決着
美音のところは、YouTubeで実際に聴きながら書きました。
実際に感じたことを書いたので、感想に近いですね。
素人の僕でも、すごいなって思う演奏でした。
俺は着地早々、最大威力の砲撃を奴に叩き込んだ。
「オーバード・バースト!!」
青い閃光がアルデバランに直撃し、堪らず奴が膝をついた。
その隙に、フランズが皆を助けていく。
森でアルデバランに遭遇したあと、俺たちは大急ぎでウィーゼルへと戻った。
奴が街の方に向かったのを見たからだ。
果たして想像通り、アルデバランはウィーゼルに向かっていた。
なんとかギリギリ間に合った…のだろうか。
ワッツは大丈夫そうに見える。
だがそれ以外の人々は、皆怪我を負っていて戦闘に復帰できそうも無い。
「怪我人はあたしが何とかするよ!時間を稼いで!」
美音がまた無茶を言ってくる。
「時間稼ぎ...ね。ああ、わかったよ!」
俺はヴィルヘルムを構えた。
そうそう何発も撃てないのだが...
「僕も手伝います」
にょきにょきと植物が生え、アルデバランに絡みつく。
「おいおい、そんなんじゃ...」
フランズはにっこりと笑った。
「大丈夫ですよ。僕には、これがありますから」
彼は緑色に光る指輪を掲げた。
「彼らを導け。起源の解明者」
緑の輝きを浴び、植物達が劇的な成長を見せる。
蔦は枝に、茎は幹に。
葉はより巨大に。
根はより広大に。
世界を支える樹。
雄大な姿からその樹はそう呼ばれている。
植物の王者。
「世界樹!」
世界樹は怪物を締め上げ、その動きを止めた。
苦悶の声と世界樹の軋む音が木霊する。
何とか時間が稼げそうだ。
そこへ、エレキギターがかき鳴らされる音がした。
「あいつ、何する気だ...?」
「ああ、あれは美音ちゃんの神器だよ。僕はけっこう好きだな。」
「好き...?」
「聞いてればわかるよ」
「いっくよー!!革新の演奏家!!」
ぞわっと鳥肌が立つような、弦の音が響いた。
まるでギターが歌っているようだ。
弾くたびに音の、表情が変わる。
ある時はすっと入り込むような、また次の瞬間には叩きつけるような。
知らず、体温が上がっていくのを感じる。
戦闘中であるにも関わらず、その場を支配していたのは確かにその音楽だった。
美音が歌っている。
頭を振って一心不乱に。
身体の中にある感情を出し尽くすように。
あんな風に思いを形にできるのは、幸せなことかもしれない。
人はみんな、自分を表現するのが苦手だから。
不思議なことに、倒れていた人々が起き上がっていく。
俺も、比喩などではなく身体に力が漲るのを感じた。
「これは?」
「あれが彼女の力なんだ。耳を傾けるものに力を与える。」
フランズはうっとりと彼女を見ながら言った。
この荒んだ地で舞い歌う彼女は、とても美しかった。
思わず拍手を送りそうになる程に。
長い長い独奏が終わり、その場がふっと緩んだ。
美音は少し、恥ずかしそうだ。
俺たちは夢から覚め再び戦場に舞い戻った。
不思議なことに、アルデバランもまた、その音楽を聞いていたように感じる。
じっと美音を見る巨獣からは、静かな知性すら感じられた。
だがそれも束の間のこと。
再び怒りのまま、怪物は暴れ始める。
世界樹がバリバリと悲鳴を上げた。
もう長くは持ちそうにない。
だが今度はこちらも陣容が整っている。
あちこちから、アルデバランに攻撃が加えられた。
「何とか持ち直したけど...」
「ああ。決め手が無いな。」
あの巨体を沈めるには、どうすればいいのだろう。
「セイヤさん!」
ワッツが息を切らしてこちらに駆け寄って来た。
「対星獣爆縮弾?」
「はい。隊長...ジョージさんが残してくれた最後の1発が。」
俺は考えを巡らせる。
オーバード・バーストもその対星獣爆縮弾というのも、やつを倒すには至らない。
だとしたら...
『2つを同時にぶつける以外ないと考えられます。』
ピタゴラスと俺が同じ答えに至った。
「同時にね。なかなか骨が折れそうだ。」
アルデバランから距離を置いて、再び戦士達が集結する。
「おう。やっぱ無事だったな。」
見知った顔が無事で、俺は嬉しかった。
「カッツさん!」
「あんなのをやっつけにゃならんとは...やれやれだな。」
「ホントですよ。」
「実はちょうどあいつの進路上に、とっておきのやつが埋まってるんだ。」
「とっておき?」
カッツさんによれば、事前に用意してある流砂があるらしい。
「そこにやつを呼び込んで...」
「ああ。そうすれば足止めできるはずだ。」
「あとは俺のオーバード・バーストと対星獣爆縮弾を同時にぶち込むだけか...」
「そんな都合よく狙えるのか?」
「砲弾の方は私が何とかします」
砲弾はアリーナが風魔法でうまく誘導すると言う。
今出せる火力の最大値で、アルデバランを迎え撃つことになった。
アルデバランがこちらに向かって来る。
何でも来いと言わんばかりの堂々とした歩みで。
「よし!流砂地帯に入った。時間稼ぎは任せたぞ!」
カッツさん達が準備に取り掛かる。
「まかせて!行くよ、世界樹!!」
世界樹が再びアルデバランに挑む。
足元から爆発的に伸び上がった巨木が絡みついていく。
アルデバランは歩みを止めると、低く唸りながらその身にマナを集め始めた。
目に見えて空気が赤く染まっていく。
雄叫びと共に、巨体がまとったマナが灼熱の炎として具現化した。
炎に炙られ、世界樹が悲鳴をあげる。
「何でもありかよあの野郎...!!」
「おい!もう少し時間を稼いでくれ!まだ流動化には時間が...!」
「それは私に任せてもらおう。」
蒼い槍を構えたレンジャーが歩み出た。
「さあ、巨獣よ!もう一勝負といこう!」
彼女が槍を地面に突き立てる。
「氷槍疾走!!」
大地から青い槍が立ち上った。
巨大な氷柱は地を疾るように次々に立ち上がっていく。
より大きく、より美しく。
「氷鳥の舞!!」
アルデバランを囲うように四方から突き出した巨大な氷柱から、無数の翼が舞った。
白く美しい鳥達が荒れ狂い、炎すらも凍りつかせる。
「今だ!流砂生成!!」
白く染まったアルデバランが、がくんと沈み込んだ。
カッツ達の作り出した流砂だ。
「よし...これで!」
捉えたと思った瞬間。
巨獣の腕が振るわれ、氷柱の1柱が破壊された。
さらにもう1つ。
白銀が勢いを失い始める。
傷ついた世界樹が締め上げるが、それでもアルデバランは止まらない。
「なんて怪物なんだ...!あれじゃ流石に狙えんぞ!」
「ちょっとフランズ!頑張りなさいよ!」
美音のギターが再びかき鳴らされた。
音楽に力を得て、フランズが世界樹にありったけのマナを込める。
破壊された幹から次々と新しい芽が息吹いた。
それらは見る間に世界樹を覆い、満開の花が咲く。
花びらは陽の光を跳ね返し、怪しく輝いている。
周囲に甘ったるい匂いが充満した。
「吸わないで!世界樹の花には強力な麻痺効果があります!」
大量の花に囲まれ、巨獣の動きが目に見えて鈍った。
その腕を振るうものの、絡みつく世界樹を振り払えない。
「今だ!対星獣爆縮弾、発射!!」
発射された砲弾を、アリーナが風魔法で誘導していく。
「ウィンディング・ロード!」
最後の爆縮弾が、まっすぐにアルデバランの口に吸い込まれた。
その瞬間、砲弾内のマナが解放。
圧縮弾が起爆される。
「喰らえ!オーバード・バースト!!」
青い閃光が巨獣に突き刺さり。
砲弾が怪物の内部で大爆発を起こした。
青白い太陽が出現したかのように周囲は染め上げられ。
遅れて爆音と暴風が全てを薙ぎ倒した。
静寂。
あまりの轟音に晒されたからか。
モノクロの世界。
閃光に目が射抜かれたのか。
一瞬、見知った世界が裏返ってしまったかのような光景が広がる。
それは不思議と心安らぐ光景だった。
やっと世界が音と色を取り戻した時、俺は大地にぶっ倒れていた。
頭を振りながら、爆心地を見やる。
「...まじかよ」
もくもくと上がる土煙から、その巨体がゆっくりと姿を見せた。
あれだけの猛攻を受けながらも、その姿は少しも揺らがない。
奴はその身を屈め、はっきりと俺のことを見据えた。
俺は奴と目が合う。
その目に今、怒りは無い。
凪を思わせる静かな目。
やたら長く感じる数秒間。
目を逸らしたら負ける気がして、俺はずっと奴の目を見返していた。
やがてその大きな目が細められ、ゆっくりと閉じられた。
顔が離れていき、やがて見えなくなる。
轟音とともに巨体が踵を返した。
怪物が歩み去っていく。
「なんとか見逃してもらえた...か。」
俺たちはその雄大な後ろ姿をただ呆然と見送っていた。
振動が段々と弱まっていき、遠く鳴る雷のような音となり、やがて聞こえなくなった。
最後に一度、その咆哮が響く。
まだ終わっていないと、俺たちに釘を刺すかのように。
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