ウィーゼル復興祭
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アルデバランの襲来から、1ヶ月が経過した。
あれから襲来の予兆はない。
前回、奴が出現する寸前に俺たちが目撃した壊魔の大量発生。
それが来襲の引き金になったのではないかと考えられていた。
大森林内を隈なく探索し、また黒い森が無いかを虱潰しに調べている。
また、もし壊魔が現れても速やかに殲滅できるよう常駐軍を集結させてもいた。
これで少しは安心できるだろう。
さて、ウィーゼルは復興に向けて邁進している。
破壊された建物は、街の人々やレンジャー達の尽力で再建されつつある。
そんなある日…
「復興祭?」
「はい!ビンス王からお達しがありまして…」
シェリーさんが何故かドヤ顔で説明してくれたところによると、近々大きなお祭りが開催されるらしい。
これまでの慰労や亡くなった人々への鎮魂、そしてこれからの復興に向けてだそうだ。
「そこで何かいい出し物がないか、案を募っているという訳ですよ!」
「なるほどなぁ…」
俺はううんと思案する。
出し物か…
「そうだなぁ…ミスコン…とか?」
チラッと俺はアリーナを見た。
今日も彼女はキチッと動きやすく、だが綺麗な格好をしている。
しかし…ミスコンを開けばきっと…
「みすこん?何ですかそれは?」
アリーナとシェリーさんの声がハモる。
こっちでは一般的ではないのかもしれない。
「えーっとなんというか…」
『ミスコンそれは美しさを競う美の祭典美しいものは強く強いものは美しいそうそれは美への敬意と憧れが渦巻く戦いの場そこに集うものは鍛え上げた己の肉体美を武器に戦う正に剣闘士とさえ言えるでしょうつまりマスターが求めるのはカクカクシカジカで…』
突如、ピタゴラスが怒涛の語りを見せ始めた。
-こいつ…こんなキャラだったのか…!?
「えーっと、それはつまりどういう?美しさを…競う?」
「そうそう!ようは誰が1番美しいかを競うんだよ。」
俺はミスコンについて説明した。
「特技とかを披露したり、あとはまあ…そのう…水着とか…」
「水着?何故?」
「いやほら、美しく鍛えた身体を見せつけるというかなんというか?」
「…セイヤさん?」
アリーナがジトっとした目で俺を見てくる。
-ヤバイっ!下心がバレバレだ…!?
「いやいやいや、決してほらそういうんじゃなくて…」
『マスターはただただアリーナさんの美しい姿を目に焼き付けたいのですそれはマスターがこちらに来られた時の貴方の姿が脳裏に焼き付いているからでいついかなる女性を見た時も…』
「うわー!!!おめえぇぇ何言ってやがんだあぁぁぁ!!!??」
俺は大騒ぎでピタゴラスを黙らせた。
-最近こいつの手綱が握りきれない…
アリーナはというと、顔を真っ赤にしている。
「あー、ごめんなさい…動機が不純すぎました…ミスコンは無しの方向で…」
「いえっ!せ、セイヤさんが…そういうことなら、や、やぶさかではないというか、ね?シェリーさん?」
「はわっ!?わ、私!?私はちょっと…いや、アリーナさん顔が怖い…!?た、楽しそうですよね!ぜ、是非やりましょう!」
そんなこんなで、何故だかミスコンの開催が決定した。
ちなみに、女性部門だけで無く男性部門も開催されるとのこと。
ハッサイのおっさんが俄然やる気になり、急に筋トレを始めたとか。
さて、言い出しっぺの俺はミスコンの開催準備に協力することになった。
まずは出場者を集めることにした。
「あー、美音ちゃん?ちょっと話があるんだ。」
「セイヤさん?どしたの?」
「実は…」
「ミスコン…?セイヤさん…エロいこと考えてません?」
美音がジトっとした目で俺を見てくる…
-くぅ…ずばりその通りだ!何も反論できん…!
「いいじゃないか!美音ちゃん、出場しなよ!」
そこにまさかの味方が現れた。
フランズだ。
「ええっ!なんであたしが…」
「だって一位にはすごい賞品が出るって…ねぇ?」
フランズの顔が怖い。賞品なんてなんも考えてないぞ…っと思いながら、俺は話を合わせる。
「そうそう!これはビンス王お墨付きの企画だし!優勝したらなんでも好きなもの貰えるって!」
「ま、まじ…?何でもいいの!?」
俺はフランズと顔を見合わせた。
お互いの考えていることが手に取るようにわかる。
-よし!もう一押しだっ!
「それに、美音ちゃんは名前が知られてるから有利だよ!けっこうファンも多いんだからさ!」
「ふ、ふあんっ!?あ、あたしに!?そ、そ、そうなのかな!勝てるかな!?」
「勝てるよ!僕もファンクラブのメンバーに根回ししとくからさ!」
「やったー!!なら、出場しよっかな!ふふふ〜優勝したら、何買ってもらおっかなぁー!ん?フランズ、なんでファンクラブのメンバーなんて知ってるの…?」
「えっ!?いや、それはほら…僕も何回もこの街に来てるからたまたまね!?」
「ふーん、まあいっか!じゃセイヤさん、あたし出場するね!」
「お、おう。ありがとな。あと、お前の学校の友達にも声掛けといてくれよ。チラシ作ってきたから適当にばら撒いてくれるだけでいいし。」
俺はそう言ってチラシを1束美音に渡した。
美音は有名人なので、これでけっこう集まるだろう。
後は…
「みすこん…?」
俺はワッツを捕まえてミスコンについて説明した。
もちろん、ターゲットはワッツではない。
「あのー、クロエ、話があるんだが…」
俺が物陰から見守る中、ワッツが果敢にクロエに仕掛けた。
身振り手振りで必死に説得している。
-ん?俺?もうジト目で見られるの嫌だから俺は手伝わないの。大丈夫、ワッツはやる時はやる男さ…
-あ、無理?そんな捨て犬みたいな目で見ないで…
仕方なく俺も加勢し、ビンス王公認の企画だということ(嘘だが)、賞品が出ること(多分ね)、既に多くの出場者がいること(これからさ)を畳みかけた。
「アリーナも美音も出るんだぜ!どうだ!?」
「アリーナさんまで!?い、一体どれだけの賞品がっ!?いや、でもアリーナさんや美音さんが出るなら私なんか…」
「いやいやいやいや!賞品は優勝者だけじゃ無くて!優秀賞とか色々あるから!」
「そうなんですか?…なら頑張ってみようかな…」
「そうだクロエ!俺はクロエの水着が見たい…じゃなくてクロエを応援するぞ!」
-いや、ワッツ君もう全部言っちゃってる…
「よし!じゃあ決定!!あとは知り合いに声を…」
「ほう、なかなか面白そうな企画じゃないか。」
そこに現れたのは、アストランには珍しい、黒髪を腰辺りまで伸ばした美女。
「ランシアさん!ランシアさんも出ましょうよ!」
「当然だ。勝負とあらばどんなものでも受けて立つぞ。」
-なんだかこの人、色々勘違いしてそうだけどまあいっか…
「じゃあ、ランシアさんも参加ですね!他にも出たい人がいたら声を掛けておいてください!」
こうして、思いも寄らないほど出場者はスムーズに集まって行くのだった。
宿屋にて…
「はあ〜疲れた…」
俺は山のように集まった出場依頼の書類を放り出して一息吐いた。
この宿屋は今、復興祭の事務局が貸し切っている。
俺は事務室に使われている一室で机に向かっていたのだった。
「お疲れ様です。すごい数ですね…」
アリーナが目を丸くしている。
「そうなんだよ…まさかこんなに集まるとは…」
俺は残っている大量の書類を見てげんなりした。
「あのー、セイヤさん。お忙しいところ悪いんですけど、ご相談が…」
あ アリーナがもじもじしながら相談事だと言う。
「ん?どうした?」
「いえ、その、どんな衣装が好みなのかなと…思い…まして」
ミスコンでは各人、思い思いの衣装を着て特技を披露してもらう。
その衣装について俺の意見を求められている訳だ。
「えーっと…そうだな…」
俺は頭にアイドルが着ていそうな衣装を思い浮かべた。
そしてそれを勝手にピタゴラスがアリーナに伝えた。
「こ、これは!?なるほど、セイヤさんはこういうのが好みなんですね」
「ちょっと待てこらぁぁぁぁあ!!何してんの君!??」
『そうマスターはそのような服をアリーナさんに着て欲しいのですきゅっと締めつけられることにより際立つ体の曲線美は美しいラインを持つアリーナさんにぴったりですしスカートの下から覗く絶対領域の危うさは垂涎もの更に普段は少し固い服装の多いアリーナさんが着ることによってその破壊力たるや即死級の…』
俺は無言でピタゴラスを強制シャットダウンした。
恥ずかしすぎて今、俺が死にそうだ。
「わかりました…!この衣装を着て勝負を挑みたいと思います…!!」
何故だか俄然やる気になったアリーナは、走って部屋を飛び出して行った。
なんだか色々…まあ、いっか。
そして復興祭当日。
ミスコンは夕方から。
なので昼間は妙にそわそわしているアリーナと出店を巡ることにした。
「あ、セイヤさん!あれ、美味しそう!」
と言って甘味を頬張り、
「あれ、可愛い…」
と言うので的当てをしたりした。
そして…
「さあさあついにこの時がやって参りました!ウィーゼルで、最も美しいのは誰か!??それが今!!ここで決まるぅぅぅうう!!!」
ウィーゼルミスコンの始まりだ。
「司会進行は私、オーストンラジオ局のDJ、オチケ・タロウが務めさせて頂きます!」
彼はこの国で1番人気のあるラジオDJなんだそうだ。
「エントリーナンバー1番は、なんとレンジャー協会事務局からまさかの参戦!!!その隠しきれない曲線美に惚れた男は数知れず!罪深き受付嬢!!シェリー・マグナットォォ!!」
シェリーさんが顔を真っ赤にしておどおどステージを歩いてくる。
完全に上がってしまっているようだ。
可愛らしいドレスに身を包み、パックリと空いた胸元は、魅惑的な曲線を見せつけている。
1番先端で何かしら披露してもらうはずだったが…
歩いてきて、そのまま歩いて去ってしまった。
「どんどん行くぜ!お次は…」
ランシアさんは身体にぴったりと張り付くようなチャイナドレス。
凄まじい槍捌きを披露していた。
クロエは妖精のような衣装。
背中に羽まである凝りようだ。
武道の型を披露してくれる。
その小ぶりな山が揺れるたび、ワッツ君が狂ったように喜んでいたのは言うまでもない。
「お次は優勝の大本命!!!我が国が誇る可憐な勇者の登場だぁぁあああ!!!」
うおおおおっ!と今までの倍くらいの熱気が上がった。
「奥村ぁぁぁあっ美音んんん!」
一瞬の静寂の後、ステージは凄まじい歓声に包まれた。
本当にアイドル並みの人気だ。
美音は黄色いふりふりのドレスを着ている。
そして頭には…猫耳だ。
肩からは勿論ギターを下げている。
尻尾を模したものが揺れるたび、男共の理性が吹っ飛んでいく。
美音は照れ臭そうな笑顔を見せながら、ステージの先端へ。
そこで、歌う。
しっとりとしたバラードだ。
愛し合う男女を歌い、最後は踊り狂う観客たちに向かって真っ直ぐに手を伸ばす。
その手を握れるなら、どんなことでもしそうな男達がステージ真下に陣取っている。
ファンクラブというやつだろう。
勿論、フランズもちゃっかりその中にいる。
美音が下がった後も、しばらくは熱狂が続いた。
「あちゃー、流石に決まっちゃったかな…」
しかし、次にステージに上がったアリーナへの歓声も、これまた凄まじいものだった。
アリーナは白をベースにした衣装。
斜めに締め付けられるようなスタイルが、大きく開いた胸元の美しい膨らみを強調している。
短いスカートが際どく膨らみ、見えそうで見えない、魔の領域を生み出していた。
顔はびっくりするくらい赤い。
スカートを何度も押さえようとし、その度に堪えている。
余程恥ずかしいのだろう。
彼女はステージ先端で、しばし視線を彷徨わせている。
俺はアリーナに大きく手を振った。
流石に気付かないと思ったが…
アリーナは俺に気付き、そしてにっこりと笑った。
手を真っ直ぐに天に掲げ、艶やかに踊り始める。
後で聞いたところによると、それはエルフに伝わる伝統的なダンスなんだそうだ。
妙に官能的に見えるその姿に、観客たちは見惚れて静まり返った。
そしてダンスが終わり、深々と礼をしたアリーナに、その日最大級の拍手が贈られたのだった。
次は水着である。
ステージに全員が出てきた。
最早採点などお構いなく、それぞれが自分の推したい出場者を目で追っている状態だ。
それぞれシェリーさんの迫力あるプロポーションや、クロエや美音の可愛らしい水着。
そして俺はアリーナの白く美しい肌しか見ていなかった。
なんやかんやでその日最高潮の盛り上がりを見せ、ミスコンは終わった。
ちなみに、優勝は美音。
アリーナとかなり競ったが、組織票により僅かに上回った形だ。
その後の賞品選びがものすごい大変だったのは、言うまでもない。
「お疲れ様!」
俺はステージを終えたアリーナに声を掛けた。
「あ、セイヤさん!」
俺は理性の力を総動員して、自分の視点をアリーナの眉間に固定していた。
「あの…どうしました?」
「えっ?いや、何でもないよ?」
アリーナは恥ずかしげに自分を見下ろしたあと、
「ど、どうですか?変じゃないですか?」
と聞いてきた。
「えっ、そうだな…」
『めちゃくちゃかわいいですとマスターは思っています』
「!!!??テメェまた!!いや、まあ事実だけども!!!」
「ホントですかっ!嬉しいです」
まるで大輪の花がそこに咲いたような、とても眩しい笑顔でアリーナが笑う。
俺はこの時だけはピタゴラスに感謝した。
「この後、大広場でダンスパーティがあるんだってさ。一緒に行こうぜ!」
俺はアリーナを誘い、大広場までやって来た。
どうやらこれは美音の発案らしく、ダンスパーティというよりは盆踊りのような雰囲気だ。
なんと浴衣が貸し出されていたので、俺もアリーナも雰囲気にあやかって浴衣に着替えた。
中央では煌々と火が燃えており、広場全体を優しいオレンジ色に染めている。
夜の闇、オレンジの光、白い肌、金色の髪。
土の臭い、出店から漂う旨そうな匂い、そして花のような香り。
俺はその極彩色の時間をゆっくりと噛みしめた。
美音がステージに立ち、演奏を始める。
皆、それに合わせて思い思いに踊っている。
アリーナが俺の手を取り、ダンスに誘う。
俺は踊れない自分を情けなく思いつつ、彼女の導きに従って身体を動かす。
少しずつ余裕が出てきて、俺たちはお互いの目を覗き込んだ。
見慣れている筈なのに、いつもと違う光を宿す瞳に鼓動が高鳴る。
初対面であるかのような、それでいてずっと一緒にいるかのような、恥ずかしいような嬉しいような不思議な気持ちに包まれる。
炎に照らされ、薄らと上気した顔はとても美しく、俺は思わず見惚れた。
お互い、後一歩を踏み出すか悩んでいる、俺はこの時そう感じた。
踏み込みたいような、今のままでいたいような気持ち。
俺が自分の本当の気持ちを確かめようとした時、ちょうど音楽が終わった。
残念な気持ちと、ほっとする気持ちが半分ずつ入り混じる。
そんな中途半端な思いも、俺にとってはかけがえのないもの。
この世界で確かに俺が生きた証として、大切に胸に仕舞い込んだ。
ビンス王が広場に来て、亡くなった方々への追悼を述べる。
俺たちはどちらともなく手を繋ぎ、失われたもの、そしてこれからのことに心を馳せた。
黙祷を捧げる。
暗闇の中で、右手に伝わる確かな暖かさを、俺はしっかりと握りしめた。
こういう、戦いとは直接関係ない話をちゃんと書いていかないと、キャラクターを掘れないなと思った次第です。




