今度はクラスに合わせて俺の方が変化するのだ。

クラスから俺への逆流現象が起こるのである。

で、その結果得た俺の特性は…

「いやいや、銃器操作なんて、銃器が無かったら何の意味も無いんじゃ…」

「そ、そうかもしれませんね…」

という残念なことになりましたとさ…


「い、いやでもまだ魔銃生成ってのがあるぞ!これは?」

「あ、はい。魔銃というのが何かは分からないのですが、これはガンナーというクラスにあった武器を魔法により生成するものだと思います。」

「おっ!てことは、それでなんか作り出せば俺も強いかもしれないんだな?」

この時俺の頭には、いわゆる異世界転生系のテンプレ的展開が浮かんでいた。

つまり、主人公(人生の主役は常に自分だろ?)はめちゃくちゃ強くてオレツエー!!ができると。

それが大いなる勘違いだということは、この後明らかになるんだが...

そのことを素直に書くのは心が折れそうなので、俺たちが試行錯誤してる間何が起きていたか、情報収集した内容を基に書き記しておこうと思う。


デモンストレーションは建前では俺たちの戦力を把握して適切な作戦立案に役立てることだ。

でも当然、本音は別のところにある。

その本質は氏族達の示威行為だ。

"自分たちはこんな強い戦力を有している"と示し、有形無形の圧力を加えるのが目的だ。


そもそもこの召喚術式、召喚する順番が非常に重要なものらしい。

術式が始まった時点で"召喚に利用できるマナ量"から"召喚対象の魂"が選定される。

どちらも有限のものであり、早ければ早いほど多くのマナ量で、より良い魂を召喚することができるのだ。

当然、順序は氏族の序列によって決められていて、序列が高いほどより強力な勇者を召喚できる仕組みになっている。

ようは出来レースであり、氏族間の序列をより強めるためだけのデモンストレーションであった。


デモンストレーションの方法は簡単。

コロッセオのような場所にモンスターと共に閉じ込められ、そのモンスターを倒すこと。


そして今、コロッセオに1人の男が降り立った。

儚げな雰囲気を纏い、かなり整った顔立ちをしているのだが、その目の放つ強烈な負の印象が全てを台無しにしてしまっている。

焦点は虚ろ、目の下の深い隈。

まるで両目が陥没してしまっているかのようだ。

彼の名は水無月 朧。

序列1位であるガバム・マクシミリアンにより召喚された勇者である。


少年と言って差し支えない朧の前に、その3倍はあろうかというモンスターが放たれようとしていた。

鎖に繋がれ、男10人がかりで押さえつけられているモンスター、トロールである。

ざわざわと騒ぐ観衆達を尻目に、ついに鎖が外されトロールが朧に迫る。

トロールは朧の体よりも太い腕を振り上げた。

その場の誰もが、朧の悲惨な死を想像した。


しかし...

「ぐあっ!!????」

トロールは動かない。

いや、動こうとしているのだが動けないのだ。

見るとトロールの身体中に黒い鎖のようなものが巻きついている。

細く頼りなさげなその鎖は、しかし凄まじい力でトロールを押さえつけていた。


朧はその手に持った大きな本を開いた。

彼が何事か呪文のようなものを呟くと、急にあたりが暗く陰る。

唐突に宙に出現した漆黒の球体が、あたりの光を食い尽くしながら膨張する。

鎖に絡めとられたトロールが、球体に吸い込まれるように宙に浮いた。

「ぎゃああああああ!!!!」

球体はトロールを飲み込んだ瞬間、急激に収束、とてつもない爆発を起こした。

漆黒の炎が空を覆い尽くし、辺りに一瞬、夜が訪れる。


そして爆炎がコロッセオにまで及ぼうとしたその時、朧はパタンと本を閉じた。

瞬きをする間に、嘘のように夜はかき消え、昼が戻っていた。

ぽかんとした顔で立ち尽くす人々を尻目に、朧は踵を返して引き上げていった。


彼のクラスは、"冥王"。

闇と死を支配する冥界の王の力を得た。

圧倒的なまでのその力は、人が持つべきものではなかったと俺は思っている。

もしあの力が俺に与えられていたら…やはり俺も彼と同じ悲しい運命を辿ったのだろうか。


この時のデモンストレーションで特に目立ったのはあと3人。

"破壊者"のクラス、ドラガス・ジェイソン。

"聖騎士"のクラス、マリアム・メリディアス。

そして…俺だ。

読んでくださっている方、ブックマークして下さった方、評価つけて下さった方、いつもありがとうございます☆

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