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駆け出しレンジャーの手記 -ワッツ・ジョーンズ アルデバラン襲来

ついに20話!!脳みそから血が出そう笑

途中、有象無象のレンジャー達がグダグダ言うところは、某漫画の"ザワザワザワ"みたいな感じで何人かがざわついてる感出したかったんです...どうでしょう笑

なんか違う気がするw

昔、俺の育った村に行商人がやって来たことがある。

世界中を旅して来て、色んな話を聞かせてくれた。

田舎育ちの俺には嘘みたいな話ばっかだったな。


蒸気を上げて大地を駆ける鋼鉄の怪物。

天空に浮かぶ城。

国よりも大きな塩水の水たまり。


中でも1番印象に残ってるのは、やっぱりバベル・タワーのことだ。

世界で一番大きな城。

エルフの大国、エルフェイムの真ん中にあるらしい。


大昔に実際にあった伝説の城、バベル城。

13人の英雄が集い、人類の礎を築いたとされる世界最大、最高の城。


バベル・タワーはその伝説を超えるために、あらゆる技術を結集して建造された人類の叡智の結晶。

天を衝くその姿は、まさに人類が神の領域に踏み出した証だって行商人は言ってたっけ。

あまりの大きさに、道行く人はみな空を見上げて涙するとか。


あいつを初めてこの目で見て、俺はそんな話を思い出していた。

想像を超えて巨大なものを見た時、人は涙をこぼすものなのかも知れない。


東から射す陽の光が、その威容を照らす。

西側には、街一つ入ってしまいそうな影が伸びていた。

まだ相当な距離があるにも関わらず、その一歩で地響きが伝わってくる。


長大な角が天を突き刺すかのように聳え立ち。

赤い体毛に覆われた彫像のような肉体からは、マグマのようにマナが溢れ。

真紅の相貌は射抜くようにこちらを見据えている。


およそそれは人の及ぶものではなく。

まさに大地そのものの化身に思えた。


「ああ…神よ…」

「嘘だろ…あんな…」

「おしまいだ…もう…」


あちこちから、絶望の声が聞こえた。

俺は隣にいるクロエの手を握りしめる。

震えているのはお互い様だろう。


「ちっ…神さまよぉ!とんでもないもん作ってくれやがって…!」

流石のハッサイさんも、衝撃を受けているようだ。


この2ヶ月、俺たちは散々そいつについて聞かされた。

頭の中で思い描き、対策もしてきた。

だが今、そんなことは無意味だったのではないかと俺は思っていた。


所詮俺たちが何をしようと、あの神の如き怪物に勝てるはずが無いと。


「やっと来た」

静まり返った本陣に、ジョージさんの声がぽつりと響いた。

「この時をずっと待ってた」

ふらふらと、ジョージさんが前へ出た。


「俺たちは色んなものを無くした…故郷、友人、家族…奪ったのは誰だ?」

誰も何も喋らない。

それほど大きくない声なのに、全員がジョージさんの声を聞いている。


「あいつだ!!!あいつが全部奪ったんだ!俺は待っていた!!復讐だ!」

そうだ、と声が上がった。

復讐だ、と。

特にウィーゼル出身者の間でそれは顕著だった。


「ウィーゼルはまだ生きている。失った分だけ、より強く!恐れるな!!今日こそが無念を晴らす日だ!!」

大波のように声が上がった。

怒り、悲しみ、怨恨、そして恐怖が入り混じった声。


「進め!ウィーゼルよ!!」

ジョージさんが先陣を切って駆け出した。

ウィーゼルの人々が、それに続く。

異様な熱量だ。


それに比べて、俺達外様のレンジャーの温度は上がらない。

彼らほどの怒りが無いからだ。

恐怖が勝ってしまっている。


「正気じゃない…」「無理だ…」「勝てるはずがない…」「あんな怪物に…」

そんな声が聞こえる。

正直俺も、そう思っていた。


「やかましい!お前らはレンジャー失格だ!!!」

良く知る声が、そんな弱気を一喝した。


「何を!?」「てめぇ何様だ!」「お前如きに…!」「現実を見ろ!」


「はんっ!情けない…!お前らはレンジャーってものを何にもわかっちゃいない」

「言わせておけば…!」「Cランクの分際で…!」「お前に何がわかるってんだ!」


「わかるぜ。俺はレンジャーがどういうものか分かってる。」

ハッサイさんは、胸を張って告げた。

「レンジャーってのはなぁ、挑む者のことさ!」


「挑む…者…」

「そうだワッツ。レンジャーってのは仕事とか職業じゃねぇ。生き様だ。苦難や困難にぶち当たった時。弱者は逃げろ。強者は足掻け。そしてレンジャーなら…」

「笑って挑め!…でしょ?」


「あれは…」

「Sランクの…!?」

「"蒼槍"のランシス!?」


「なんだあんた、分かってんじゃねぇか」

ハッサイさんは歩み寄ってきた女性に言った。

彼女は華麗かつ苛烈な槍捌きを誇り、"蒼槍"の異名を持つレンジャー。

"蒼槍"のランシス。


「この状況でその啖呵が切れるなんて…あなた大した男ね。それに比べてそこらの自称レンジャー共の情けないこと」

彼女は冷たい目でレンジャー達を見据えた。

その怜悧な美しさも相まって、氷のような空気が流れる。


「私は行くわよ。情けなく逃げ出すなんて生き恥晒すなら、ここで華々しく散る方がよっぽど良い。弱者はうちに帰って震えてれば?」

「何を…!」「言わせておけばぁ…!!」「舐めやがって!!」


「悔しかったらレンジャーらしくすれば良い。それに、貴方達忘れてない?確かにあれは怪物だけど…」

今度はハッサイさんが言葉を継いだ。

「怪物はこっちにもいる。」


「怪物って…」

「あいつらは必ず帰ってくる。そうだろ?」

「史上最強の…」「そうだ…それに12勇者もいる…」

「彼等が戻った時、露払いくらいできてないと後で合わせる顔もないでしょ。」


そう言ってランシアさんは蒼く美しい槍を掲げた。

「さあ…!ここに本物のレンジャーが何人いるのか!見せてみろ!!」

走り出した彼女につられるように、周りにいるレンジャー達も戦場に向かい始めた。


俺はしばし迷い、クロエを見た。

どちらともなく頷き合い、同時に駆け出す。

無理矢理に笑顔を浮かべて。


徐々に奴が近くにつれ、その全身を視界に入れるのが難しくなって来た。

俺たちは緩やかな丘の上に集結している。

アルデバランはそれを見て、まっすぐこちらに向かって来ていた。


「射撃準備!まだ撃つなよ!それから、カッツ!いけるな!」

「ああ、いつでもいいぜ。」

「対星獣爆縮弾は?」

「問題ありません。」

「よし...!」


今や地響きは地震となっている。

動く地震とは…何の冗談だろう。


巨大から吹き下ろす風の音が聞こえる。

迸るマナに当てられて、身体が熱く感じた。


ランシアさんがその槍に、青い冷気を纏わせる。

俺たちなんかとはレベルが違うのがはっきりと分かる。

アルデバランもそれに気付いたのか、足を止めた。


「大地の化身よ!この"蒼槍"のランシアが、お相手仕る!!」

ランシアさんの名乗りに応えたのだろうか。

巨獣が全身を震わせ、吠えた。

火山が目前で噴火したらあんな音がするだろう。


「行くぞぉぉ!!!蒼龍槍!!!」

槍から解き放たれたマナが、一直線に怪物へ突き進んだ。

青い光は途中でその姿を具現化する。

蒼き冷気を纏いし氷の龍へと。


蒼龍が哮り、巨獣が猛った。

龍は絶対零度の鎖となって、アルデバランを縛り上げた。

「氷花葬!!」

氷の龍が青く輝き、爆ぜた。

氷の花が無数に咲き乱れ、辺り一面が白銀に染まる。

生あるものを拒む、美しい白の世界。

他方もないマナが込められた必殺の槍。

しかし…


「くっ…流石だな…!」

轟きわたる爆音に、白の静寂は儚くも打ち砕かれた。

赤い目が、はっきりと怒りの色を帯びる。


アルデバランがランシアさんに向けて進撃を始めた。

土煙が吹き荒れる。

激しい揺れに大地が軋み、立っているのがやっとだ。


ジョージさんが腕を大きく振った。

攻撃開始だ。

大砲が火を噴く。

魔法が繰り出され、矢が空を駆けた。


しかし全く効かない。

アルデバランの歩みは止まらない。

だがそれでも撃ち続ける。

そして…


「今だ!!流砂生成!!」

カッツさんを始めとした操作系の魔術師達が一斉に大地にマナを注ぎ込む。

それは、対アルデバランのために用意された罠だ。

あらかじめマナを大量に注ぎ込まれた大地は、最後の一押しで一気に流動化した。


アルデバランがぐらつく。

流動化した大地がその巨体を支えられなくなり、下半身が一気に流砂に呑みこまれた。


怒り狂った巨獣。

その顔面に向けて次々と攻撃が加えられる。

「対星獣爆縮弾、装填!!」

一際大きな砲台に、特大の砲弾が装填された。

ジョージさんがかき集めた火薬を、生産系魔法で超圧縮して作り出した切り札だ。


対星獣爆縮弾は通常の火薬では爆発しない。

射出前に大量の火のマナを注ぎ込む必要があるのだ。

ジョージさんの号令で、魔術師達がマナを込め始める。


巨体が暴れ回り、大地に亀裂が走る。

凄まじい膂力だ。

アルデバランは引き摺り込まれた下半身を強引に、大地ごと動こうとしていた。


俺たちの集中砲火も、全く足止めにならない。

豪風と共に土煙が晴れた。

怒り狂う怪物が牙を剥く。


「マナ充填完了!」

「よし… 全員退避!対星獣爆縮弾…発射!!」

ズドンッと腹を突き抜けるような音と共に、対星獣爆縮弾が発射された。


砲弾は空中で起爆シーケンスに入る。

外殻に注入されたマナが熱暴走を起こし、内部へと爆発。

全方向から加えられた高熱で、中心部は凄まじい熱量となる。

その熱量で、中心部の超圧縮爆薬がようやく目を覚ます。


凶悪な暴威を孕んだ弾頭が、アルデバランに直撃した。

直後、眩い光と衝撃が吹き荒れる。

俺は後ろからの暴風で、吹っ飛ばされた。

転がりながら振り返る。


黒々とした煙で視界が遮られている。

その中に...大きな影。

「これでも駄目か...」


怒り狂った咆哮。

黒煙の中心が、急激に明るくなっていく。

「あれは...やばい!!」

光点は見る間に大きく、熱く育っていった。


「対星獣爆縮弾の準備は!」

ジョージさんが叫んだ。

「1発は装填済みです...もう1発はまだマナが足りません!」


「わかった。お前達は最後の1発を持ってすぐに逃げろ。」

「えっ?でも…隊長は…?」

「俺はあいつに借りを返さなきゃならん。これは命令だ。行け!」

そう言ってジョージさんは1人、砲台を操作し始めた。


「しかし…!!」

「俺があれを止める。そうしなきゃ全滅だ。だがその後、奴を倒さなきゃならん。その時に備えて、無駄な犠牲は出せない。だから、残るのは俺1人だ。」

「隊長…」


「言っておくが、残される方が大変なんだ。俺はひどい隊長なんだよ。さあ、行け!生き延びてあいつを倒せ!」

「…わかりました。必ず。」


既に光点は火球となり、やがて太陽として顕現しつつあった。

俺たちはジョージさんの命令通り、最後の砲弾を持って必死で走った。

後ろは振り返らなかった。

あの太陽は必ずジョージさんが破壊してくれる。

俺たちが考えるべきは、その後のことだからだ。


背後で、対星獣爆縮弾が火を噴く音がした。

盾を地面に突き立て、身を屈めてその影に隠れる。

直後、溢れかえる光の渦が、世界を白一色に染め上げた。

熱と暴風に必死で耐える。

気の遠くなるような、長い長い一瞬が過ぎ去った。


生きている。

俺は恐る恐る盾を出た。

太陽は消え、アルデバランが地に伏している。

俺たちが先程までいた丘は更地になってしまっていた。


ジョージさんを探す。

見つからない。

何度も探すが、そもそも隠れるような場所が無くなっているのだ。

ジョージさんは消えてしまった。

そして…


「畜生が…!お前なんなんだよ!」

アルデバランがパチリと目を開けた。

大きく伸び上がり、吠える。

多少は効いたようだが、それでも倒すには程遠い。


大地を砕き、アルデバランが迫ってくる。

俺は必死で奴を倒す方法を考えた。

ジョージさんの死を無駄にしないために。

しかし…無理だ。

どうあがいても奴を倒せるイメージが沸かなかった。


あたりをすっぽりと影が覆う。

見上げても奴の膝くらいまでしか見えない。

「クロエ、ごめん…」

俺が死を覚悟したその時。


「オーバード・バースト!!」

青い閃光と共に、待ち望んだあの人が帰って来たのだった。

読んでくださっている方、ブックマークして下さった方、評価つけて下さった方、いつもありがとうございます☆

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